わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

1.5kg×4箱

で,ブログ主さんからレスポンスをいただきました.
その中で,物品の数量について,詳しく書くことにします.簡単に経緯を書いておくと,コメントの最初(ページの一番後ろ)に「1.5kg×4箱」を例示したところ,「1.5kg/箱×4箱とすれば、箱が打ち消し合って、結果はkgとして出てくるのではないでしょうか。」というコメントがつきました.
まず「1.5kg×4箱」がどこから出てきたのかというと,日常生活で「×」の使用を探していたときに,見かけたのでした.最初に取り上げたのは,もう一つのブログです.

家の内外のかけ算を探していると,「数量×数量」には次の特徴があることに,気づくと思います.

  • 「×」の左の数量の単位と,かけ算の結果となる総量の単位が,同じになります.
  • 「×」の右の数量の単位は,かけ算の結果となる総量の単位に,現れません.


これは,数量表記の一つの慣例とみてよさそうです.小学校の算数では,「1.5kg×4箱」のところは「1.5×4=6」と書き,式に単位をつけませんが,それでも,1.5と6は「kg」で,4の単位の「箱(はこ)」は,かけ算において無視されます.

自由研究に「かけ算さがし」を

実例集はtakehikoMultiply's fotolifeで一覧できます.
さて,「1.5kg×4箱」とあるときに,総量がどれだけになるかを理解する方法は,何通りかあります.主要なのは次の3種類です.
まずは,とりあえず単位を無視してかけ算します.1.5×4=6です.そして適当な単位を付けます.6箱や6kg箱,6箱kgってのはおかしいので,消去法により6kgです.このアプローチを《楽観的解法》と呼ぶことにします.
2番目は,単位を少しいじりましょう.ブログ主さんのコメントにあるとおり,「1.5kg×4箱」を,「1.5kg/箱×4箱」と見るのです.言葉にすると,「1箱あたり1.5kg,それが4箱」です.計算すると,「箱」が打ち消され,1.5kg/箱×4箱=6kgとなる,という次第です.「/」は英語でいうと「パー(per)」なので,《パー書き》と表記します.
3番目は,2番目とまた違う単位の変え方です.「1.5kg×4箱」のところから,かける数にあたるほうの単位「箱」を取り除き,「1.5kg×4」とします.かけ算の結果は,1.5kg×4=6kgとなります.言葉としては「1.5kgが4箱」または「1.5kgが4つ」となります.「1.5kgの4倍」でもあるので,《倍》と書くことにします.
これら3種類の解釈は,「かけ算の順序」のダブスタ考で紹介しています.一昨年の暮れのことです.
とはいえ,それらは,大人の議論,もしくは経験によって得られる知識です.小学校の算数ではどうなのかというと,教科書,解説,学習指導案,学力調査などを見ても,式に書く際には単位を付けず,「1.5×4=6」となります.「1.5kgが4箱」という数量の関係に基づき,「答え 6kg」などと書くことになります.見た目は《楽観的解法》ですが,答えが6箱でも6kg箱でも6箱kgでもなく,6kgになるのは,その場面から,導出あるいは確認するというわけです.
《パー書き》と《倍》の比較をすると,歴史的には《倍》のほうが先です.明治2年(1869年),『筆算訓蒙』に書かれた乗法の定義から,エッセンスを取り出すと(*),「実数は名数,法数は不名数,得数は実数と同名数」です.これは「1.5kg×4=6kg」の式に対応します.また明治38年尋常小学算術書 第3学年 児童用では,コマ番号27に,「125時×6」「3圓35銭×3」といったかけ算の式が出てきます.この算術書をざっと見たところ,名数を含むかけ算の式は,「実数は名数,法数は不名数」ばかりです*1
《パー書き》について,分かっているのは次のことです(*).すなわち,1971年の『水道方式入門 整数編 新版』で「4個/台×3台」「8g/m×0.6m」などがあり,《パー書き》が採用されているのに対し,1961年の『算数に強くなる水道方式入門 (1961年)』では,「60km×\frac{2}{3}」「5円×3=15円」などとあるほか,「1mが6gの針金3gの重さ」は「6g×3=18g」となっていて,採用されていません.数学教育協議会も,もともとは《倍》だったのです*2.1970年代以降,《パー書き》を使った書籍そして授業例が出回ります.現在はというと,量の理論や《パー書き》を根拠としつつも,それらは大人の議論であり,算数の式では単位なし(無名数)という流れ*3のように見えます.


「1.5kg×4箱」に立ち返って,別のことを検討していきます.これ以外の表記はないのか,です.
まず思いつくのは,かける数とかけられる数の交換です.数だけを入れ替えて,「4kg×1.5箱」としてみます.「1箱は4kg入っていて,それが1.5箱分あったら,全部で何kgですか」という問題文を作ることはできます.しかし,算数の問題や手書きメモとしてならともかく,商品の数量表記として,「4kg×1.5箱」というのは不自然です.
これは,商品として「〜箱」は整数値であることが要請されるためです.量の用語を使うと,分離量です.
その一方で,かけられる数量については「1.5kg」でも「4kg」でも,問題となりません.それは連続量だからです.
連続量×分離量となるタイプのかけ算は,日常よく見かけることができます.算数でも取り扱いやすい*4ため,Greer (1992)には「Equal measures」という名称がつけられています.日本ではというと,小数×整数を4年で,分数×整数を5年で学習し,小数のかけ算(整数または小数×小数)や分数のかけ算(整数または分数×分数)よりも1学年,先に学習しています.
あともう一つ,「1.5kg×4箱」から,×の左右をそっくり入れ替えて,「4箱×1.5kg」とすると,自然でしょうか,不自然でしょうか.
上に書いた《楽観的解法》により,総量は6kgであって6箱ではないというのは,想像できます.
ですが現実として,「4箱×1.5kg」は,まず見かけません.これは「かけ算したら(《倍》で解釈したら)6箱になるから」ではなさそうです.
もっとも有望な理由づけは,「1.5kg×4箱」だと「1.5kgが4箱」と素直に読めるのに対し,「4箱×1.5kg」について,そうはいかないことです.「4箱が1.5kg」では,数量・個数の関係が不明ですし,「4箱で1.5kg」と言ったら,4箱合わせて(6kgではなく)1.5kgであるように聞こえます.「4箱あって,それぞれ(の箱は)1.5kg」と言うと,今度は長くなります.
見直してみると,《パー書き》のところで書いた,「1箱あたり1.5kg,それが4箱」も長いのです.算術や算数,その中でも《倍》を根拠としながら,簡潔に書けて誤解も少ない,実用性に優れた数量表記が,「1.5kg×4箱」です.
交換については,そんなところですが,別のアプローチとして,字数の削減を見ておきます.もし,「1.5kg 4箱」と書いたら,どうなるでしょうか.
これはやはり,「1.5kgが4箱(総量は6kg)」なのか「4箱で(総量は)1.5kg」なのかが曖昧です.
ここに「×」の意義があります.《倍》を知っていれば,「×」の左側が,1まとまりの数量となるのが明確なのです.
次に,「1.5kg×4」では,いけないのでしょうか.
いけないわけではありません.海外の商品では,3×80g75g×5を確認しています.そのほか,コカコーラ商品のペットボトルの箱詰めは,2L×6と,《倍》なのをこれまで見てきています.
そこについては,簡潔さと親切さの兼ね合いだと思っています.現状は「1.5kg×4箱」「2L×6」といった書き方が広く採用されています.「3×80g」は海外の製品であり,そして,「1.5kg/箱×4箱」や「4箱×1.5kg」に相当するような物品の数量表記は,目にすることができないのです.


あとコメントについていくつか:

  • 金田論文を最初に取り上げたのは乗法の意味,情報の価値です.「不備のある算数文章問題」に対する小学生と高校生の解決方略複数解では,同じ著者による他の論文や書籍を見てきています.
  • 割り切れる・割り進みに関してのこちらの意図は次のとおりです:「3÷2の商は何になりますか」の答えは,全国学力テストを受ける小学6年生にとって一つに定まらず,1(あまり1)にするか,わり進めて1.5にするか,分数で2分の3(または、1と2分の1)にするかは,問題文に一言書いておく運用がなされています.
  • かけ算のテスト問題では,「(1まとまりのなかの数量)×(まとまりの数)の式で表しなさい」といった指示が見られません.その言葉の式は,授業(教科書,ドリル)を通じて学習しており,文章題に対してその“順序”を思い出させることが,乗法の意味を問う際の出題意図に含まれている,と見ることができます*5.出題時にどこまで指示するかというのは,「1+1」を使って考えることもできます.というのも小学校のとき,「1+1は?」「2」「違う,田んぼの田!」というやりとりがあったのでした.「1」「+」「1」「=」という字形を組み合わせることによって,「田」の字になるわけです.
  • 「それを通して何が言いたいのかという点がよく分からないことがあります」について,その何割かは当方の表現の至らなさですが,残りについては,ブログで何を伝えたいかというのに依存してきます.『いい文章には型がある (PHP新書)』では,主張型文章・ストーリー型文章・直感型文章という3種類を挙げていて,当ブログでは記事ごとにこのいずれかが当てはまります.ドメインパーキングの本文は主張型文章(論証)に思います.当記事も主張型文章になりますが,例えばA2は,直感型文章(エッセイ)です.

*1:他の演算を見ておくと,たし算・ひき算の名数式は,どの項にも単位がつきます.単位の異なる式では,まず単位を揃えることが要請されます.わり算は,左にはあって右にはないものと,両方に同じ単位のつくものが見られます.前者は等分除,後者は包含除と思えばよさそうです.

*2:水道方式ではまず「計算の指導法」を体系づけ,その後に,かけ算などの演算に適した「量」の体系へと展開していったのでした.

*3:自分用メモ:要出典

*4:場面を作るのが容易であるほか,累加で計算ができます.

*5:自分用メモ:要出典