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算数教育・資料集(教科書・論文・その他)

目次

小学校学習指導要領 算数科編(試案) 昭和26年(1951)改訂版

以下の引用はいずれもV. 算数についての評価からです.

三年の乗法九々の学習で,三の段がひととおりすんで,こどもたちは三の段の九々がすらすら唱えられるようになった。そこで,教師は次のようなテストを行って,こどもがかけ算の意味を理解して,九々を適用する力が伸びたかどうかを調べてみた。

問題 3人のこどもに,えんぴつを2本ずつあげようと思います。えんぴつがなん本いるでしょう。どんな九々をつかえばわかりますか。

どんな九々をつかうかという問に対して,3×2=6と答えたものが予想以上に多いことがわかった。これによってこどもは問題に出てくる数を,その数の意味を深く考えもしないで,出てくる順に書き並べ,その間に,かけ算記号を書き入れることがわかった。問題に出てくる数を頭の中にいったん収めて,演算の決定に導くように問題の場を組織だてる力が欠けているらしいことがわかった。そこで,その欠けていることについての再指導に入るわけである。
3は人数を表わしている数である。それを2倍した答の6は何といったらよいか尋ねてみる。それで,6人となって問題の要求に合わないことを説明する。このようにして3×2=6とするのが誤であることを明らかにしたとする。
しかし,上のような指導だけでは,問題をすこし変えてテストしてみると,ほとんど進歩しないことがはっきりわかってきた。つまり,一方を否定するような消極的な指導だけでは,前に述べたような問題を組織だてる力を伸ばすのに,ほとんど役だたないことがわかった。これが再指導に対しての評価であって,指導の方法を修正する必要をつかんだわけである。そこで;問題解決を,同数累加の形にもどして,倍の概念をしっかり押えるように指導したのである。今度は成功した。この事実を教師が見届けたのもやはり評価である。
(《BA型》)

四年で「1個12円のりんごを5個買うと,代金はいくらになるか」という問題を解決する場合のことである。こどもは,まだ,二位数に基数をかけて繰上がりのある計算を学習していないのである。
(略)
りんごがたいそう安くて1個6円だったら,5個の代はいくらかになるだろうと発問してみた。6×5=30の九々を使うことができた。これに力を得て,1個のねだんを7円,8円としだいに増して,かけ算を適用する考えを固めた上で,12×5の計算ができればよいことを,こどもに気づかせるように導いた。


小学校学習指導要領解説 算数編

例えば,「12個のおはじきを工夫して並べる」という活動を行うと,いろいろな並べ方ができる。下の図のように並べると,2×6,6×2,3×4,4×3などのような式で表すことができる。
(図省略.図の下に「2×6 または 6×2」「3×4 または 4×3」)
(p.81.《複数解》)

式を読み取る指導に際しては,例えば,3×4の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが4パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」というような問題をつくることができる。
(p.99)

さらに,除法の逆としての乗法の問題,例えば「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」のような場合にも,乗法が用いられることを理解できるようにする。
(p.107.《BA型》.第3学年)

「内容の取扱い」の(4)では,「乗数又は被乗数が0の場合の計算についても取り扱うものとする」と示している。例えば,的当てで得点を競うゲームなどで,0点のところに3回入れば,0×3と表すことができる。3点のところに一度も入らなければ,3×0と表すことができる。0×3の答えは,実際の場面の意味から考えたり,乗法の意味に戻って0+0+0=0と求めたりする。また3×0の答えは,具体的な場面から0と考えたり,乗法のきまりを使って3×3=9,3×2=6,3×1=3と並べると積が3ずつ減っていることから,3×0=0と求めることができることに気付くようにする。また,こうした0の乗法は,30 × 86 や54 × 60 のような計算の場合にも活用される。
(p.107)

整数の乗法については,「一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かを求める」,「何倍かに当たる大きさを求めたりする」などの場合に用いる。
第5学年では,乗法を乗数が小数の場合にも用いることができるようにしたり,除法との関係も考えて,より広い場面や意味に用いることができるようにしたりして一般化していく。その際,数量関係を表している文脈が同じときには,整数の場合に成り立つ式の形は,小数の場合にもそのまま使えるようにする。
(p.166)

小数の乗法では,乗数が小数の場合にも用いることができるように意味の拡張を図る。例えば,120×2.5の意味を考えるとき,下のような数直線を用いて表したり,「120を1とみたとき,2.5に当たる大きさ」と言葉で表したり,公式や言葉の式を利用したりして,乗法の意味を説明することになる。
(p.169)


東京書籍 平成23年度版 小学校教科書 新しい算数

平成27年度用 小学校教科書のご紹介|東京書籍

ボートが 3そう あります。
1そうに 2人ずつ のって います。
ぜんぶで 何人 のって いますか。
(2年下p.16.学力調査結果に見るつまずきへの取り組み p.1.《BA型》)

つぎの 2つの もんだいの,しきと 答えを 考えましょう。

(1) えんぴつを 1人に 2本ずつ,5人に くばります。
えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。

(2) えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります。
えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。

(2年下p.21.http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou/subject/sansu/tsumazuki/ebook/pdf/2.pdf)

1本136円で,280mL入りのジュースを4本買います。
代金はいくらですか。
(3年上p.104.算数デジタルカタログ見本 p.16.「条件過多の問題など,本文中では扱いにくい問題も取り上げています。」が添えられている)


大日本図書 教科書 平成23年度版 たのしい算数 2年下

http://www.dainippon-tosho.co.jp/sho/sansuu/text/index.html

つぎの 2人の つくった もんだいは,2×6と 6×2の どちらの しきで もとめれば いいでしょう。

2つの ふでばこに えんぴつが 6本ずつ 入って います。
えんぴつは 何本 あるでしょう。
(つばさ)

えんぴつを 1人に 2本ずつ,6人に くばります。
えんぴつは 何本 いるでしょう。
(あおい)

(p.45.《AB型》《BA型》.内容解説資料 9/25の下段右から2番目,「きほんのたしかめ」が丸囲みされているページをクリックすると,http://www.dainippon-tosho.co.jp/h23/sansu/sansulink/sa11/default1.html に移動し,その右側のページより参照できる)

東京都算数教育研究会による調査

東京都算数教育研究会が昭和44年1月に東京都の2年児童約2,000人について行った調査によると,次のように報告されている.
〔問題〕8×6のもんだいをつくりました.よいものに○をつけなさい.
(1)( )みかんが一つのおさらに8こ,もう一つのおさらに6このせてありますが,みかんはなんこありますか.
(2)( )えんぴつを6本かいました.このえんぴつは1本8えんです.いくらはらえばよいですか.
(3)( )1まい6えんのがようしを8まいかいました.いくらはらえばよいですか.
この正答率は34.1%であり,誤答率は61.5%,不答率は4.4%であったという.
(花村郁雄: かけ算の意味と方法 -つまずき事例- , 整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究), p.117.《AB型》《BA型》)


「計算の力」の習得に関する調査

http://www.sokyoken.or.jp/kanjikeisan/keisan_h18.xhtml末尾のPDFファイルから,出題と正答率を知ることができます.
小学校算数 これでバッチリ!計算指導 (指導のこつシリーズ)』ならびに「2011年以降の書籍」で挙げた同書も,ご覧ください.

「計算の力」の習得に関する調査〜第3回調査、2005年実施〜(財団法人 総合初等教育研究所)
(p.3)

(1) 小学校第1学年から第6学年まで(略)学年ごとに問題を構成する.
(4) 各学年で習得した「計算の力」が、それ以降の学年でどのように定着しているかを明らかにするために、当該学年の問題や前学年までに学習した問題を「共通問題」として位置づける。
(p.116)

全国より抽出した(略)地域から、11、382人の児童生徒を対象に実施した。
(p.118)

(1)実施時期
・平成17年1月に予備調査を実施(対象976人)
・平成17年3月に本調査を実施
(p.119)


練馬区児童・生徒学力調査

  • http://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/tokei/kyoiku/gakuryoku.html
  • [http://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/tokei/kyoiku/gakuryoku.files/19renkei.pdf: 小中連携の視点からの授業改善

平成19年10月23日実施,小学校算数の解答者は第4学年.
現在はWeb上で原文が確認できません.archive.orgのWayback Machineからも,取得できませんでした.

小学校では、第2学年で乗法の意味を指導する際に、1つ分の大きさが決まっているときに、そのいくつ分かにあたる大きさを求める場合に用いるとし、被乗数と乗数の意味の違いを明確に指導している。しかし、その後は、計算技能の習熟に多くの時間が費やされること、交換法則を学習すること等から、被乗数と乗数の意味の違いをあまり意識しないようになりがちである。
今回の調査結果で、6×15と立式するところを、問題文に出ている数字の順に15×6と立式した誤答が60.0%と圧倒的に多かったことはそのことを示している。第3学年以降の整数や小数、分数の乗法の学習でも、単元の初め等で数直線を活用し、被乗数と乗数を意識して式を立てる指導を繰り返し行うことが重要である。
一方、中学校になると、文字を使った式の学習で、「文字と数の積では、数を文字の前に書く」と約束するようになる。「かけ算の記号は省いて書く」こと等と合わせて、文字式では新しい約束で表していくことを丁寧に指導する必要がある。
(「小中連携の視点からの授業改善」 p.3.《BA型》)

B県学力検査

子どもが 4人 います。みかんを 1人に 3こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。
正答率(2学年) 49%
誤答例 4×3
(p.1.《BA型》)

東京都算数教育研究会 平成22年度実施 学力実態調査

[3] 子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。

しき 4×3(=12)

(略)
[3] 乗数、被乗数の関係を考えて立式できるかをみる問題である。正答率は54%である。36%の児童は問題文に出てきた順に立式したものである。乗法の指導においては、問題場面を絵や図に表すだけでなく、式を半具体物で表したり絵や図で表したりする活動や、身の回りの事象から乗法の式で表せるものを探す活動を通して、「1つ分×いくつ分」という関係が体験的にとらえられるようにしていきたい。また、問題文に出てきた順序と逆に立式する問題を取り入れ、「1つ分」に当たる数はどれかを考える態度を育てていきたい。
(p.5,第2学年の結果と考察)

本年度は、22年度末に実施された、新学習指導要領全面実施直前の移行期の内容を加えた「数と計算」「数量関係」領域における学力実態調査の集計と考察を行いました。集計児童数は、50地区314,710人*1でした。

正の量と実数とに関する一考察


乗法の意味の指導について

(略)そのねらいに沿って,こどもが実際に受け入れているか,また,とくに数学的な考え方の育成の一つの手がかりとして,このような意味の拡張に着目させることが果して,こどもの段階からみて適切なのかどうか.このようなことを念頭において,次のような点について,まず,こどもの実態を明らかにしようとしたのが,この調査のねらいである.
① 乗法の指導を通して,拡張の必要について,こどもがどの程度に意識してきているか.
② (拡張された)乗法の意味を,具体的にどんな内容としてつかんでいるか.
③ 被乗数と乗数とを区別して意味づけを行なってきていることが,乗法の意味をさらに抽象していく上に,どのような影響を及ぼしているか,など.
(pp.2-3)

問2 7×2.4のように,かける数が小数のかけざんは,どんな考えを表わしているといえますか.次のうちで,自分でもっともよいと思うもの1つだけに○をかきなさい.
□ア.7を2.4回加えるという考え
□イ.たとえば,たて7cm,よこ2.4cmの長方形の面積を表わすという考え
□ウ.(もとにする大きさ)×(割合)の式で,「もとにする大きさ」が7,「割合」が2.4という考え
□エ.たとえば,下の図のように,7の大きさを1目もり(単位)にして数直線をかいたとき,2.4の目もりのところになる大きさを表わすという考え
□オ.たとえば,次の図のように,Aのじくで1の長さがBのじくで7に広がるようなしかけがあるとき,Aの2.4がBでどれだけになるかを表わすという考え
□カ.7.24は,7×1の大きさを1とみたとき,2.4にあたる大きさを表わすという考え
(p.3.図は省略)

問4 次の式で,○や△は,どれもいろいろな数を入れるところを表わしています.
    ○×△
次にのべたことのうち,この式のことを正しくいっていると思われるものに,すべて○をつけなさい.
□ア.○に入れる数をきめておいて,△に入れる数を2ばい,3ばい,…,または\frac{1}{2}\frac{1}{3},…になるように変えていくと,この式の表わす大きさも,2ばい,3ばい,…,または,\frac{1}{2}\frac{1}{3},…というように変わる.
□イ.△に入れる数をきめておいて,……(アで,○を変数とした場合)
□ウ.○に入れる数と△に入れる数をとり変えても式の表わす大きさは変わらない.
□エ.○や△に,どんな数を入れても,○×△の表わす大きさは,○や△の表わす数よりも,いつも大きい.
□オ.○×△に,どんな数を入れても,答は一つの数で求められる.
(p.5)


乗法の意味についての論争と問題点についての考察

累加の考えをさけようというのは,算数の指導についての基本的な立場の相異によることであって,乗法という問題だけで考察することは適切とはいえない.(略)しかし,乗法と加法の特別な場合を簡潔に表すという立場から意味づけることは,とくに,低学年の場合には,教育的にも意味のあることであり,さきのラパッポルト氏の反論にもある.
わが国でもこの立場をとっているが,アメリカの新しい計画による教科書でも,この立場をとっているものが多い.これには,ラパッポルト氏の指摘にもあるように,整数の段階では,集合の直積に近い意味づけをしても,累加の考えに帰著してほぼ処理できることや,直積の考えのままでは,実際に乗法を適用するに当たって,困難をともなうことなどの理由があげられよう.
(p.76)

b) 小数・分数(有理数)の場合に,どんな意味づけをするか.
累加の考えの問題点は,周知のように,整数の場合ではなく,乗数が有理数の際に起こる.わが国の場合は,累加という考えをそのまま用いないで,次のような意味に一般化(拡張)する方法をとっている.すなわち,
A×Bについて,A,Bを次の意味に対応させる.下の図では,A×Bは,Bの目盛に対応する大きさをよみとることに当たる.
A……基準(単位)とする大きさ
B……Aを単位とした測定数(measure)
(略)
この考えの長所として,次のような点をあげることができる.
ア.乗数が整数の場合,すなわち,累加の考えを特別な場合として含んでおり,整数,および,小数・分数に関係なく,一貫して用いられること.しかも,実数の場合の発展も困難ではない.
イ.この指導を通して,整数の場合にとった乗法の意味を拡張することの必要性を意識させ,拡張の考えを用いる機会をこどもに与えることができること.
ウ.小数,分数の乗法が適用される場合を,この意味にもとずいて一般的に理解させ,乗法の適用判断を統一的に能率よく行なうことができること.
(p.76)

4) 4×2は,英語ではfour times twoまたはfour twosなどという関係で,乗数と被乗数がわが国の場合と反対になっている.
8) 以下では,乗数,被乗数の順については,わが国の表記による.
9) (略)なお,註4)で,アメリカでは,乗数を先にかくとのべたが,最近では,わが国の場合のように,乗数をあとにかく方法(乗数をoperatorとしてみる場合に統一的にでき便利である)をかなり取り入れるくふうがされている.この場合,3×4は3 multiplied by 4などと呼んでいる.
(p.77)


小数の乗法における学習状態の移行

本稿の目的は,小数の乗法の指導によって,小数の乗法の文章題における演算決定に関する学習状態がどのように移行していくかを明らかにすることとする。以下では,「小数の乗法の文章題における演算決定に関する学習状態」を単に「小数の乗法の学習状態」と略記する。小数の乗法とほ,乗数が小数である乗法のことである。被乗数が小数である乗法は,整数の乗法に含める。本稿では倍(multiple)に関する小数の乗法を考察の対象とし,積(product)に関する小数の乗法は取り上げない。(略)
(p.1)

その結果次のようなことが明らかとなった。短期的な指導効果として,小数の乗法の演算処理と演算決定の両方ができるようになった児童は少なかった。全体的な傾向として本稿で設定した学習状態は,基本的には1段階ずつ移行していくものと言える。
学習状態が移行した児童と移行しなかった児童を比較したところ,次のような活動が学習状態の移行に有効である可能性が示唆された。
(1) 小数の範囲における比例を理解すること。
(2) 具体的場面と小数の奏法とを関係づけること。
(3) 多様な表現手段によって小数の乗法を表現すること。
(p.7)


算数教育における文章題指導のあり方に関する研究

以上,これまでみてきたことをまとめると,構造図をはじめとする我が国の文章題指導の工夫は,問題の読みから立式までの過程において,問題場面の理解や問題文に記載されている数的関係をいかに子どもにとらえさせるかに集中していたとみることができる。文章題指導の目標の一つには,先にも示したように,「数理を現実の世界で活用する」「実際の生活上で起こった問題を解決する」といった点が存在する。これまでの,文章題の指導は,どちらかというと現実世界への活用能力の育成というよりも,技能面に焦点をあてた指導がなされてきたように受け止められる。このことは,指導者側がよかれとして行ってきた努力が,文章題解決の技術的な側面を強調する結果となり,子どもたちが「文章題は実際的な問題とはあまり関係のない,算数の時間だけのものである」といった意識を強める一つの要因となったのではないかと考える。
(p.5)

学級対抗のサッカー大会があります。選手,コーチ,保護者を含めて540人います。みんなはバスでグラウンドに行きますがそれぞれのバスには40人が乗れます。グラウンドに行くために何台のバスが必要でしょう。(学校からグラウンドまでは約5kmはなれています。)
(p.8)


整数の乗法の理解過程に関する研究

一般に乗法の指導は乗数が有理数に拡張される部分が難しいとされ、先行研究も多い。しかし、筆者の経験では小学校2年生の整数の乗法の段階でもに学習に困難を感じる児童が存在し、一般には次のような姿がみえる。
・文章題が解けない・立式ができない
・場面に適した絵図などが描けない
筆者はこれらの児童の理解を支援するために、授業の時間以外にも、個別に指導の時間を取ったり、家庭学習に頼ったりしてきた。しかし、それだけでは解決しない現状があった。原因は多様であるが、1つに筆者自身が児童の実態について明確な視点で捉えられないまま指導していたことがある。
そこで、乗法の学習後、乗法の意味の理解が不十分とみられる児童を対象に実態を捉えながら再指導を行い理解過程を探っていくことで乗法の概念形成における指導の改善の示唆を得ることができるのではないかと考えた。
(p.75)

第2に乗法の定義である。整数の乗法を単位が決まったときに、その単位を基にして、それを繰り返し加えて全体の数量を求めるための計算方法や表現方法とする。例えば、文章題の場面で、四則計算のどれにあてはまるかと考える場合にそこから単位(1つ分の大きさ)にあたる数といくつ分にあたる繰り返しの数を読みとり乗法で立式ができることである。この定義については導入時に学習する。鵜飼(1994)、人見(1997)の実践に見られるように同数同士の加法と他の加法との比較により、1つ分に着目させたり、峰崎(1995)や山崎(1988)の実践に見られるように、乗数、被乗数にあたる部分を未知にすることによって1つ分、いくつ分に着目させる指導がある。いずれにしても、被乗数と乗数にあたる数の意味が異なることを理解させる必要がある。
(p.75)

茂男は解決に行き詰まると倍々の加法と累加に見直す活動を繰り返しながら単位を再構成を行い乗法の概念を形成していった。このことから、茂男の単位の認識の深化のプロセスに茂男自身が持っている倍々の加法のストラテジーが橋渡しとして働いていることがわかる。
(p.81)

茂男と和男の調査を通して以下の知見を得ることができた。
① 数える活動が、累加や乗法的操作に発展していくためには下記の2点が重要である。
a数を様々なまとまりの単位として扱えること。
b単位としてのまとまりを再構成するプロセスを持っていること。
② 累加や乗法的操作への発展のプロセスでは、単位のアイデアに関連した児童自身のストラテジーが媒介として機能した。
(p.83)


算数の問題解決における図による問題把握の研究


数学教育協力における文化的な側面の基礎的研究

具体例を挙げて、少し説明を加える。かけ算の導入は、日本では次のように扱われる。
『しょうがくさんすう2年下』(中原他, 1999, p.16)
みかんがひとさらに5こずつのっています。4さらではなんこになりますか。
この問いに対して、1さらに5こずつ4さらぶんで20こです。このことをしきで
5 × 4 = 20
とかき「五かける四は二十」とよみます。
それに対して、英語ではかけ算を表す順序が逆で、“four plates of 5 oranges”という英語での表現より、4×5=20となる。そこで問題となるのは、例えばタイでは自然な語順が日本語式であるにもかかわらず、教科書は英語式の順番に従っている。単にかけ算の順序が逆になっただけで小さなことのようであるが、初めての学習者にとってはかなりの認知的な負担が強いられるだろう。この例に見られるように、認識的な差異を考慮に入れないでカリキュラム開発をするならば、教科書という基本的な教材の中に、基本的な問題を抱えこんでしまう可能性がある。
(p.38)

数学も新しいものの見方を要求している。例えば冒頭に挙げた「どちらが何台多いでしょう」の事例では、答えはほぼ出ているにもかかわらず、子どもは教師が求めるように式を書くことができない。我々の多くにとっては既に当たり前になっていることが、子どもにとって実はかなりの負担を要する活動であることを示している。そこで、子どもが必要性を感じ、記号によって書くことができるようには、記号化を必要とする状況を教師が意図的に設定することが求められる。
この場合の必要性とは、美しさ、単純さ、整合性、有用性などによって支えられるもので、もちろん各文化によって価値の置き方が異なる。ある種の記号化の容易さは、その価値の置き方によって異なってくる。極端な場合では記号化において、数学という文化と自分の置かれている文化の2つの間に分断が起きることも考えられる。
(pp.36-37)


不備のある算数文章問題に対する小学生と高校生の解決方略

問題① えんぴつが5本ずつはいっているふでばこが3つあります。このふでばこは何円でしょう。
問題② バケツのなかに水がどんどんたまっていきます。1分たったらバケツに10cmのところまで水がたまりました。2分たったら20cmのところまで水がたまりました。では,3分たったら何cmのところまでたまるでしょう。
問題③ 山本君の家と学校は,500mはなれています。木村君の家と学校は,300mはなれています。では,山本君の家と木村君の家は,何mはなれているでしょう。
問題④ 1この重さが5kgのりんごが6つあります。合計何kgになるでしょう。
問題⑤ 4このボールと5このボールがあります。かけるといくつになるでしょう。
問題⑥ 熱さ80℃のお湯が1リットルあります。そこに40℃のお湯を1リットルたしました。お湯の温度は何℃になるでしょう。
(p.469)

不備のない算数文章題2問を用意した。2問の文章題は,「42リットルの石油を3リットルずつバケツに入れます。バケツはいくついりますか」と,「ハイキングにクラスの全員が行くことになりました。バス代が1人200円で,クラスは20人います。ひ用は全部で何円になりますか」である。
(p.470)

問題③は,計算をするために必要な条件設定が不足していることが原因となって,答えがひとつに定まらない文章題である。算数の教科書に掲載されている文章題は,すべて答えがひとつである(金田,2001)ことを考えれば,小学生が計算できる「500−300」と「500+300」の加減の演算によって異なる2つの解が算出されるこの文章題は,算数の文章題としては不備のある問題である。問題③が,問題②と異なる点は,小学生が計算できる四則演算を使用することによって算出される答えが,2通りあるか,1通りしかないかの点にある。問題③の答えは,「200m」と「800m」の2通りであるのに対し,問題②の答えは,「20+10」や「10×3」などの異なる演算を使用しても,「30cm」の1通りしか算出されない。小学生は,算数の学習場面において,問題③に対して,「200m」と「800m」のいずれかひとつしか答えを算出しないことが知られている(Verschaffel,De Corte & Lasure,1994)。


「小数のかけ算」に関する教師の不十分な意味理解と教員養成系学生への援助

質問4 ある小学校5年生の子どもから「2.7×3.6」について「この式の意味を考えたんだけど,2.7を3.6回足すってどういうことかわかりません」と質問されたらあなたはどう説明しますか。(略)
(p.6)

(7)「かけ算の意味」と「答の出し方」の区別
皆さんの中には次のような疑問をもつ人がいるかもしれません。それは,「⑤うさぎには耳が2本ある。ウサギが4匹いると耳の数は全部でいくつか」の場合は,「1あたり量×いくつ分」になっているのは分かるけれど,同時に,2+2+2+2にもなっているから,かけ算の意味を「足し算の繰り返し」と捉えてもいいのではないかという疑問です。
これについては,「かけ算の意味」と「かけ算の答の出し方」を区別するというのが答になります。つまり,かけ算の意味は「1当たり量×いくつ分=全体の量」だ。そして,足し算の繰り返し(2+2+2+2)は,かけ算の意味ではなくて,答えの出し方の1つなのだと捉えます。
「答の出し方の1つ」と書いたのはこういうわけです。⑤(うさぎの耳)の答を出すときは,2+2+2+2でなくて,4+4でもいいわけです。だって4匹のうさぎの左の耳を数えると4本で,右の耳を数えると4本で,合わせると8本だ,でも答が出るわけですよね。これに対して,2+2+2+2というのは,1匹ずつの耳の数を足し合わせて答えを出すという方法を使ったわけです。
(p.17)


乗法の意味に関する児童の理解の実態調査

問4

7×2.4の式で求められる問題を1つ作りましょう.ただし,問2の②のような面積を求める問題はのぞきます.今まで学習したことを思い出して考えてみましょう.(式・答えは書かなくてよい.)

(p.10)

<表4:問4の解答分類>*2
①. 7×2.4 17.9%(57名)
②. 2.4×7 26.6%(85名)*3
③. 2.4倍 13.5%(43名)
④. その他 22.6%(72名)
<表5:問4の正答率>

◎正しく問題をつくれたと判断するもの(解答類型a g) 13.2%(42名)
○おおよそ正しく問題をつくれたと判断するものを含めたもの(解答類型a g b h) 21.0%(67名)

(p.5)

誤答例としては,2.4×7の問題(解答例5)をつくった児童が多かった.やはり乗数が整数の方がイメージしやすいのではないかと考えられる.
<解答例5>

2.4mのリボンが7本ありました.それをぜんぶつなげると何mになりますか.

(p.6)


小学校児童による有理数の乗法における乗数効果の分析

1) “乗数効果”とは「被乗数として用いられる数のタイプは演算としての乗法を知覚する上での困難性に対して効果なく,乗数として用いられている数のタイプが重要となる」というもので,1より大きい数では整数よりも幾らか困難なだけであるが,1より小さい数は非常に困難であるという傾向である。文章問題においても計算問題においても共に乗数効果の存在が指摘されている(Greer,1990,1992)。
(pp.212-213)

本研究の目的は,小学校児童における乗数効果の存在の有無を確認し,もし乗数効果が存在する場合にはその原因を明らかにすることを通して,克服に向けての示唆を得ることである。この目的に対して,小学校第4,5,6学年の児童を対象にした質問紙調査を実施する。
(p.206)

2) 正答者ではなく通過者としたのは乗数と被乗数を交換する児童や,乗数が帯小数と純小数の場合に,例えば×1.2を×12÷10と計算の工夫によって立式する若干名の児童を集計上除外したからである。
(p.213)

課題2 たかし君は次のような計算をしました。
3×0.8=2.4 計算をしてから,たかし君は考えました。
「かけ算なのに,答えがもとの3よりも小さくなっちゃった。何か変な感じだなあ」
さて君なら,たかし君に何ていってあげますか? くわしく書いて下さい。
(p.207)

課題3 次の①から⑤のうち,正しいと思う番号に○をつけなさい。
かけられる数×かける数=こたえ
① かけ算のこたえは,かける数がかけられる数より大きいとき,かけられる数よりも大きくなる。
② かけ算のこたえは,かけられる数がかける数より大きいとき,かけられる数よりも大きくなる。
③ かけ算のこたえは,いつでも,かけられる数よりも大きくなる。
④ かけ算のこたえは,かける数が1より大きいとき,かけられる数よりも大きくなる。
⑤ かけ算のこたえは,かけられる数が1より大きいとき,かけられる数よりも大きくなる。
(p.207)

学年別にみた場合,特に第4学年における対称問題の通過率が低いことと併せて,各問とも学年の上昇に伴い通過率の向上が指摘できる。また問題別にみた場合,×整数に対して,×帯小数,×純小数では通過率が明らかに下降している。しかし,非対称問題では同様な傾向は確認できない。上述の検定結果と併せて,特に第4,第5学年において明らかな乗数効果を確認することができる。
(p.209)


小学2年生の乗法場面に関する理解

作問a 5×6になる算数のお話をつくりましょう
作問b 絵をみてかけ算になるお話をつくりましょう
文章題a 1はこに 4こずつ ケーキを 入れていきます 6はこでは なんこに なりますか
文章題b おかしの はこが 3つあります 1つの はこには、おかしが 5こずつ はいっています みんなで なんこに なりますか
(p.41)

対象 大阪府の公立小学校の2年生3クラス108名(男59名、女49名)、平均年齢は8.0歳であった。調査は2007年3月に実施した。(略)また、国立大学生21名を対象とした調査を2007年1月に実施した。
(p.40)

さらに、次の基準A,Bを設定した。基準Aでは、被乗数と乗数の位置を問わず正答とした。例えば、「5×6」の話を作ることが要求されている作問課題に対して「6×5」の話が作られたときも正答とした。同様に、文章題では「5×3」の式を作るべきところ「3×5」の式でも正答とした。これに対して、基準Bでは、そういった場合を正答として認めなかった。算数の正答基準として適切なのは、基準Bであると考えられる。
(p.42)

Figure 2は、小学2年生の作問課題と文章題の正答率をまとめたものである。基準AとBでの正答者数に関して、McNemar検定をおこなった結果、文章題bでのみ差がみられ(z=3.62, p<.01)、文章題bでは基準Bのときに基準Aのときより正答率が低い*4ことが明らかになった。その理由は、被乗数と乗数が逆になった解答が多くみられたためであった。
(pp.43-44)

Figure 3は、大学生の作問課題と文章題の正答率をまとめたものである。基準Aでは、すべての課題で正答率が100%であった。基準AとBの正答者数に関してMcNemar検定をおこなったところ、文章題bでのみ差がみられ(z=3.32, p<.01)、文章題bでは基準Bのときに基準Aのときより正答率が低い*5ことが明らかになった。その理由は、被乗数と乗数が逆になった解答が多くみられたためであった。
(p.44)

第2は、被乗数と乗数に対する理解の程度に関することである。小学2年生では、文章題bにおいて被乗数と乗数が逆になった解答が多くみられた。この結果から、被乗数と乗数の区別に関する理解は、交換法則を学習していない小学2年の時点で不十分である可能性が示唆される。一方、大学生についても、文章題bにおいて被乗数と乗数が逆になった解答が多くみられ、その比率は、小学2年生よりも高かった。これより、大学生は被乗数と乗数のちがいをほとんど意識していないか、または、乗法の計算式が「被乗数×乗数」で表されることを理解していないと推測される。
(p.46)


長方形の面積の公式における「縦×横」の変遷と多様性について

縦×横という言葉から、何を連想するだろうか。“たて×よこ”というフレーズは現行、小学4年生の算数の面積の単元の中で、“長方形の面積の求め方”として扱われている。50年前に小学生だった人も、“たてかけるよこ”の響きから、まず長方形の面積の公式を思い浮かべると思われる。英文で表された等式【The Area of a Rectangle=Length×Width】の日本語訳を聞かれると、ほとんどの日本人は、【長方形の面積=縦×横】と答えるのではないだろうか。(略)
Lengthは長方形の長い辺(の長さ)、Widthは長方形の短い辺(の長さ)を表している。つまり、【The Area of a Rectangle=Length×Width】を直訳すると【長方形の面積=長い辺(の長さ)×短い辺(の長さ)】となる。
(pp.5-6)

では、長方形の面積の導入には横縦方式が最も適しているのであろうか。確かに平行四辺形や三角形の面積への自然な移行を考えると、横縦方式が理に適う。それでは何故、日本では、明治期、長短方式をやめ、縦横方式を採用したのだろうか。前節で述べたように、当時長方形の直角を挟む二辺に当てられていた漢字は、和算で用いられた長平、長幅、長寛、縦横などであった。和算では、“長”(振り仮名はナガサ)と書けば、長い方の辺を意味するわけだが、日常生活では、ナガサという言葉から長いという意味は出てこない。ナガサ×ヒロサもしくはナガサ×ハバすると一般には、どれとどれの積であるか不明になる。ナガサ、ヒロサに代わるものとして、明治35年国定教科書制度設置に際し、日常生活でも用いられ、児童にも受け入れやすい言葉である(和算における縦横ではない)“たて”と“よこ”が採用されたのではないだろうか。そして、語順も慣れ親しんでいる“たてよこ”の順になり、“よこたて”ではない縦横方式の導入がなされたと考える。
(p.12)


具体的操作をもとに意味理解を深める学習展開

たこが2ひきいます。
たこの足は、1ぴきに8本ずつあります
たこの足は、なん本ありますか。
(p.110.《BA型》)

子どもたちが作った問題は,どれも1あたり量が先に書かれているので,立式も単純に数が出てくる順に式にしているとも考えられる。そこで,教師が子どもの問題文に手を加え,いくつ分が先にくるようにした。この場合でも,子どもたちは間違えずに,8×2と式に表すことができた。理由を聞くと,たこの足の1あたり量だから,2ではなく8。だから8×2になる。」と得意気に説明することができた。
(p.110)

かけ算の導入

2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っているが,これもかけ算の意味の理解を確かにするためと考えられる.図1のみかん全部の個数を4×6=24と表すときに,被乗数4が一つ分の大きさ,乗数6が幾つ分を表していることを大切に扱う必要がある.ただしこの意味は世界共通でなく,例えば英語ではこれを6×4=24とするので,被乗数,乗数の意味は逆になる.なお昭和44年の「小学校指導書算数編」では,基準にする大きさのいくつ文かにあたる大きさを「表わす」ことに触れているが,表現という側面からは被乗数と乗数の意味が特に重要となる.またかけ算の学習は,例えば2の段では被乗数が2の場合に乗数を1から9まで系統的に変化させ(図2),8×2などはここで扱わないが,これもかけ算の意味を大切にしていることの一つの現れであろう.
(p.50)


かけ算の意味理解を促すための問題状況の図示の試み


(リリース:2013-02-09 早朝)

(最終更新:2013-02-13 早朝)

*1:http://www.jyukennews.com/02sigaku/tokusyu11-2308.htmlによると,平成22年度,東京都の国立・公立・私立小学校に通う児童の数は595,669人です.集計児童数(解答者数)は,半数を超えています.

*2:原文には解答類型a-d,e-f,g-i,j-mで4つの表が差し挟まっています.

*3:この行と解答類型eおよびfについて,原文は「7×2.4」となっています.しかし前後を読めば,「2.4×7」の誤記と判断できるので,引用に当たり書き換えました.

*4:正答者数や正答率の数値が本文にありませんが,Figure 2を読み取ったところ,文章題bにおける基準Aの正答率は100%にほんのわずか足りず,基準Bの正答率は80%を少し超えたくらいです.

*5:正答者数や正答率の数値が本文にありませんが,Figure 3を読み取ったところ,文章題bにおける基準Bの正答率は30%台です.