わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

multiplication is the area of the rectangle

ガッと読みました.
ツイートの中で,米国のCommon Coreについての記事が,今月,ウォール・ストリート・ジャーナルに載っている,という話に興味を持ちました.

Republicans Should Love 'Common Core'をダウンロードしました.Republicans(共和党員)とは何のこっちゃと読んでいくと,第2段落に,Republican National Committee(共和党全国委員会,RNC)ではCommon Core State Standards*1が採択されなかったとあり,著者らはその方針は間違っていると主張しています.
記事の中ほどに,分数に関する良くない教え方と,Core Standardsに基づく考え方が記されています.良くない教え方というのは,ピザのスライスによって6分の1や6分の2,そして足したらどれだけになるかなどを学習するものです.著者らは,それでは分数どうしのかけ算ができず,また負の数を取り扱えないという欠陥を指摘しています.
記事は続きます.Core Standardsによると,分数は数直線上の点によって定義されます.2分の1と3分の1は,0と1の間の点として表されます.その枠組のもとで,たし算は,2本の線分の和であり,かけ算は,2本の線分からなる長方形の面積となります.
"1/2 is the point on the line half-way between 0 and 1" や "1/3 is the point ...",たし算は "It is the total length of the combined segment ..." と,「is the」が続く書きぶりは,明快であり,「こうなのだ!」と言っているように見えます.しかし数と計算には,いろいろな見方,見せ方,考え方があっていいはずです.教授と名誉教授の連名で書かれた記事を,添削するのは僭越なのを承知で,

Likewise, multiplication is the area of the rectangle formed by the two line segments, just like the multiplication of whole numbers.

となっている箇所が

Likewise, multiplication can be regarded as the area of the rectangle formed by the two line segments, just like the multiplication of whole numbers.

であったら,もう少し安心して読むことができたのですが.


Common Core State Standardsは,Home | Common Core State Standards Initiativeで参照ができます.「》Mathematics Standards」をクリックしていくと,ブラウザ上で読むことができます.個人的にはPDFファイルを読むようにしています.
ちょっと面白かったのは:

  • "Sample of Works Consulted"と題するセクションがあり,PDFのp.92には,「Wu, H.」から始まる3件の書誌情報が入っています.ウォール・ストリート・ジャーナルの上記記事の第2著者のことでしょう.
  • 分数のかけ算が面積であることについては,PDFだとp.36,WebだとGrade 5 | Number & Operations―Fractionsに書かれています.いわゆる商分数(a/b=a÷b)のほか,(a/b)×q=a×q÷bによって「分数をかける」*2計算が,整数をかけたりわったりする操作の組み合わせで行えることを,前提としています.長方形の面積計算のあとに,倍概念や,文章題を解くことが,規定されています.
  • 何度か"visual fraction model"という言葉が出てくるので,用語集(Glossary,PDFではp.87)に当たると,"A tape diagram, number line diagram, or area model."と書かれています.テープ図,数直線,面積のモデルの中から,問題を解くのに都合の良いものを選べ,ということでしょうか.

他の文献を一つ,見ておきます.ピザのスライス,あるいは円の一部によって分数を表す考え方は,isbn:0205110762の分数の章*3でも出現しますが,序盤に見られるだけで,非常に小さな扱いです.図としては,長方形を縦や縦横に切ったり,数直線で考えたりするのが中心的です.ピザのスライスの利用が限定的なのは,80年代の解説書からでも,知ることができたのでした.


冒頭の3つのTogetterについて…個々には,興味深いツイートやコメントがあったものの,全体としてみると,各自の経験をもとに,今の(学習指導要領に基づく,行列を学習しない*4)高校の数学は脆弱だ,それは大学入学後の学習に多大な影響を及ぼす,というのが主流で,何だかなあという思いがあります.
今さら変えられないとは思いますが,最初のページのタイトルが「数学は何のため?」なのに対し,まとめ主さんの吹き出しの最初が「数学教育は何のために?」となっている点も,混沌を招いているように感じています.自分がもし,高校の数学教師だとしても,そこにコメントする勇気は持てません.


昔書いたこと:


追記:Frankel & Wuの記事と,RNCの判断のどちらに賛同するかというと,今回読んだ記事だけでは,決めがたいというのが実情です.共和党ということを離れても,教育は純粋に学問・学術の話だけで決めることができず,政治的な要因が多かれ少なかれ入り込んできます.記事の構成に限って言うと,childrenやparentsが最後のほうに現れており,賛同者を増やすための手法なのが透けて見えて,好みではないのですが.

(リリース:2013-05-13 早朝)

(最終更新:2013-05-13 朝)

*1:タイトルは「Common Core」,最初と最後の文では「Common Core State Standards」,本文の多くは「Core Standards」と書かれており,いずれも同じものを指しています.

*2:左辺のうち,a/bが乗数です.

*3:Behr, M. J. and Post, T. R. (1988). Teaching Rational Number and Decimal Concepts. In Post, T. R. (Ed.), Teaching Mathematics in Grades K-8, Longman Higher Education, Allyn and Bacon, pp.190-231.

*4:もし,高校で行列を学習することが不可欠だというのであれば,学習指導要領がいつどのように改訂されているかを踏まえ,次の改訂のタイミングに注意して長期的なアクションをとるべきでしょうが,そこまでコミットしようという人が現れないのが残念です.