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小学校の算数は解決を待っている魅力的な文章題でいっぱいだ

このたび,家庭教師をすることになりました.小学校2年生の子で,ご近所で頼まれました.一度,顔合わせをさせてもらっていまして,これまでの答案を見て,少し対話をしたところ,かけ算の文章題について,いわゆるトランプ配りで考えていることが分かりました.ここで『筑波大学附属小学校田中先生の 算数 絵解き文章題 (有名小学校メソッド)』で習熟させるというのは,家庭教師をする意味が乏しいので,採用しないことにします.もちろんフィクションです.
どのような問題を使って学習すれば*1,問題文にある「一つ分の大きさ」と「いくつ分」を読み取ることができるようになるかを,検討してみました.
トランプ配りの要所の一つは,「1あたり量」と「いくつ分」にあたる数を交換させることです.なので,交換がしにくいものを用意しましょう.具体的には,「連続量×分離量」のパターンです.連続量として,長さを使います.本から取ってくると,こんな感じ:

まっすぐな道にはたが立っています。
はたは6本です。
はたとはたの間は、どこも8mです。
はたのはしから、はしまで、何mでしょう。
(『算数好きにする教科書プラス 坪田算数2年生 (TEXT BOOK PLUS)』p.73)

池のまわりにはたが立っています。
はたは6本です。
はたとはたの間は、どこも8mです。
池のまわりは、何mでしょう。
(同)

それと,小学校学習指導要領解説 算数編のp.107,「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」も,挙げておきます.なぜこれが第3学年で出てくるのかというと,どうやら,第2学年では長さの「測定」までであり,長さに関する加減算・乗算といった「演算」は対象外となっているようです.かけ算と長さを学習すれば,第2学年の段階でも,授業で取り上げて差し支えなさそうに思います.
かけ算の式にするにあたり,ここまで書いた3問について,1つ分の大きさを「5m」「6m」「4cm」とするのは困難です.「できない」わけではないのですが「ひどく不自然」です.図にしてみると,こんな回りくどいことをして何をしたいんだろうという気になってきます.
分離量×分離量の範囲でも,トランプ配りを適用するのが現実的でないような場面,そして出題というのがあります.設問と,過去の雑記へのリンクです:

  • 「ボートが 3そう あります。1そうに 2人ずつ のって います。ぜんぶで 何人 のって いますか。」:8月2日9月4日2月7日3月1日
  • 「けんじさんのクラスは,全員で34人います。1人に15まいずつ半紙を配るとすると,全部で何まいいりますか。」:8月13日
  • 「4本の木に、それぞれ5つずつ花が咲いています。花はぜんぶでいくつ咲いているでしょうか。」*29月10日(授業案),11月25日(ふしぎな花のさく木)

半紙の問題に出現する数はともに2位数で,その乗法は第2学年の範囲を超えていますが,九九の範囲になるよう数値を変えることは,決して難しくありません.なお,各人に配られる半紙が1枚1枚区別できると,話が変わってきます*3が,それは別エントリで書く予定です.
なお,ここまで挙げた出題は,「トランプ配りを適用するのが困難・非実用的なもの」ばかりです.言ってみれば荒療治です.問題文から,答えに至るのに必要な数量を取り出し,かけ算に限らずなぜその演算が使用できる(その式で表せる)かチェックすること,かけられる数とかける数を反対に書くとどんな意味になってしまう(他の子や先生はどう理解することになる)かなどについて,共有することが不可欠です.はじめは対話し,慣れてくればshow and tellとしたいところです.
それと,「いくつ分」の数が先に出現する《BA型》ばかりなのは,学習上よくなく,《AB型》も織り交ぜるべきでしょう.文章題の素材集として,qq9gを見直すとともに,充実を図っていかないと….


トランプ配りは,手法としては興味深いし,等分除の説明として国内外で見られます.田中先生も,『算数授業研究 77 特集:まるごと1冊新内容の算数授業!ここがポイント』p.69で,パソコンを使って動きを見せたという試みを紹介しています.
乗法の場面として,トランプ配りの考え方がなぜまずいのかというと,個人的には次の点が大きいと考えています.すなわち,「5×3」という式が,「5個ずつ3人に」だけでなく「5人に3個ずつ」を表すことになります.どちらか特定するには,追加で約束事が必要になります.別の言い方をすると,式の簡潔さを損なうのです.
“「5×3」という式が,「5個ずつ3人に」だけでなく「5人に3個ずつ」を表す”は,次の流れで説明できます.まず,「場面αを表す式として,a×bとb×aの両方がある」を仮定します.それをもとに,別の類似した場面α'を用意し,「場面α'を表す式として,a×bとb×aの両方がある」ことを確認します.それらから,「a×bが,場面αだけでなく場面α'を表す」と持っていきます.このロジックにおいて,トランプ配りは決定的なものではなく,例えば乗法の交換法則を根拠としても,同じことが言えます.
「約束事を追加する」のと「『場面αを表す式として,a×bとb×aの両方がある』を採用しない」のとの間で,是非を論じるのも,いいかもしれませんね.もちろん私は後者に賛成です.どれだけ約束事を追加しないといけないのか,想像できませんので.
ここまでの「場面α」について,乗法の式で表せる(2数a,bが存在しa×bで表せる)という条件では不十分で,積の乗法の場面は除外する必要があります.第2学年で学習する中でいうと,アレイ図でドットの総数を数える場面です.例えば以下については,3×4と4×3が考えられます.実際,目にした多くの問題集で,これに対して複数の式が書けるよう配慮されています.

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6×8は正解でも8×6はバッテン?あるいは算数のガラパゴス性:プロジェクトマジック:オルタナティブ・ブログの本文おわりのところで,この図が見られます.元の文章題とこれとの同一視はありがちな話で,遠山啓も論拠に使っていますが,「積の乗法」と「倍の乗法」に分けて考えましょうというのが,これまでの当雑記のスタンスです.
この図にはもう一つの教育的価値があります.ここから,2×6や6×2も見出せないといけません.小学校で学習している範囲の知識を使うこととし,かつ●は移動させない(配置は変更しない)としてもです.
テキストベースで,2×6の根拠を書いておきます.

AADD
BBEE
CCFF

児童向けには,紙に書き,丸で囲い込ませることになるでしょう.
こういうグルーピング(「一つ分の大きさ」と「いくつ分」の発見)ができ,この場面で「2×6」も答えの一つであると認識できる子を,育てていきたいものです.


本日は,学校教育の乗法の意味を前提として,子どもにどのように身につけさせるかを書きました.学校教育の乗法の意味づけの妥当性についても議論は多数ありますが,現在の指導方法がおかしいという人が具体的な指導方法まで落とし込んだもの*4を提案していない点と,かつて[中島1968b]とラベリングした文献の内容が,現在においても重要な位置を占めるように思うのに,誰も読まれていない点には,残念な感があります.


タイトルは,ハッカーになろうからのもじりです.

*1:そこから対話をして,理解(の変化)を確認していくことも大事なのですが,本日は省略します.気になる人は,フィクションですしCプログラミングの話ですが,2008年8月3日で「ポインタを実感」の周辺をご覧ください.

*2:板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』p.49を変更.もとの出題は「4本の木に、それぞれ5こずつリンゴがなっています。リンゴはぜんぶでいくつでしょうか。」

*3:場合の数の問題で,「4チームを2チームずつに分ける」と「4チームのうち2チームを第1試合に,残り2チームを第2試合に対戦するよう分ける」と「4チームを『第1試合の一塁側』『第1試合の三塁側』『第2試合の一塁側』『第2試合の三塁側』に割り振る」とで,それぞれ場面が異なりますし,何通りになるかも違います.

*4:学習指導案」の形でなくてもかまいません.ただし,既習事項と,そこれの学習が他の単元や上の学年でどのように活用されるかについて,言及がなければ,「そこまでか」です.