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大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

学力調査と,秋田の学力向上に対する取り組み

名ばかり大学生 日本型教育制度の終焉 (光文社新書)

名ばかり大学生 日本型教育制度の終焉 (光文社新書)

タイトルにひかれて購入し,1章を読んで,挫折しそうになりました.
高校生に対する学力調査の方法と問題で,のけぞりました.英国数3科目合わせて50分*1で,英語はstrangerが2回(strangeも1回)出てくる上に並べ替え問題は「1語不要」というのがあったりなかったり,数学の後半は手間を要する上に高校の授業では目にすることがないものばかりという,こんな練られていない出題をもとに『これらは中学初級レベルの問題である』(p.27)と言われてもなあ,と気分が滅入ったのでした.
出題に関わったのは「全国学力研究会」(p.12)というところだそうで,Webでほどなく見つかり,著者との関係も理解しました.著書リストを見たところ,予備校教師が教育問題に手を伸ばし,中学や高校で何をどのようにして学べばよいかをすっ飛ばして,入試対策に取り組んでいるように感じました*2
教育についての自分の立場を久しぶりに書いておきますと,大学の教員で,100%自分が担当する講義を2つと,複数教員で分担している科目をいくつか受け持っています.
100%担当の科目については,授業資料は原則Web公開しており,試験問題も解答・解説も公表しています.試験問題は,自分一人でチェックしていますので,結果的に悪問と言わざるを得ない問題もありますし,採点時に,間違ったことを教えたと気づくことだってあります.過去問と類似の問題を出して,正解率を比較することもありますが,学力を見るというよりは,自分の教え方,学生への伝わり方の確認が主です.
学生は総じて真面目で,成績の20〜25%を占めるレポートを提出して,その上で試験を受けて落ちるのはごくわずかです.情報セキュリティという科目で,RSAと関連して教える,拡張ユークリッドの互除法は,授業で1回,試験直前に1回,こちらで問題を解いて,それから試験で解いてもらいます.
大学論や教育論に関する,新書や比較的軽い本を好んで読みます.教育と社会,といったテーマよりも,児童・生徒・学生への教え方,問題の出し方(問題文)に目が行きます.全国学力テストも,主にその方向から関心を持ち,今では,全国学力テストと名のつく新聞記事やWebの情報をチェックする習慣がついています.
冒頭の本に,全国学力テスト関連の話題が書かれていました.秋田県の話です.

「なぜこんなに良かったのか,はっきりしたことは分からない」が本音だとあるが,当事者だからこそわからないこともある.だが全体を俯瞰すると,「なぜ秋田が?」について,一応の仮説が成り立つ.
(略)
一方「算数・数学学力向上推進班」の活動は特異である.この活動は,端的に言えば,全県同じ教材・プリントを使って,その出来具合を精査するというものである.
どうしてこのような政策が始まったのかは不明だが,秋田では算数に関して同一の教材を使い,その結果を「中央」が集約・分析し,現場にフィードバックしている.
当然のことだが,全体の学力を上げようとする際,子供に競わせるほど愚かなことはない.勝ちと負けが生じれば,負けた側は勉強をやめてしまい,全体の底上げなどできるはずもないからだ.
つまり,全体の学力を上げるための最大の決め手は,全員が同じ教材に取り組み,その結果を集約し,苦手な部分を抽出したうえで改めて教師が指導し直すという,落ちこぼれを作り出さない仕組みである.
(略) ならば,全体の学力を上げるには底上げを図ることが重要であり,子供のつまずきがどこで起こるのか,またそれに対してどう対処すればいいのかを大人が競って研究することが大切なのである.つまり,競うのは大人であって,子供ではない.
また,全県で同一の教材を使うということは,多くの教師の目に同じものがさらされるため,絶えざるバージョンアップとあるべき対処法の錬磨が可能になる.
(pp.136-137)

教育,特に小中学校で教育に携わる方にとっては,この中の『落ちこぼれを作り出さない仕組み』や『競うのは大人であって,子供ではない』のところに,「そうなんだよね」と共感を覚えたり,「それが(うちの学校で)できれば苦労しないんだが」といった苦々しさを感じたりするんだろうなと思いました.しかしながら,私の最大の関心は『全県で同一の教材』と『絶えざるバージョンアップとあるべき対処法の錬磨』のところです.
再び,自分の学生指導に話を戻すのですが,2年前から,複数教員が連携して,プログラミングの補習科目を実施しています*3.さまざまな制約*4の結果,当番制で一人の作る問題を他の教員がチェックして,それから学生に解いてもらうという体勢ができています.そろそろあの科目の計画を立てないといけません.

*1:数学が0点というのは,「数学ができない」だけでなく「数学を解く優先順位を下げた」という可能性も考えられます.

*2:この1冊だけで語るのは乱暴かもしれませんが,著者のまわりに小中高大の教諭・教員がいて,著者の教育論を言うだけでなく,そういった先生方からの声や雰囲気を受け取り,それをベースにして,入念な資料分析のもとで書かれれば,自分の周囲の人に勧めたくなるような内容になるんだろなという思いです.

*3:複数教員によるプログラミングの補習は,19962006年後期に始まりました.当日記でも,19962006年10月〜12月に,いくつかこの件のエントリを書いています.…4月22日に修正.10年間違えていた.1996年って,まだ学生だよ!

*4:制約が教育活動の足枷になっている,というよりは,制約を設け,教員間で常時確認することで,効果的・効率的な教育活動を行っているとお考えください.