教科書は,「この表から,いろいろなきまりを見つけましょう」と問いかけています.
文部科学省の「学習指導要領解説」が,子どもたちに見つけることを期待している「きまり」とは次のようなものです.
(1) かける数(乗数)が1増えると答えは,かけられる数(被乗数)だけ増える.次の(2)と関連させると,かけられる数が1増えると答えは,かける数だけ増える.
(略)上記のうち,「次の(2)と関連させると,かけられる数が1増えると答えは,かける数だけ増える.」は,読んだ当初から「いやそんなことは」でした.
(a+1)×b=a×b+b
その後,いろいろ本や学習指導案,授業例の文書を読んできたものの,やはり,該当するものは,ありませんでした.
時間をとって探したところ,3件,見つかりました.刊行年は,1951年,2009年,そして今年です.
小学校学習指導要領 算数科編(試案) 昭和26年(1951)改訂版
これまでたびたび引用している箇所の,少し下にあります.
四年で「1個12円のりんごを5個買うと,代金はいくらになるか」という問題を解決する場合のことである。こどもは,まだ,二位数に基数*1をかけて繰上がりのある計算を学習していないのである。
V. 算数についての評価
(略)
りんごがたいそう安くて1個6円だったら,5個の代はいくらかになるだろうと発問してみた。6×5=30の九々を使うことができた。これに力を得て,1個のねだんを7円,8円としだいに増して,かけ算を適用する考えを固めた上で,12×5の計算ができればよいことを,こどもに気づかせるように導いた。
6×5=30,7×5=35,8×5=40,…,12×5=60という式は,「かけられる数が1増えると答えは,かける数だけ増える」に合致しています.
『必備!算数の定番授業 小学校2年』
必備!算数の定番授業 小学校2年 (活用力の基礎を育む授業ベーシック)
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同ページ最後の図が,まとめになっています(斜めの関係は割愛しました).
どうやら,行が「かける数」,列が「かけられる数」で,これまで見てきたものと縦横が反対のようです*2.
ともあれ,横の変わり方は「かける数だけ増える」,たての変わり方は「かけられる数だけ増える」として,2つの性質を同等に扱っています.
『算数的活動実践事例集』
新学習指導要領対応 算数的活動実践事例集(全学年対応) (教育技術MOOK)
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この2つのページにまたがって,「予想される子どもの反応」があります.
1「かける数」と「答え」の関係(「かけられる数」が一定)
・○の段は、答えが○こずつ増える(減る)。
(例)2の段は、答えが2つずつ増える(減る)。
・○の段は、かける数が1増える(減る)ごとに、答えが○こずつ増える(減る)。
(例)2の段は、かける数が1増える(減る)ごとに、答えが2つずつ増える(減る)。
・かける数が1増える(減る)と、答えがかけられる数だけ増える(減る)。
2「かけられる数」と「答え」の関係(「かける数」が一定)
・かける数が○のとき、かけられる数が1増える(減る)と、答えは○だけ増える(減る)。
(例)かける数が4のとき、かけられる数が1増える(減る)と、答えは4だけ増える(減る)。
・かける数が同じとき、かけられる数が1増える(減る)と、こたえはかける数だけ増える(減る)。
1は,「かける数(乗数)が1増えると答えは,かけられる数(被乗数)だけ増える」.2は「かけられる数が1増えると答えは,かける数だけ増える」に対応しています.
「○の段は」「かける数が○のとき」という書き分けにも,なるほどと思いました.
本題とは関係ありませんが,あとの項目に残念な記述があります.
4「かけられる数」と「かける数」の関係(結合法則)
・□×○+△×○=(□+△)×○
これは「結合法則」ではなく「分配法則」です.単純な誤記だとしても,ひどい話です.
まとめ
冒頭で引用したうち,以下の文については,撤回します.
その後,いろいろ本や学習指導案,授業例の文書を読んできたものの,やはり,該当するものは,ありませんでした.
しかしながら,以下の文は変更なしです.
上記のうち,「次の(2)と関連させると,かけられる数が1増えると答えは,かける数だけ増える.」は,読んだ当初から「いやそんなことは」でした.
さらに言うと,当該エントリの撤回した箇所以外への影響は,ありません.というのも,「次の(2)」すなわち乗法の交換法則を使用させることなく,九九の表やアレイ図,うまく設定した場面をもとに,乗数が一定のときの被乗数と積の関係が説明できるからです.
余談
今回取り上げた2冊の本で,「かけ算の順序」あるいはかけ算の式で表すことについて,それぞれに興味深い記述があったので,かいつまんで書いておきます.
- 『必備!算数の定番授業 小学校2年』pp.110-113では,「24個入ったお饅頭」をもとに,どんな並び方があり,そしてかけ算の式に表せるかを,授業にしています.展開を読んでいき,ああこれが筑波スタイルですかと思いました.
- 『算数的活動実践事例集』p.45には,「4か月あるので1か月にクラスで50個、学年は3クラスなので、50×3×4で600個は集められるかな?」という子どもの発言が見られます.