(2019年6月追記)本記事の内容を見直すとともに,算数の教科書や授業の事例を取り入れ,以下にて再構成していますので,合わせてご覧ください.
1. 分離量と連続量(1)
小学校の算数だと多くの場合,整数が分離量に,小数と分数が連続量に対応づけられます.
本をみていきます.
(1) 分離量(離散量)と連続量
量は自然数(あるいは整数)と対応付けられる場合に「分離量」(または離散量)、実数と対応付けられる場合に「連続量」と呼ばれる。従来の科学での多くの量は連続量であるが、その近似値である測定値は離散量であり、近年コンピュータの発達とともに離散量の取り扱いの重要性が増している。
個数や人数など0を含む整数で表現できるものは「分離量」であり、長さ、時間、重さ、面積などは「連続量」である。量は正の実数(小学校においては正の有理数)に対応させることが可能であり、これによって大小・相等の比較ができる。
小学校算数科「量と測定」領域においては、長さ、面積、体積、時間、重さ、角の大きさ、速さなどの連続量、及び、メートル法の単位の仕組みを学習する。
(『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』p.136)
簡潔で,かつ小学校の先生向けの記述になっています.
教師でない者が読む際には,「量と測定」という領域に,注意を払うのがよいように思います.学習指導要領やその解説でも,領域に分けて説明されています.6学年5領域という分け方もあります.
もちろん,各領域が完全に分かれているわけではなく,学習指導要領をミニマム・エッセンシャルととらえるなら*1,長さの測定は第2学年なのに対し,長さを含む計算は,第3学年の「数と計算」の領域に入っています*2
引用の中に,コンピュータという言葉が入っているので,自分の経験を振り返ってみます.離散と連続の区別を学習したのは,大学1年の前期,学科の専門必修科目でした.たぶん「離散値」と「連続値」という表現だったと思います.
「分離」「離散」ともに,学習指導要領にもその解説にも出現しません.「連続」は,いくつか見かけますが,上の意味とは異なる使われ方です.これらの言葉が陽に出てこないのは,推測ですが,人物としては遠山啓と銀林浩,団体としては数学教育協議会が主導してきた概念・用語である点が,大きいように感じます.とはいえ,現在ではこの団体を超えて理解されていることを,いろいろな本を通じて伺い知ることができます.
算数教育では「分離量」のほうが「離散量」よりもよく使われているので,本日のエントリでもこちらを採用します.ただし,「分離量」とは言うけれども「分離値」「分離的」「分離化」とは書かれず,「離散値」「離散的」「離散化」となる,という点にも注意をしておきたいところです.
2. 分離量と連続量(2)
また別の本をみます.
[1] 分離量
みかんの個数,児童の人数などのように,それを細かく分けていくと,ある単位以上に細かく分割できない,おのずから最小単位が決まってくる。このように最小単位の決まっている量を分離量(離散量)という。
したがって,その分離量が幾つあるかを調べれば,その量の大きさが決まる。その量の大きさの決定は「数える」ことによってなされる。このことから,分離量は物の個数を表す量のことであり,自然数(1,2,3,…)で表される。
(略)
[2] 連続量
コップの中の水は,一つにつながっており,いくら細かく分割しても水がある状態に変わりがないし,しかも分割したものを一つのコップに入れて合わせると元どおりのつながった水になり,全体の体積に変化を生じない。このような量は,個体をなしておらず,数えることのできないもので,連続量という。
連続量は,分離量と違って最小単位がおのずから決まっていない。したがって,連続量の大きさは,人為的に単位を決めて,測定という操作によって,その幾つ分であるかを調べなければならない。
小数や分数は,その連続量の測定においてはしたの部分の処理に伴って生じた数とも考えられる。したがって,小数・分数,さらに実数の概念形成はこの連続量が基礎となる。小学校では実数のうちの小数や分数で連続量を表す。
(『算数教育指導用語辞典』p.76)
ここで目を引くのは,「最小単位」です.最小単位が決まっているなら分離量,そうでないなら連続量,というわけです.
このあたりのことを,数学を使ってきちんと論じているのは,『量の世界―構造主義的分析 (1975年) (教育文庫〈8〉)』pp.32-43です.要約すると,(1)量の全体Gがアルキメデス的全順序群をなす*3こと,(2) Gの正の要素の中で最小元があれば,Gは整数群Zと同型であること(すなわち分離量),(3) そのような最小元がなければ,Gは実数群Rの中に忠実に埋め込まれること(すなわち連続量),となります.
なお,実数と小数・分数の関係について,一歩踏み込んだ見方をしている点も,留意しておきたいところです.
3. 「人」は分離量?
ここで,注意したい量の例を2種類,取り上げておきます.
一つは,小数・分数で表されるものの中にも,離散量とみなせる量がある点です.
例えば円形のピザを等しい大きさに切ることにします.いくつに分けるかが決まっていないのなら,最小単位がないので連続量,ですが,3つに切って(複数の同じ大きさのピザも同様に切って)いくつかを持てば,それが何切れあるかというのは明らかに分離量ですし,合わせると1枚のピザのいくつ分(何倍)になるかというのも,最小単位があるわけですから,分離量とみなせるのです.
小数で表すものだと,通貨が分かりやすい(分かりにくい?)例でしょう.日本の場合はまあ,1円単位が当たり前です.もちろん分離量です.ドルやユーロでは,レシートを見れば分かるように,1ドルまたは1ユーロを表示上の単位として,それ未満の値は「セント」となります.1セント未満は無視されます.日常生活の支払い,お勘定という点で見れば,最小単位は1セント,すなわち0.01ドルまたはユーロ,となるわけです.これは,小数を含んでも分離量になる事例です.
どうやら「金額」は,計算で一時的に分数だとか循環小数だとかが必要になるとしても,最終的には分離量で表すことが想定されている,と考えるのが良さそうです.
次は反対に,連続量になるものを取り上げましょう.
この節の小見出しにもしましたが,「人」という単位で表されるものは,本当に常に分離量なのかというと,答えは「連続量になり得る.それも小学校の算数の範囲で」です.具体的には「平均」です.
あるクラスで,9月3日月曜日は2人休み,4日火曜日は3人休み,…と欠席人数を数え,1週間でも1か月でも1年でもいいのですが,平均の欠席者数を求めたら,おそらくは整数値になってくれません.その際,わる数(または分母)にあたる出席日数は固定ではないため,最小単位がないことになります.といったわけで,「人」という単位であっても,またどのような分離量をもとにしても,平均値を求めることで,連続量になり得るのです.
先ほどの本では,この取り扱いについて,次のように書いています.
回数が等しくない場合は,平均による比較となる。この場合,前出の例のように,17÷5=3.4(人),20÷6=3.3(人)などと,人数が小数で表されることに疑問を覚える児童がでてくるであろう。人数を数えるときは整数を用いるが,人数の平均を表すには,3.4人のように小数で表すことがあることを十分に理解させておくことが必要である。これにより,平均値を比較したり,計算に用いたりできるわけである。
(『算数教育指導用語辞典』p.247)
4. かけ算とわり算の分類
小学校で学習する,かけ算・わり算を,整数・小数・分数で分類することができます.
- 整数×整数
- 整数÷整数
- 小数×整数
- 小数÷整数
- 整数または小数×小数
- 整数または小数÷小数
- 分数×整数
- 分数÷整数
- 整数または分数×分数
- 整数または分数÷分数
実際にはもう少し,配慮しておきたいこともあります.「整数÷整数」は,割り切れる場合もありますが,あまりが出る場合もありますし,4年になれば「整数を整数で割って商が小数になる場合」,すなわち割り進みも学習します.
これらの計算を,分離量・連続量という言葉で書き直してみます.
- 乗法(かけ算)
- 分離量×分離量=分離量
- 連続量×分離量=連続量
- 分離量×連続量=分離量? 連続量?
- 連続量×連続量=連続量
- 除法(わり算)
- 分離量÷分離量=分離量
- 分離量÷分離量=連続量
- 連続量÷分離量=連続量
- 分離量÷連続量=分離量? 連続量?
- 連続量÷連続量=分離量
- 連続量÷連続量=連続量
ここでも補足が必要でしょう.ここで考える「量」「分離量」「連続量」は,数学的には集合で表現できます.このとき「分離量×分離量=分離量」というのは,2つの集合(分離量)M1とM2に対して,{a×b|a∈M1, b∈M2}もまた分離量になることを意味します.他の言葉の式も同様です*4.
右辺が「分離量? 連続量?」というのは,いったん保留といったところです.
なお,かけ算の式よりも,わり算の式のほうが多いのには,理由があります.「分離量÷分離量=連続量」と「連続量÷連続量=分離量」が考えられるからです.前者の例は,先ほど書いた,平均を求める場合です.後者には,今月6日に指摘した,同等の量という場面での包含除(全体の量÷1つ分の量=幾つ分)が該当します.
ところで,13リットルの醤油の件から,もう少し面白い(頭の痛い?)ことを学べます.
「13リットルの醤油を3リットルずつに分けると、3リットル入りの醤油がいくつできるか」という問題の答えを出すなら,「13÷3=4あまり1」と式にしたあと,答えは4つとなります.
ですが「13リットルの醤油が入った容器がある.3リットルの容器に分けて入れ,もとの容器を空にしたい.3リットルの容器はいくつ必要か」という問題にすると,式は「13÷3=4あまり1」で先ほどと変わりませんが,3リットルの容器は,5つ必要となります.4つだと,13−3×4=1で,もとの容器にまだ1リットル残ることになり,空になってくれないからです.
これらは,あまりのあるわり算を学習中にも解ける問題ですが,取り扱いとしては,切り上げ・切り捨てと関連させるのが合理的に思えます.13÷3=4.3…として,小数の部分を切り捨てるのが前者の出題,切り上げるのが後者の出題になるわけです.
5. 分離量×連続量,分離量÷連続量
先ほど式に書いて「保留」とした,次の2つの関係式を,検討することにします.
- 分離量×連続量=分離量? 連続量?
- 分離量÷連続量=分離量? 連続量?
なお,小学校の算数の学習範囲をおそらく超えることを,先に断っておきます.言い換えると,当日記でちょくちょく記している「大人モード」の議論に入ります.
事例・出題例が思いつくのは,ともに右辺が分離量になるものです.「金額」に関するものです.
- (かけ算)1mのねだんが273円のリボンを0.85m買うと代金はいくらか.
- (わり算)リボンを0.85m買うと232円でした.このリボン1mのねだんはいくらでしょう.
かけ算のほうは簡単で,273×0.85=232.05ですので,小数は切り捨てて,答えは232円です.
わり算も,計算のほうは232÷0.85=272.9…と,さほど難しくありません.ここから「リボン1mのねだん」を出すのは,かけ算よりも少し手間を要します.
まず小数を切り捨てて,「272円」が答えになるでしょうか? 検算しますと,1mのねだんが272円のリボンを0.85m買うと,代金は,272×0.85=231.2としてから小数を切り捨てますので,231円.なので,「272円」は答えにならないわけです.
1円増やして,リボン1mのねだんを「273円」とすると…これは,かけ算の件から,題意を満たします.
ここで終わらず,もう1円増やしてみます.リボン1mのねだんを「274円」とすると,どうでしょうか? 1mのねだんが274円のリボンを0.85m買うと,代金は,274×0.85=232.9としてから小数を切り捨てますので,232円です.ということで,274円も答えとなるのです.(ちなみに単価をもう1円アップさせて「275円」にすると,これはさすがにオーバーします.)
なので,わり算の問題の答えは「273円,274円」となります.ここのカンマは,中学の2次方程式の答えで「x=-1,2」などと書くのと同様のものです.
このように,式は単純なわり算でも,場面に即して答えとなる値が複数出てくるのは,ここでは「切り捨て」,一般には「離散化」が入ってくるからです.
次に,「分離量×連続量=連続量」「分離量÷連続量=連続量」になるような事例があるかですが…わり算すなわち「分離量÷連続量=連続量」のほうは,考えなくてもよさそうに思っています.というのも,この言葉の式を変形すると,「連続量×連続量=分離量」であり,この関係を満たす現実的なシチュエーションが思いつかないからです.
一方,「分離量×連続量=連続量」となる事例については,検討の余地があるようにも思います.本日のところは,未解決問題としておきます.
*1:と,断りを入れましたが,2年のうちに,長さを含むたし算・ひき算・かけ算を取り入れた授業例や問題集も多く見られます.
*2:「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」いずれも,小学校学習指導要領解説 算数編p.107
*3:「任意の量aおよびc(ともにGの要素)に対して,a<ncとなる自然数nが存在する」という,アルキメデスの公理(の量への適用)が含まれています.
*4:集合である「量」と,その要素となる「値」は異なります.=1という式で,無理数×無理数が有理数になり得るのを確認できますが,この式だけでは,連続量×連続量=分離量という関係があるのを示したことにはなりません.