わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

先生と児童とで

Scene 1

さらが 5まい あります。
1さらに りんごが 3こずつ のって います。
りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

C 「5×3=15」って,バツなの?
T そうだよ.なんでそんな式を作ったの?
C 先生,トランプ配りって知らないの? お皿に1個ずつ乗せるのが1回で,5個になって,それを3回やったら,5×3=15って書けるんだよ.
T ああそれ,知ってるよ.でも「5×3=15」って書いただけでは分からないんだな.この式はね,1個のりんごに5枚ずつお皿が乗ってて,そんなりんごが3個ある,って読めてしまうんだ.
C そんなのおかしいよお.

Scene 2

ボートが 3そう あります。
1そうに 2人ずつ のって います。
ぜんぶで 何人 のって いますか。

T 図をかきましたか?
C はい.
T ではそれを使って,かけ算の式を書きましょう.「一つ分の大きさ」は,どれですか?
C 2人ずつの「2」です.
T そのとおり.「いくつ分」のほうは?
C 3そうの「3」です.
T そうですね.なので(黒板に書く)…式は,「2×3」です.
C 先生,思うんだけど…
T 何かな?
C まず,ボートを3そう,置いとくんです.
T …それで?
C で,ボートに1人ずつ,人を乗せます.
T 1人ずつ乗せたら,ぜんぶで3人だね.
C もう1回,同じことをします.
T ボートをまた3そう,持って来るのかな?
C じゃなくて! 1人ずつ乗ってたボートに,2人目を乗せるんです.
T 乗ったんだね.するとどうなる?
C そしたら,「一つ分の大きさ」は3人の「3」,「いくつ分」は2回の「2」になります.
T これでも,かけ算の式ができるってことかな.式は,どうなる?
C はい,「3×2」です.
T みんな.この子がどう考えて,答えをつくったか,分かったかな.
T 先生は,こうやって考えることができるのを大事にしたいと思います.でも,こう考えるだけではまずいということも,言わないといけません.
C まずいの?
T そうです.さっき,3そうのボートに1人ずつ乗せたところで,先生,質問したよね.
C うん.
T そのとき,ボートに乗っている人は,何を思っていたかな?
C え? …早く次の人,乗ってよ,かなあ.
T そうなんですね.こういうのを,「まちどおしい」と言います.でもそれだけじゃないんです.分かるかな?
(間)
T 2人乗りのボートで,1人しか乗っていなくて,まだ出発できなくて,泊まっているってのは,ふらふらしてるんです.ボートが.乗り方を間違えると,ボートがひっくり返るかもしれない.
C ずぶ濡れになるよ!
T 乗る人はそうだし,ボートを貸す人からすれば,事故だよね.
C うん…
T だからそんな乗り方はしない.空きのボートが来たら,2人乗って,すぐ出発.次のボートに,2人乗って,また出発…
C 3そうめのボートに,最後の2人が乗って,出発ってことだよね.
T そう.

Scene 3

C 先生,ボク,すごいこと思いついた!
T ほう,教えてくれるかな.
C うん.さっき,「5×3=15」は間違い,「3×5=15」は正解だったでしょ.
T そうだね.
C 正解のほう,かけられる数と答えが「3個」と「15個」,かける数が「5枚」なんだ.
T うん,うん…
C ドリルの問題も見たんだ.ぜんぶ,かけられる数と答え(に付く単位)は,おんなじ!
T 面白いところに気づいたね.
C うん,もうこれで文章題はバッチリだ!
T じゃあこの問題で,式を立ててくれるかな?

おなじ おおきさの がようしが 8まい あります.
1まいの がようしから 4まいの カードを つくります.
ぜんぶで 何まいの カードを つくることが できますか.

C え…
T 「8×4=32」かな? 「4×8=32」かな?

補足

Scene 1とScene 2はトランプ配り,Scene 3はサンドイッチに関する会話です.
どれにも補足説明が必要なのですが,さしあたりScene 3のみ.これを書いた背景には,サンドイッチを教育に取り入れるのはくだらないという主張がある中,もし児童が,サンドイッチの考え方すなわち(小学校2年生のかけ算を学習する段階の文章題で)かけられる数と積の単位を同じにすればいいことを発見し,親なり先生なりに言ったとき,どのような対応が求められるのか,という問題意識があります.
上記で,かけられる数もかける数も,単位が「枚」で,紛らわしいという問題を挙げていますが,私自身は,この出題の仕方には賛成ではありません.

Scene 1の補足

(翌晩追記)
オリジナルの話には,続きがあります.

ま,児童が先生をやり込めるシナリオも,書いてみますか.

児童「先生,「5×3=15」って,バツなの?」
先生「そうだよ.だってその式,1個のりんごに5枚ずつお皿が乗ってて,そんなりんごが3個ある,ってことだもん」
児童「でもね先生,トランプ配りってのがあるんだ.お皿に1個ずつ乗せるのが1回で,5個になって,それを3回やったら,5×3=15って書けるんだよ」
先生「ふむぅ」

射影

これと,先に書いたScene 1と,どちらが先生と児童との会話としてあり得そうかというと,Scene 1のほうです.
この問題では,先生が,児童の答案やその根拠を---トランプ配りを含めて---予想することができます.そして,先生の望む方向に持っていくには,まず根拠を言わせるというのが,いわば一つのテクニックとなるわけです.なお,「先生の望む方向」とは「5×3=15をバツにする」ではなく「5×3=15は,その場面を適切に表していない(誤解され得る)」です.
ちなみに準備・予想ができない状況であっても,先生は,想定していなかった児童の答えや言動に対して,どのように考えたのかを“引き出したい”という欲求があるのではないか,とも考えます.大学教育ですが,かつて書いたのを引用します.

タイプBの学習において,教師はですね,「知識の供給源」と言えます.すなわち,自分で十分考えたり手を動かしたりして…ノートに書く,パソコンでタイプするだけでなく,辞書を引いたりGoogleで調べたりすることを含めるべきでしょうね…ここまでうまくいった,だけどここが何かおかしい,というときに,先生に報告・相談すれば,おかしそうな箇所を根拠付きで指摘してくれたり,これこれをキーワードに調べてみるとどうかなといった提案がもらえたりします.

タイプA学習,タイプB学習