某年月日,実母に,うえの子を預かってもらうことになりました.
場所は南海和歌山市駅です.いつもなら,そこまで車で行くのですが,その日は平日でして,家庭内リソースの都合により,私がうえの子を連れて行くことになりました.
行き方自体は,決して難しくありません.貴志川線(最寄り駅から和歌山駅まで)とJR(和歌山駅から和歌山市駅まで)を乗り継ぎます.引き渡せば,その後こちらは,和歌山大学前駅まで行き,徒歩で大学です.
そんな2人が市駅に着いたのは,8:16.しかし,あっちのおばあちゃんは見当たりません.
車で来ると思って,駅ビルを出たところで待っていたとしたら,ちょっと厄介です.自分は市駅の,JRと南海をつなぐ改札のところで,PITAPAを使って南海の入札手続きをしてしまっているのです*1.
難波行きの普通電車は8:20発,それを逃すと次は8:41発.あいだの特急8:32発では,和歌山大学前を通過してしまいます.と,自分の都合を考えていると…
多数の乗客が,階段かエスカレータを上がってやって来て,改札を通ろうとします.急行か特急が,着いたのでしょう.ほどなく,あっちのおばあちゃんを見つけました.
「ほなら今日は頼むで! 俺,普通電車に乗るから! あと1分ないねん!」
「あんた,お弁当つくったんで,食べてや!」
「え!?」
弁当の入った包みを脇に抱え,駆け込み乗車は危険と承知しつつも,走りました.なんとか8:20発に乗れました.
汗をかきながらもデスクワークをして,12時になったので,冷蔵庫から弁当の包みを取り出し,開きました.
海苔で巻かれた俵型のおにぎり3個,椎茸の煮物,鮭の切り身(子ども1口大),玉子とじ…そして巨峰3粒.
20年以上ぶりの弁当です.まぎれもなく,母の手作りです.巨峰が光っています.(ついでに,種なしでした.)
もちろん私のためだけにということはなく,母が,うえの子といっしょうに*2食べようと作る最中に,ついでや,あの子のンも用意したれ,といったところでしょう.
和歌山市行きのJRの車内で
「え!」
「ん? …ああ,指さしてんねんな.せやな,シートにいっぱい,絵ぇがかかれてるな」
「これ,ぱぱ!」
「えっと,まあ,横幅はでかいが,パパとちゃうぞ」
「…」
「よお見てみ,ここに,切れ目みたいなんが入ってるやろ」
「…」
「んで,黄色い細長いのんがでけててな.これが,杖やねん」
「つえ?」
「せや.まあ世話になりたないけどな.ともあれこれは,怪我をしている人をあらわすんや」
「ぱぱぁ」
「何かいいたそうやが,このシートには別の絵もあるなあ.これ,何や」
「まま!」
「んむ,4月にすえの子が生まれるまでの,ママかな.子どもがいて,お腹の大きいお母さん,な」
「…」
「この絵は分かるか?」
「まま?」
「せやな,むしろ今のママはこっちや.これは,子ども連れを表してて…あ,今のお前とパパが,ちょうどこの状態やな.我々,ここに座っててええんやで」
「やった!」
「けど,足を揺するのはええことないぞ.それであと絵は残り1つなんやが…これ,分かるか?」
「わからん」
「おい,投げやりになってきたなあ.これは,腰の曲がった人がな,杖をついてるねん」
「つえ!」
「さっきも言うたな.人が一人で歩くってのがつらいときには,杖を支えにして歩くんやな.ともあれ,この絵は,お年寄りになるんや」
「…」
「んでここは,優先座席っつー名称で,体の不死身な人,胎内の子どもに期待を抱いている人,生まれた子どもが飛んでいきそうなのでしっかりつかんで離さないお母さん,そして杖をついた腰の曲がった人々に,座ってもらおうって魂胆やねん.分かったかな?」
「わからん」
「それでよろしい」