わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

□×△と△×□,答えは同じだけど,意味は違う

いきなりですが問題です.

カントールの言葉に,「数学の本質はその自由性にあり」とあります.かけ算の順序の話にも,当てはまると思いませんか?

さっそくですが回答です.

  • ええ,いいんじゃないでしょうか.「3×5という式で表される場面の集合」と「5×3という式で表される場面の集合」とが異なるような体系を構築する自由も,あるってことですから.

1. 「答えは同じ,意味が違う」とは

「3×5と5×3,答えは同じだけど,意味は違う」とはから転載します.
「式xで表される場面の集合」を S_x_ と書くことにします.そして,

  • s1:“さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。”
  • s2:“1さらに りんごが 3こずつ のって います。そんな さらが 5まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。”
  • s3:“5枚の皿に3個ずつ乗った林檎の総数”
  • s4:“さらが 3まい あります。1さらに りんごが 5こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。”
  • s5:“1さらに りんごが 5こずつ のって います。そんな さらが 3まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。”
  • s6:“3枚の皿に5個ずつ乗った林檎の総数”

と,6つの場面を設定すると,次のようになります.

aとbを相異なる数とします.小学校の2年すなわちかけ算を学習している段階で,学級内で共有されているのは S_a×b_≠S_b×a_ です.これは,

  • s1, s2, s3 ∈ S_3×5_
  • s4, s5, s6 ∈ S_5×3_

であるのに加えて,

  • s1, s2, s3 \not\in S_5×3_
  • s4, s5, s6 \not\in S_3×5_

となるからです.
「かけ算には順序がない」という信念あるいは判断基準のもとでは

  • s1, s2, s3 ∈ S_3×5_
  • s4, s5, s6 ∈ S_5×3_

であるのに加えて,

  • s1, s2, s3 ∈ S_5×3_
  • s4, s5, s6 ∈ S_3×5_

となります.なので,S_a×b_=S_b×a_ として良さそうです.
これらを比較すると,次のことが言えます.非順序派は,一つの式で表せる対象を,広くとることを重視します.それに対して,小学校の指導は,一つの式で表せる対象が,より狭くなりますので,被乗数・乗数を交換した式との「書き分け」が行えます.
「3×5と5×3は,答え(積)は同じだけど,意味は違う」というのも,3×5=5×3 および S_3×5_≠S_5×3_ によって表すことができます.

2. 図にする

□×△と△×□の違い,そしてその一例となる3×5と5×3の違いについて,かつて8マス関係表を考案し,アレイ図→問題文?「⇔」と「⇒」を付加でも検討を試みました.
ほんの少し,図に手を加えてみます.小学校の指導は

で表すことができます(「図1」と呼びます).これをもとに,非順序派の考え方は,

となります(同「図2」).
ですが,それぞれの図に対して,少し注意が必要です.まず図1に入っている,囲い込みありのアレイは,図全体を簡潔にするとともに変更しやすく(被乗数・乗数が変わっても図示しやすく)するために採用したものであり,画像サイズの制限を無視すれば,横一列に15個並べ,3個ずつ・5個ずつに分けるという絵に置き換えても,差し支えありません.
図2でも,アレイは本質ではなく,囲い込みなしの15個横一列だとか,上で定義した文字を使った「S_3×5_=S_5×3_」という等式(小学生向けには「3×5=5×3」でしょうか),あるいはもっと単純に「同じ」という2文字で,アレイ図のところを置き換えることが可能です.
これらの図に対して,右2列分を取り出します(同「図3」,「図4」).


そうすると,この2つは,小学校のかけ算の学習でも,うかがい知ることのできる図式となっています.後者を言葉で表すと,「3行5列の長方形的配列について,ドットの総数を求める式には,3×5と5×3の2つがある」です.
したがって,小学校では図1,図3,図4の図式が認められます.図2と図4を比べることで,小学校の算数指導で認められないのは,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」や「1さらに りんごが 3こずつ のって います。そのような さらが 5まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」を,囲い込みなしのアレイに対応づける箇所にある,と言えそうです.

3. 子どもは?

ここまで検討したところで,子どもは「□×△と△×□の違い」をどう考え,式や言葉,図に表しているのかが,気になってきます.
これですが,以前に読もう!で,記述を拾い上げています.

「ベンチが5こあります。そこに6人ずつすわっています。ベンチにすわっている人は何人でしょう」
問題をつくったA男は,数字の順序で5×6としてしまった。*1
そこで「絵」を描かせると,「ああそうか」とA男は6×5の式が立てられた。

(『算数の教え方には法則がある』p.71)

今日の算数の時間に,21×3の計算の仕方を考えました。それで最初に,21×3でとける問題をつくってみました。ぼくはつくってもう1回読んだら,3×21になってしまっていたので,すぐ書き直しました。
(『「板書見ながら」算数作文―話すだけの授業からの脱却』p.6)

ブラジルに行ったときに6の目のサイコロを見せて,「サイコロの目の数はいくつですか」と言うと,みんな「6」と言った。「どうして6と考えたの」と尋ねるとある子が出てきて,「3×2」と書いたんです。これを3×2と見たわけを聞きました。私がどうしてそんなことを聞いたかというと,式の後ろに潜んでいる感覚は,日本語圏以外では普通意味が逆です。3×2と言えば,日本では「3個のかたまりが2個ある」という意味ですが,英語圏も中国語圏もみんな「3個ありますよ,2つのものが」という意味です。
(略)だから,3×2とブラジルの子が書いたから,あえてちゃんと聞いてみたいと思ったんですね。そうしたら,はじめに出てきて説明した子は3個ずつのかたまりを作ってそれが2つ分と言いました。おやっ,これは日本と同じだぞと思っていると,他の仲間みんなが違う違うと言うのです。要するに間違っていたのです。どこの国も同じですね,間違える子がいるのは。本当は2個のかたまりが3個分だと別の子が説明してくれました。
(『坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』p.138)

最後の文は,少し困惑しますが,前後関係や図から,「本当は2個のかたまりが3個分だ」を「書いた式(3×2)だと,2個のかたまりが3個分になる」と解釈すればよさそうです.そしてこの事例から,坪田先生が関わったブラジルの子どもたちが,2×3と3×2の意味の違いを理解している,と言っていいでしょう.
一つ,書籍を追加します.本そのものは,これまでも何度か取り上げています.Amazonマーケットプレイスで入手しました.

③式を見て絵題づくり
「3×2になる問題を絵で書いてごらん」といってやらせてみると,子どもたちは喜んで絵をかきます。
〔子どもがつくった3×2の絵題〕
(絵は省略)
ところが,2×3の絵題になっている子がいます.
*2
そこで,Mくんにたずねてみました.
T「○○パンの車の絵ね」
M「そう」
T「うまいねえ.きみ,このトラックの問題は何×何の問題?」
M「3×2」
T「そうか……じゃあ,このトラックの絵の横に,3×2のタイル図をかいてごらん」
M(わらばん紙の余白にフリーハンドで右の図をすらすらかく.)(タイル図は省略)
T「よし,じゃあ……かけ算のことばでいうと,①は? きみのはトラックだから」
M「1だいに3人」
T「〓〓*3は?」
M「2だい.あれ?」(自分の絵は1台に2人になっています.)
M「……」
だまって自分の机についたMくんは,こんどはつぎの絵をかいて持ってきました.

こんどは3×2の問題になっています.このように,かけ算の図のかき方がわかり,すいすい作図ができるようになっている子でも,かけ算の意味や,1あたり量の意味がしっかり身についていないことがあります.
(『さんすうの授業 第1階梯―自主編成研究講座 小学校1・2・3年生』pp.174-175)

4. 改めて,子どもは? そして先生は?

これらの本をもとに,集約を試みるなら,次の2点になりそうです.一つは,先生の(いわば上からの)指導だけでなく,子ども自身の見直し,また子どもたちどうしの会話を通じて,「□×△と△×□の違い」を子どもが確認しているという点です*4.そしてもう一つは,このような確認のプロセスが,「かけ算の意味の理解」の事例として,教師向けの本に書かれやすい点です.4冊の本が,向山型算数,筑波の算数,数教協&日教組と,まったく異なる母体からであるのも,無視するわけにはいきません.
先生の指導は多くの場合,子どもが被乗数・乗数が反対の式を書いた→その式の意味(式に対応づけられる図や状態など)を確かめさせる→子どもが反対だと気づいて式を修正する,という流れになります.これは一種のメンタリングです.かつて,学生向けにあなたもメンターを書いたことがあります.エッセンスを挙げておくと,「対話」,「助言」,そして「気づかせる」です.
なお,先生の指導による,「□×△と△×□の違い」の事例としては,算数についての評価も該当します.親から見た,子どもの考えを記した事例にhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2011/1210/467390.htm?o=2があり,当ブログでは教育現場に届かないダブスタ考で見ていきました.

あともうひとつ問題です.

あなたの書いていることはでたらめだ.

これについても回答です.

  • だとすると,“さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。”に対して5×3=15という式を書き,不正解にされた子が,その子なりに理由を説明し,正解になると主張したときに,先生が「あなたの言っていることはでたらめだ」と言って認めないことも,していいってことですよね.

なお,冒頭の問題文について,「数学の本質はその自由性にあり」を調べたところ,

を知りました.最後に挙げた本は,そのうち買って読むことにします.
(リリース:Wed Oct 10 06:24:19 2012ごろ)

(最終更新日時:Tue Oct 16 04:16:30 2012ごろ)

*1:引用者注:「文章題をつくって解く学習システム」からの1題.子どもに与える指示は,pp.68-69によると「おはなしの問題をつくってごらんなさい。」「おはなしにあう絵も描いてごらんなさい。」「式と答えも書きなさい。」.なので,ここの引用の文章題・式・絵はいずれもA男がつくった.

*2:引用者注:絵の左上には「1台に2人」とある.子どもが描いたものではないので,切り落とした.

*3:引用者注:タイル図における分量の部分

*4:これは,“さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。”という出題に5×3=15という式を書いて,バツをもらった子は,添えられた「3×5=15」という式と,それまでに授業で学んだことから,あ,そうだったと思い出す機会を得た,ということを意味しているように思います.「かけ算の順序論争」は,そういう学習の過程に焦点を当てさせないという点で,大人のディスカッションとなってしまっています.