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式に単位(古いもの)

その際,「式に単位をつけるべきか」の確認もしておかないといけません.1957年発行の今回の本,1961年と1971年の2種類の『水道方式入門』,そして読んできた本やWebの情報を総合すると,戦後すぐの算数では,かけ算の式に「4こ×45=180こ」「45こ×4=180こ」と,かけられる数には単位(助数詞)を添え,かける数には添えないという式の書き方が,広く認められていたようです.
現在はどうかというと,算数の授業では,数教協スタイルの本で「4こ×45=180こ」や「4こ/人×45人=180こ」の表記を見かけることもありますが,教科書を含め多くが「4×45=180」と,単位なしです.その一方で,学校を出てみると,「4個×45人=180個」と,かける数にあたるものにも単位がつくのが,当たり前になっています.メールでは「45人×4個=180個」と同型の式を受け取ることもあります.

かけ算の順序・1957-2013

上記について,これまで読んできた本やWebの情報,書いてきた内容,そして再度,大学図書館で確認したことを,整理することにします.


まずは『水道方式入門 整数編 新版』からです.

「1台に車輪4個ついている自動車が3台あると,車輪はぜんぶでいくつですか?」を表わす式が,乗法
4×3(4個/台×3台)
なのです。前にある数が1あたり分離量で被乗数といわれ,あとの数は普通の分離量で乗数といわれます。
(pp.47-48)

上記は第II章の中なので,著者は銀林浩です.「1あたり分離量」は,この引用の少し前で定義されています.現在では単に「1あたり量」と書かれますので,「1あたり分離量」は,試みとして表記したけれど定着されなかった,と思うのがよさそうです.
以下は第IV章からで,著者は岡田進です(関連:水道方式入門に《BA型》).

「1mが8gの針金,0.6mの重さは何gですか。」というときの式は,8g/m×0.6mですが,×0.6を0.6回加えるでは意味がつかめません。8g/m×\frac{2}{3}mの×\frac{2}{3}も同様です。
(p.196)

1mが8gの針金
3m分の重さ…………8g/m×3m=24g
0.6m分の重さ………8g/m×0.6m=4.8g
\frac{2}{3}m分の重さ…………8g/m×\frac{2}{3}m=\frac{16}{3}g=5\frac{1}{3}g
1m分の重さ…………8g/m×1m=8g
0m分の重さ…………8g/m×0m=0g
(p.197)

乗法をこのように定義すると8×3の8は「1mあたりの重さ」という量を表わし,3は「針金の長さ」という量を表わしています。ですから,私たちは,この乗法の考え方を普通「量×量」と呼んでいます。厳密にいえば「内包量×外延量」ということになります。
ところで 量×量 で乗法を導入するにしても,最初から,連続量の長さや重さを素材にするわけにはいきません。1あたりの量がとらえやすい分離量が適切です。たとえば,うさぎの耳の数(1ぴきあたり2本),たこの足の数(1ぴきあたり8本)などがそうです。これだと,うさぎ1ぴきには耳がどれも2本ずつありますから,3びき分の耳の数は 2(本/ひき)×3(びき),1ぴき分では,2(本/ひき)×1(ぴき),0ひき分では,2(本/ひき)×0(ひき)と×1,×0もスムーズに理解させることができます。

「うさぎの耳 …… 1ぴきあたり2本」(p.198)といった1あたり量の指導,「2本×3=6本」(p.200)などの乗法の意味を例示したあと,次のとおり,式の表記の比較を行い,パー書きを含む式が最も良いと結論づけています.

また,式の表記を「2×3」「2本/ひき×3びき」あるいは「2本×3」のいずれにするかは,どれでも結構でしょう。しかし,量×量 の意味がはっきりとらえられ,先への発展を考えると,「2本/ひき×3びき」が優れているとおもいます。
(p.202)

結論づけたものの,もう少し読み進めて,気になった点を挙げておきます.タイルに対応するかけ算の式は,「2×5」「4×2」*1など,被乗数・乗数に単位が見られません.そしてどのタイルと式との対応づけを見ても,式は縦×横で表されているという特徴があります.


次は『算数に強くなる水道方式入門 (1961年)』です.先日も指摘しましたが,奥付によると,銀林浩が執筆・編集に携わっていない点には,注意をしていきたいところです.
かけ算の式の初出は次のとおり.著者は岡田進です.

「時速60kmの自動車は,\frac{2}{3}時間では何Km*2進みますか」という問題は60km×\frac{2}{3}ですが,(略)
(p.181)

そして,分離量×分離量,連続量×連続量,ほかのかけ算の式が,2ページあとで一覧になっています.

(図省略*3) 3×2=6  りんごと皿はそれぞれ独立したもので,この計算は1皿分をしらべて計算します。
(図省略*4) 2×3=6  バラバラに分離したものを1かたまりにまとめ,それがいくつあるかしらべて計算します。
(図省略*5) 4×2=8  1あたりの量は外からみえないが必要によっては出してみれる。g, l, mなどのかけざんに入るつなぎとなる。
(図省略*6) 5円×3=15円  連続量×数量で数量が分離量のとき
(図省略*7) 8円×2=16円  単価×数量で数量が連続量のとき
(図省略*8) 6g×3=18g  線密度×長さ=重さ
(p.183)

ここから規則性を探ると,次のようになります.「被乗数×乗数=積」という構文において,

  • 被乗数および積については,連続量のとき単位を付けます.金額も連続量として扱います.
  • 乗数については,分離量・連続量を問わず,単位を付けません.


下巻にも,目を通しました.

  • 遠山啓(編): 水道方式入門・下巻 小数分数の計算, 国土社 (1961).

Amazonで見つかりませんでした.大学図書館で読んだ本の奥付は「1961年10月25日 初版印刷」「1961年11月1日 初版発行」となっており,上下巻同時刊行です.
この本には,パー書きが出現します.

  A B A+B
高さ 100g 50g 160g
金高 250円 350円 600円
単価 2.5円/g 7円/g 4円/g

(p.17)

Aが250円÷100=2.5円(これを2.5円/gとかきます)
(同)

しかし上のとおり,パー書きは,値の表記として見られ,式の中には出現しません.
かけ算の式は,次のとおり,上巻と同じ規則でした.

2mでは120円×2=240円
(略)
\frac{2}{3}mでは120円×\frac{2}{3}=80円
(p.21)


Webからの情報です.小学校学習指導要領 算数科編(試案) 昭和26年(1951)改訂版を見ました.これまでよく参照してきたのは,「V. 算数についての評価」ですが,そこでは特徴的なものは見当たらず,他のところで,取り上げるべき記述がありました.

 (3) 計算などについて,理解をもたせる
 「一冊5円のノートを,6冊買ったら,いくら支払えばよいでしょう。」という問題を解くときには,「5円×6」として,その結果を求めるのが普通である。ところが,この問題を,「ノートを6冊買いました。どれも1冊5円でした。ぜんぶでいくら支払ったらよいでしょう。」とすると,「6×5=30(円)」として結果を求めるこどもがでてくるであろう。
 こどもが,このような誤った解決をするのは,かけ算の意味をひととおり理解しているにしても,その理解が形式的になっていることを示しているといえる。
 問題が,どんな形式で出されようとも また,いくつかの条件がどんな順序で書いてあろうとも,かけ算を式で示すとすれば,(グループの大きさ)×(グループの個数)=(量全体の大きさ)であることが,こどもにじゅうぶん理解されておらなければならない。この一般化がふじゅうぶんなために,6×5=30(円)というような式を書くのである。
 とにかく,形式的な練習に移るにさきだって,技能などについての理解をじゅうぶんに伸ばすことを忘れたのでは,反復練習したものを有効に用いることができないであろう。

IV. 算数についての学習指導法

このうち,「5円×6」は「かけられる数には単位を添え,かける数には添えないという式の書き方」に該当します.
そして被乗数・乗数の両方に単位をつけていない「6×5=30(円)」については,「その理解が形式的になっている」としています.
これは『算数科の教育心理』に書かれている件を思い起こさせます.そこでも,「4年1組45名で,こう堂にいすをはこんでいます。1人が1こずつ4かい運ぶと,みんなでいすは,なんこ運ぶことになるか。」という問題に対して,「4こ×45=180こ」と「45×4=180」の式が並べられています.
先日書いたのと別の視点で,この件の見解を列挙します.

  • 「45×4=180」も正しい(その場面に合った)式であるという主張を支持するツイートが見られます.そしてその考え方を,分離量どうしのかけ算,したがって,現在2年で学習するかけ算の文章題にも適用可能という思惑も見られます.
  • しかし私はその主張や思惑には賛成しません.一つは(森毅の指摘とも重なりますが),「45人」から「45こ」(または「45こ/回」)に変換する必要があり,テストや学力調査で「45×4=180」と書いた答案では,それが読み取れないからです*9
  • 次に,トランプ配りの乗法への適用については,実用性の課題があります.例えば2.4cmの紐7本を合わせてできる長さといった,連続量×分離量(あるいはGreerの分類に基づくと,equal measures)の場面には適用できません.また本人はこうだと解釈しても,式を受け取った他の人が,同じように解釈してくれる保証がありません(関連:りんご 15こ).
  • 45×4=180が正しい式であるという論証は,例えば,Vergnaud (1983, 1988)の著述から得ることができます.単位を付けるなら「45人×4こ/人=180こ」となり,この形の式は,かける数が1あたりで述べてきました.パー書きを無視しても,そのアプローチを日本の算数で取り入れるなら,2つの量の関係を式で表す4年の段階が適切であり,それ以前では困難が予想されます.


筆算の順序で引用しましたが,『「小学算術」の研究』p.247には,「5円×8」という式が見られます.ただしこれについては,被乗数先唱の方が都合がよいとする根拠として,書かれたものであり,この形の式が緑表紙教科書や,それに基づく学校の指導で,実際に使われたかどうかは,不明です.


まとめとして,「式に単位」のパターンをいくつか挙げることにします.「45人で,講堂にイスを運んでいます.1人が1個ずつ4回運ぶと,みんなでイスは,何個運ぶことになるりますか」という場面に対し,次のように分類名と式を書きます.*10

  • 単位なし: 4×45=180
  • 被乗数と積に単位: 4個×45=180個
  • 被乗数はパー書き: 4個/人×45人=180個
  • すべてに単位: 4個×45人=180個

そして,1960年代あたりまでは,「単位なし」と「被乗数と積に単位」が併存していました.1960年代から1970年代においては,そこに「被乗数はパー書き」が加わります.数学教育協議会(水道方式)の展開により,この式が普及する一方で,「被乗数と積に単位」の利用頻度が下がってきます.
現在では,「単位なし」が算数の教科書や各種出題で採用されており,「被乗数はパー書き」は数教協のほか,その影響を受けた団体(学力研など)の指導に限られます.日常生活では,「すべてに単位」が,飲食物や日用品の数量表記でよく用いられています*11.Webやメールでも,見ることができます.
もし「かけ算の順序」に関心がある方が,ここまで読んでくださったら,次のことについてご理解いただくことを要望します……「サンドイッチ」のルーツは,「被乗数と積に単位」という表記法,したがって戦前戦後の算数教育にあります.

(最終更新:2013-04-29 早朝)

*1:p.205の最初に出てくる式「3×4」は,タイルとの対応がとれていません.

*2:Kが大文字なのは原文ママ

*3:引用者注:1皿に3個ずつりんごの乗った皿が2皿の図.

*4:引用者注:2本横並びの木が3セットという図.

*5:引用者注:4個入りのキャラメルが2箱という図.

*6:図の下に「(5円のけしゴム)」

*7:図の下に「1mが8円のテープ2mの値段」

*8:図の下に「1mが6gの針金3gの重さ」

*9:「出題が不適切」「過程が分かるような解答欄にすべき」という指摘も見かけますが,そこで終わっており,実際に出題をして学力を検証したり定着を図ったりする事例の実施や紹介が,見当たりません.当ブログでは今月刊行の本で,基準量が後に示されたかけ算の文章題において,たし算の式,かけ算の式の順に書かせるという事例を見てきました.

*10:「乗数と被乗数を入れ替えた式」の取り扱いは,今回,都合により割愛します.余談ですが,今年の全国学力テストの解答類型の中にも,「乗数と被乗数を入れ替えた式なども許容する。」が入っています.

*11:多くの場合,等号と右辺(積)は書かれません.