わさっきhb

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分かりやすく抽象的に・2010年11月バージョン

いきなりですが問題です.

5×3≠3×5の論争について,あなたの見解を,分かりやすく抽象的に表してください.

簡潔に表すなら,「束(lattice)」かなと思います.図にするとこう.

各文字の意味は次のとおりです.

  • a ≡ 後述のbの求め方で得られる「3×5」,cの求め方で得られる「5×3」を比較し,cの書き方だとdと誤解される可能性を考慮してbの求め方を採用し,「しき」に「3×5=15」と書く.
  • b ≡ 問題文から,「1つ分の大きさ」が(1皿あたり)3個,「いくつ分」が5枚であるのを読み取り,「しき」に「3×5=15」と書く.
  • c ≡ 問題文から,皿に順にりんごを配ること*1をイメージし,「1つ分の大きさ」が(1回で配る)5個,「いくつ分」が3回であると解釈し,「しき」に「5×3=15」と書く.
  • d ≡ 問題文から,かけ算で計算できる問題だと認識し,問題文に現れる数字のうち5と3を順に取り出して,「しき」に「5×3=15」と書く.
  • e ≡ その他の誤答(白紙,数字の書き間違いなど)

これらは,もとの問題に対する,「しき」の書き方の類型です.ただし,以下の議論のための類型であって,すべてではありません.例えば,「bとcの求め方を比較して,最終的に「5×3=15」と書く」や「dの求め方で「5×3=15」と書きたくなるところだけど,これは引っかけ問題だと認識して,(「1つ分の大きさ」「いくつ分」の当てはめをすることなく)「3×5=15」と書く」も考えられますが,検討の対象外としています.
さて,このようにラベルをつけたa,b,c,d,eの間で,「x>y」を「yの求め方よりもxの求め方のほうが望ましい」という関係と定義します.すると,次の関係が成り立ちそうです.
a>b,a>c,b>d,c>d,d>e
「成り立ちそうです」としたのは,他にも関係を付け加えたり,あるいは関係を取り除いたりする余地があるからです.例えば,bで十分なら,「a>b」の関係は取り除きたくなるわけです.
bとcの間には,b>c,c>bのいずれの関係もありません.この点に注意すると,上記の5つの不等式は,上の図からも分かるように,全順序関係ではなく半順序関係になります.x=yまたはx>yであることを「x≧y」と書くと,束をなします.
次に,マルバツの仕方について,定式化を試みます.
P={a,b,c,d,e}
M={1,0}
と集合を定めると,正解・不正解を与えるのは,関数s:P→Mです.例の問題について,推測できる関数は,
s(a)=1, s(b)=1, s(c)=0, s(d)=0, s(e)=0
です.また,cも正解だと主張する人々は,
s(a)=1, s(b)=1, s(c)=1, s(d)=0, s(e)=0
もしくは
s(a)=1, s(b)=1, s(c)=1, s(d)=1, s(e)=0
を期待するわけです.
この関数sについてはまた後で見直すとして,別の種類の関数を考えます.まずAを,「しき」に書くことのできる全ての記述からなる集合とします.すると,関数f:P-{e}→Aが得られます.具体的には,
f(a)="3×5=15",
f(b)="3×5=15",
f(c)="5×3=15",
f(d)="5×3=15"
です.f(e)は一意に定まらないので除外します.
さらに,関数t:A→Mを作ることができます.「しき」から見たマルかバツであり,学校の先生が実施したマルバツ作業に対応します.実際のところ
t("3×5=15")=1,
t("5×3=15")=0,
t(それ以外)=0
ですね.公平のため,cも正解だと主張する人々は,
t("3×5=15")=1,
t("5×3=15")=1,
t(それ以外)=0
であることを,忘れるわけにはいきません.
最後に,f;t(x)=t(f(x))とすると,f;t*2はfとtの合成関数であり,f;t:P-{e}→Mです.その定義域においてf;t(x)=s(x)が期待され,途中に書いたs(a)=1, s(b)=1, s(c)=1, s(d)=0, s(e)=0は不適切となります.これは,cの求め方による「5×3=15」と,dの求め方による「5×3=15」は,区別できないことを示しています.
以上の定式化で,cを正解とすべきか否かに対する答えを与えることはできません.私にできるのは,cの求め方で答えを書いてバツをもらったという子に対しては,aに進みなさい,dやeだった子はbを目指しなさいと,アドバイスするのみです.

補足2: 記号などの意味

  • a〜e:ラベル
  • x, y:変数
  • P:Process
  • M:Mark
  • 1:正解(マル), 0:不正解(バツ
  • s:scoring
  • A:Answer
  • f:formulation
  • t:sの次

補足3: 図の作り方

例えばUbuntugraphvizをインストールして,

$ cat > lattice5335.dot
graph lattice5335 {
  a -- b;
  a -- c;
  b -- d;
  c -- d;
  d -- e;
}
(Ctrl+Dで終了)
$ dot -Tpng lattice5335.dot -o lattice5335.png

*1:誤解されず,かつ最も簡潔にこの操作を記述するにはどうすればいいか,思案中….

*2:wikipedia:写像の合成.小さい丸が使えないもので.