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質問対策2

考え直してみました.

疑問・質問を持たなくても,卒業論文は書けるのでは?

研究室に配属された学生に,卒業論文を書かせて社会に送り出すまでの間,教員が学生に何を与えられるかを考えてみます.「何を」は知識や技能などの無形物でしょうね.「与える」は「教え授ける」に置き換えるほうが,いいのかもしれません.
そうしたときに,「疑問・質問を持つ能力」は,あったほうがいいけれど,卒業論文を書き上げるには必ずしも必要でなく,社会に出てもすぐに使えないのではないかと,思っています.
卒業論文を完成させ,卒業研究発表会の場でプレゼンをして先生からの質問に対応するまでなら,本人の認識と,教員の配慮によって,大丈夫でしょう.
学生本人が,「疑問・質問を持つ能力」が欠落している,またはその能力に乏しいことを,認識しておくことは,大事だと思います.ゼミで先生/先輩/同学年の人は,私にも,私以外の学生にもたくさん質問をしているのに,自分にはできないなあ,という程度でかまいません.
ここで思考実験として,別の能力を考えてみます.PCのキーボードを,左右の人差し指でしか打てないとして,卒業研究を遂行できるのでしょうか.留年せずに.
これについても,本人の認識と,教員の配慮があれば,苦労はするだろうけど問題はないのではと考えます.
そこでの本人の認識は,研究室で同学年の人/先輩/先生は,10本の指を巧みに動かしてコマンドを打ち込んでいるけど,自分にはできないなあ,ぽち,ぽち,といったところでしょうか.
教員の配慮についてですが,ぽち,ぽちな学生を研究室で見かけたら,まず面談でしょう.できない理由を探ります.タイピングを教わっていなければ,その学生のPCでブラウザを起動させ,タッチタイピングを学べるサイトを見つけ,ブックマークさせます.教員はこの作業を見ながら,「キーボード操作だけが下手なのか,ブラウザ利用や検索を含めた,計算機の利用が下手なのか」を見きわめます.それはそれとして,期待するページは,すぐに見つかるとは限りません.目指せ「究極のタイピング」、指の動きのムダを減らすヒント - GIGAZINEなんてのに出くわすのも,いいじゃありませんか.
身体的,または何らかの理由で,ぽち,ぽちから変えられそうになければ,それを理解した上で,卒業までの道のりについてアドバイスしないといけません.他の学生よりも,計算機の使用にかなりの時間を要し,特に卒業論文の取りまとめ(執筆)の段階で苦労するであろうことを伝え,しかしそれは,他の卒研生よりも早く書き始めればいいだけのことだし,ある点で標準的な技能を持てないなら,他の点で埋め合わせるようにしましょう,といった形で励ましたいところです.そして,中長期的(といっても,本人が卒業するまでですが)に,その埋め合わせられそうな能力を見つけることにしていきます.
計算機の利用が下手な学生への対応については,今回は割愛したいと思います.
それで「疑問・質問を持つ能力」に戻しますが,これも同じではないかと考えたのです.
流れとしては,まず,質問を一切しない学生を見つけます.ゼミで発表内容に対して何を尋ねようかしか考えない教員では,まずいということになります*1
次に面談です.「ゼミで質問をしていないのが,気になってるんやが…」あたりから切り出しましょうか*2
ここで「身体的な理由」というのは,声を出せないくらいしか考えられず,それは研究室配属時点で分かっているので検討から除外します.心理的な理由でしょうね.ここでも対話をして,何ができるかを引き出します.「キーボード操作だけが下手なのか,ブラウザ利用や検索を含めた,計算機の利用が下手なのか」に相当するのは,「一対一なら質問が出せるか,一対一でも出せないか」でしょうね.
一対一,すなわち指導教員との対話でなら疑問・質問を表明できる学生に対しては,まず「それだけ言えるなら,自分の卒業研究は,大丈夫ですよ」と言うことですね.ゼミの点数が,出席と自分の発表のほか,質問点も入って決まる場合には,成績は少々低くなるけれど,合格点を取れればいいじゃないかと伝えます.ゼミで質問をしそうな芽のある学生には,0回質問と1回質問で点数が大部違うらしいので,1回くらいは手を挙げてみないかと,ハッタリをかまします*3
一対一でも出そうにない場合は,深刻にとらえたいところですが,本人も自覚しているわけですし,そうもいきません.教員側でできることは,その後も一対一の対話を実施し,「疑問」の例を教員が言い,その答えはときには教員が言い,ときには学生に答えさせます(あるいは調べさせます).「質問と答えのペア」を書かせます.書いた内容はチェックし,必要なら書き直させます.数がたまったら,全体を見直し,質問の間の関連性を見つけたり…食べ物の好き嫌いと同じように,ほぼ同じ質問を何度もしていることも,あるかもしれませんね…,名称をつけたりして,質問の類型*4を作ります.
卒業研究を(研究者が行う)研究の真似事,ととらえるなら,こういう形で「(教員が行うような)疑問を作る真似事」をするのも,別段悪くないのではないでしょうか.

補足

本エントリの趣旨は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20100215/1266186089#c1266232838に書いた

  • 学生ではなく我々の視点で,考えてみます:「学生が質問を思いつけない」と,我々教員が認識するのは,どんなときでしょうか?
  • シチュエーションを,少し変えてみます:研究室に配属した学生が,実はキーボードを,左右の人差し指でしか打たない場合はどうすれば良いのでしょう?

に対して,自分なりに答えを表してみること,でした.
少し補足をすると,「クラス(講義またはゼミ)で学生たちが質問をしない」と「指導する学生が,ゼミでこれまで1回も質問をしない」というのは,それぞれ対策が違ってきそうです.前回はこの前者,今回は後者に焦点を当てて対策を書きました*5
手元に『インストラクショナルデザイン―教師のためのルールブック』を置いて,書き進めました.「インストラクションとは // 何かの行動を引き出すための仕掛けである」(p.7)が,箱囲みになっています.学生が疑問を持ち,質問という形で表明するという「行動」を,教員が支援するのは,まさにインストラクションです.
もう一つ,引用します(p.94.原文は図で書かれている).

  • 第1チェックポイント:何をすべきなのか,どうすればできるのか,なぜしなければならないかを伝えればできるか?
    • はいなら,原因は<知識>にあります.解決策は<インストラクション>です.
    • いいえなら,第2チェックポイントへ.
  • 2チェックポイント:練習したり,誰かに手伝ってもらったり,道具を使えばできるか?
    • はいなら,原因は<技能>にあります.解決策は<インストラクション>です.
    • いいえなら,原因は<動機付け>にあります.解決策は<パフォーマンスマネジメント>です.

キーボード操作にも,質問をさせることにも,他の種類の習得にも使えそうです.

*1:自戒の念をこめて.

*2:「ゼミでいっこも質問してないやないの! ぼおっと座ってるだけやったらあかんで! 他の人の研究に疑問を持たんかって,なんで自分のんに疑問を持って研究できるの!」なんて説教はダメです.再度,自戒の念をこめて.

*3:作文してみる:「かつて他の先生と一緒に,ゼミの採点をしたときにね,客観的にしましょうとなって,質問回数を記録して,集計していたことがあってやね.んで質問を1回もしなかった学生は,5点減点しましょうとなったんです.今はそのルールをしているかどうか分からないけど,そういう集計をしなくても,期間中に1回も質問をしない学生というのは,1回だけした学生,積極的にしている学生とは別に,目立つものなんですよ.変な言い方だけど,目立つのがいやなら,いっぺん,質問してみてな」.

*4:教員の持つ質問の類型,例えば質問の型をいくつか持っておくと便利 - 発声練習いい質問を作り出す5つ+4つのアイデア - わさっきなんてのとは,明らかに違う種類の情報になります.

*5:その中間として,「指導する学生が,(ある回の)ゼミで質問をしない」というのも,考えるべきなのかもしれません.