先日の終わりに書いた,wikipedia:除法の後半(初等教育における除法)の件ですが,本文とノートに進展がありました.
具体的には(参照した版,差分),「東京書籍算数教科書の著者の1人」の著書から引用して等分除と包含除を説明し,前からあった記述のいくつかに「[要出典]」がついています.ノートでは,「除法の意味付けには2種類ある」を主軸に置いた修正の提案も出ています.
google:等分除と包含除],[google:包含除と等分除などで上位に見かけるものを,整理してみます.
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Webでは等分除先行のようで…….
包含除と等分除に関して,小学校学習指導要領解説 算数編(2008)に記載があります.第3学年(p.110)と第5学年(p.167)です.該当箇所を抜き出します.
ア 除法が用いられる場合とその意味
除法が用いられる具体的な場合として,大別すると次の二つがある。
一つは,ある数量がもう一方の数量の幾つ分であるかを求める場合で,包含除と呼ばれるものである。他の一つは,ある数量を等分したときにできる一つ分の大きさを求める場合で,等分除と呼ばれるものである。なお,包含除は,累減の考えに基づく除法ということもできる。例えば,12÷3の意味としては,12個のあめを1人に3個ずつ分ける場合(包含除)と3人に同じ数ずつ分ける場合(等分除)がある。
包含除と等分除を比較したとき,包含除の方が操作の仕方が容易であり,「除く」という意味に合致する。また,「割り算」という意味からすると等分除の方が分かりやすい。したがって,除法の導入に当たっては,これらの特徴を踏まえて取り扱うようにする必要がある。なお,おはじきなど具体物を操作したり,身の回りのものを取り扱ったりするなど,具体物を用いた活動などを取り入れることが大切である。
あわせて,除法には割り切れない場合があり,その場合には,余りを出すことを指導する。
イ 除法と乗法,減法の関係
除法は,乗法の逆算ともみられる。そこで,乗法と関連させて,被乗数,乗数のいずれを求める場合に当たっているかを明確にすることも大切である。包含除は3×□=12の□を求める場合であり,等分除は,□×3=12の□を求める場合である。また,実際に分ける場合でも,包含除も等分除と同じ仕方で分けることができることなどにも着目できるようにしていくことが大切である。そのようにして,どちらも同じ式で表すことができることが分かるようにする。
(p.110)
小数の除法の意味
除法の意味としては,乗法の逆として割合を求める場合と,基準にする大きさを求める場合とがある。
Bを「基準にする大きさ」,Pを「割合」,Aを「割合に当たる大きさ」とすると,次のような二つの場合である。
① P=A÷B
これは,AはBの何倍であるかを求める考えであり,除法の意味としては,Pが整数の場合には,いわゆる包含除の考えに当たる。例えば,「9メートルの赤いリボンは,1.8メートルの青いリボンの何倍になるか」という場合である。式は,9÷1.8となる。
② B=A÷P
これは,基準にする大きさを求める考えであり,除法の意味としては,Pが整数の場合には,いわゆる等分除の考えに当たる。例えば,「2.5メートルで200円の布は,1メートルではいくらになるか」という場合である。式は,200÷2.5 となる。
(p.167)
一つ前の『小学校学習指導要領解説 算数編』にも,pp.93-94とp.132に見られます.第3学年・第5学年であり,趣旨は上の引用と変わりません.
第5学年で包含除・等分除という言葉が出てくるのは,その直前の「小数の乗法の意味」と合わせて,意味の拡張が背景にあるからです.包含除は(割合の,または比の)第1用法,乗法は第2用法,等分除は第3用法で,まとめて3用法です.
低学年の学習に,焦点を当てます.かけ算とわり算,そして配ることについて,『数と計算の指導―小学校算数指導資料』を図書館で読み直しました.
第4章 整数の乗法と除法
4.1 同じ数の集まり
4.1.1 乗法の素地
第2学年で乗法を導入する以前に,その素地として,第1学年で次のような経験をさせておく必要がある。
(1) 数えることと関連して
数概念の指導の最初に,集合の要素の個数を求めたり,順番を求めたり,またとび数えをしたりなど,数えるという活動をさせる。
例えば,おはじきが何個かある場合,児童は初め1個ずつ数えるが,次第に2個ずつ,5個ずつなどにまとめて数えるようになる。これは,とび数えによったり,まとまりを作ってそれに数詞を対応させたりなどすることにより,数詞を唱える回数を少なくして,能率的に数えることを工夫しているとみることができる。また,おはじきを2個ずつ,5個ずつ,などのまとまりにまとめ,それを整理して並べ,小さなまとまりの数がいくつできたかをもとにして数えたりもする。
これらの活動は,数える集合をいくつかの部分集合に分け,各部分集合の要素の個数をもとにして,もとの要素の個数を調べているといえる。このとき,各部分集合はすべて同じ個数からなるようにしておくと都合がよい。こうして集合の要素を長方形の形に並べて数えることは,後に乗法を扱うときの素地として大切である。
(2) 加法の計算に関連して
加法の概念を指導して,2口の数の加法にある程度習熟すると,その発展として3口の数の加法もいくらか扱う。初めは加える数は等しいとは限らず,10といくつと考える活動が主なねらいとして扱われる。その後,例えば「みかんを5個ずつ,3人の子供に配るには何個みかんが要るだろうか。」などという問題を与え,5+5+5として解決できるようにする。これが後に乗法の関係としてとらえさせるきっかけである。
(3) 量の測定に関連して
長さ,かさ,広さなどの量や測定の意味が理解できるようにするために,大きさを比べたり,その比べ方を明らかにしようとする活動が多く取り入れられる。こうしたときには,何か基準になるものをきめて,それがいくつ分あるかによって大きさを表したりする。この場合の基準は,数える場合のまとまりの大きさに相当し,「それがいくつ分」はまとまりの個数に相当することになる。
4.1.2 除法の素地
先に述べた乗法の素地となるような経験は,見方を変えれば,いずれも除法の素地にもなっている。
例えば,数えることに関しては,「8個のみかんは,2個ずつまとめて数えると4回になる」などという見方ができるようにする(図1)。これはまた,減法で表すと,8−2−2−2−2で数え終えたことになる。
また,分配を,計算とは別に,実際に操作させることもある。例えば,「8個のみかんを4人に分けるにはどうしたらいいだろう。」などという場面を考え,各人に1個ずつ配り,まだあまりがあったらまた1個ずつ配るという操作をさせる。
このようにある大きさを,「基準の大きさのいくつ分」としてとらえたり,同じ大きさに分けるような操作は,数えることや測ることを確実にするという意味で大切なことであるが,それらがまた,乗法や除法の素地を養う意味をもつことも十分に配慮して指導にあたる必要がある。
(pp.143-145)
注目したいのは,配る「操作」は,除法の素地に入っていることです.
「配る」という字面だけでいうと,乗法の素地の中にも見られます.それは,「みかんを5個ずつ,3人の子供に配るには何個みかんが要るだろうか。」のところです.
しかし乗法の話では,配る操作あるいは配り方は,出てきません.式はたし算だと5+5+5,そして2年でかけ算の式にする際には,5×3が期待されています.
理屈としてはここで,トランプ配りの1回分(3人→3個)を,一つ分の大きさと解釈する余地があります.しかし実例として,3人を3個に,5個を5回に変換する(ことを認める)ような,低学年向けの授業例は見かけません.その一方で,「子どもが3人います。みかんを1人に2こずつあげます。みんなでなんこいりますか」という出題において「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる」を,指導上の留意点として挙げている書籍があります(『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66,りんごのかけ算).配り方を指定した,2年生向けの文章題もあります(都算研の学力調査).
「配る」に関しては,次のように認識すると,上記引用を含め多くの算数の解説文書に合致します.
- 「何個ずつ」と「何人に」が既知で,「全部でいくつ」が未知のときは,累加または乗法を用い,配る操作には焦点を当てません.
- 「全部でいくつ」と「何人に」が既知で,「何個ずつ」が未知のときは,累減または等分除を用い,具体的な操作としてトランプ配りが活用されます.
- 「全部でいくつ」と「何個ずつ」が既知で,「何人に」が未知のときは,累減または包含除を用い,トランプ配りとは別の,配る操作を行うことがあります.
ただし,累加・累減・乗法・等分除・包含除の扱いには注意が必要です.というのも,累加や乗法の式で表すことについては,書籍やWebでもそれなりに目にしているのですが,累減の式で表す,という授業があるわけではないのです*2.等分除の式,包含除の式についても同様です.等分除も包含除も,演算決定のための手段であり*3,式にする際には,どちらも「わり算」の式で表すことになります.
等分除と包含除とで,わり算の答えが同じになるのはなぜかというと,一言でいうなら乗法の交換法則です.『数と計算の指導』では,次のように解説しています.
(2) 除法の定義
上にあげた場合の書く例は,いずれもその数学的構造は乗法的になっている。
(略)
これらの事項を一般化して,自然数の除法は,2つの自然数a,bに対して,式a=b×pまたはa=p×bに適する自然数pを求める演算として定義する。このpを,aをbで割った商と呼び,p=a÷bと書く。
ここで,乗法の定義が同数累加の意味によるにせよ,倍概念によるにせよ,被乗数と乗数の意味は異なる扱いになっているので,除法のこの決め方では,異なる2つの演算を同一の名称で呼ぶことになる。しかし,実際は,自然数の乗法には交換法則が成り立つので,そのいずれもが同一の数を求める演算となるため,定義としては矛盾は起こらない。
(pp.156-157)
今年2月,「□×△と△×□,答えは同じだけど,意味は違う」を取りまとめましたが,わり算の話としては,「全部で□個,△人に同じ数だけ配るのと,△個ずつ配るのとで,式は同じだけど,意味は違う」となります.いやこれはもっと表現を見直さないと….
*1:「48リットルのタンクに水を一杯入れるのに、Aの管だけでは8時間、Bの管だけでは6時間かかる。AとBを同時に使うと何時間かかるか」の答えに行き着いていない!
*2:小学校学習指導要領解説 算数編(2008) p.65の「具体物をまとめて数えたり等分したりし,それを整理して表す活動」では,分ける活動には累加の式が期待されています.
*3:いわゆる「積の乗法」も取扱い注意です.例えば,3×5のタイルを与えられ,「これを使って,等分除・包含除の問題を作りなさい」という出題が課されたとします.そのままでは困難ですが,補助線を引いて,大きさ3のタイルが5つとすれば,「このタイルを5人に同じ大きさになるよう分けると,1人のタイルの大きさはどれだけですか」「このタイルを,大きさ3で分けていくと,いくつできますか」が得られます.補助線を引く作業は,積の乗法を倍の乗法に帰着することに相当します.大きさ1のタイルの面積を1㎠とすると,作った2つの問題は「15㎠÷5=3㎠」「15㎠÷3㎠=5」と表せますが,「15㎠÷5㎝=3㎝」で表される問題は作っていない---それは等分除・包含除のいずれでもない---ところにも,気をつけたいものです.