わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

さいしゅう2

0. 前回

1. 43200=27×1600

数学の本だけれど縦書きの新書です.さて…

例えばある小学校の先生が27人のクラスを受け持ったとします。机を整理していたら、いきなり封筒が出てきて、現金43200円が入っていたとしましょう。この現金はなんでしょう?
この43200という数、一見「4、3、2と並んできれいだな」という感じの数字にしか見えませんが、27人のクラス担任の先生にとっては重要な意味を持ちます。というのは、

43200=
27×1600

だからです。すなわち、このお金はもしかするとクラス全員から1600円ずつ徴収した何らかのお金の可能性がある、というわけです。
(pp.27-28)

数量×単価かいな,と思って読み進めると,どうやら

という慣習を採用しています.なお,組み合わせや階乗(p.46, p.58)については,降順です.また,整数がaの倍数であるときのかけ算の式は,「a×それ以外」です.
もう一つ,面白かったのが:

35を見て「7×5」と答えられるのは,日本に住む子どもが小さなころから「5×7=35*1」と覚えさせられるからです.
(pp.37-38)

おっとっと,かけられる数とかける数が,ひっくり返っているよ…
昨今の「かけ算の順序」論争に対する,著者なりの主張が含まれているように感じました.

2. 益川教授に聞いてみよう

ゆとり京大生の大学論―教員のホンネ、学生のギモン

ゆとり京大生の大学論―教員のホンネ、学生のギモン

学生 私たちも、どちらかというと、先生に教えてもらったことを覚えていくような勉強をしてきたと思います。
益川 うん。例えば、小学校の掛け算の順序、3×4=12が正解のときに、4×3=12っていう答えを書いた人は×をつけるという指導がなされているんだよね。でも、発想の仕方によっては、4×3=12でも正しいわけでしょ(14)。
普通の子が3×4と考えるところを、なんでその子は4×3って考えたのか、そのことを先生はちょっとでもその子に聞いてみるといいと思う。もしかしたら、その子独自の発想をしてるかもしれない。先生も忙しいからそのひと手間を省いてしまっている。その手間を省いてしまったことで、この子のユニークな発想が殺されちゃったかもしれないわけ。
掛け算が、どちらでも正解だ、ということがわかることで、掛け算の可換性という発想につながっていく。○×をつけちゃうことで、その関心をもつという芽をつんでしまったかもしれないんだよね。
(p.15)

ページ左に,「(14) かけ算の順序問題(http://ja.wikipedia.org/wiki/かけ算の順序問題〔最終参照日:二〇一三年二月一八日〕)については、さまざまな議論の対象となっている。」ともあります.
こうやって社会現象を取り入れ「教育を語る」のか,と,勉強になりました.これまでに書いたことを持ってくるなら,空中戦の東京,地上戦の大阪かなあ.大阪式の「足で集める」を,続けるとします.

3. 3×4と4×3

算数授業研究 VOL.88

算数授業研究 VOL.88

87号の連載,2年生「はこの形」で辺の数を式に表し,その数を読み合う活動の続きである.③4×3=12と②2×6=12の式を読み合ったあとの活動である.
残った式は次の5つ.
①6×2=12
④3×4=12
⑤4×4−4=12
⑥4+4+2×2=12
⑦2×4+2×4−4=12
3番目に人数の多かった④3×4=12を検討した.④の式はその前に検討した③のかけられる数とかける数を交換した式ではあるが,見方はまったく違うものである.交換法則は答えは成り立つけれども,式の意味は違うことを再認識することができる活動となった.
(p.60.中田寿幸「辺の数え方を式に表し,友達の式を読む②―2年 はこのかたち―」)

直方体の辺の数を,かけ算を使った式で表そうというものです.
これは,あれだ.空間図形だ…ありました.

続いて頂点の数を考えます。これはあまり多様な意見がなく,五角柱の場合「5+5」と「5×2」に集約してしまいます。そこで私の方から,
「2×5には見えないかなあ。」
と揺さぶってみました。しばらくして一人の児童が,
「縦に並んでいる2つの点が5カ所あるから2×5になる。」
と説明しました。説明も上手でしたが,「点」という目に見えにくいものは,なかなか多様には見えにくいことも分かりました。

式というフィルター ( 小学校 ) - 授業がんばりMATH - Yahoo!ブログ

見方を変えると,5×2にも2×5にもなる,というのの空間図形バージョンです.

九九する究めるハックする

4. 3個ずつの2皿分,2個ずつの3皿分

しかしながら指導においては,無名数式でなければならないということはなく,目の前の子どもの実態と必要に応じて名数式を用いるのがよいと思います.
例えば,2年のかけ算の,3×2と2×3は,前者が3個ずつの2皿分で,後者が2個ずつの3皿分で答えは同じですが,式の意味が異なります.
(図省略)
このようなときには,単位をつけた名数式にして式の意味を確かにするか,無名数式をことばで補いながら式の意味を確かにさせていくことが大切です.
(p.36)

これは,『先生のための学校 計算力が確実に伸びる指導』と同じです.3と2の数も,みかんを皿に乗せているところも,同じです.
長方形の面積について,例えば,2cmと3cmをかけるのではないこと(p.80)は,これまであまり見かけない,踏み込んだ見解を示しているように感じました.まあ算数教育として,そこで書かれている指導が自然だし,数学的な根拠もありますので,「ダメだろ」とは言わないまでも「攻めてるなあ」という思いをしました.
ただ,単位量の考え方をもとにしたかけ算の解説は,「ダメだろ」でした.「5本/1ふさあたり×3ふさあたり=15本」は,意図は分かるけれど,算数教育でも,日常生活でも,ちょっと見かけません.

5. 実数は名数,法数は不名数

wikipedia:塚本明毅に,生没の年月日と略歴があります.著書には『筆算訓蒙』も入っています.
それはそれとして,かけ算:

① 乗法の定義
最初に定義と語句の説明が次のようになされる。「乗は俗に掛け算という。同数の和を求むる法にして,加法に原づきて,其のさらに簡便にして施すべきものをいう。…乗者原数あれこれに某数を掛けて,その原数を実と称し,掛くる数を法という。其の得る所の総数を,得数といい,又積と称す。其の実数は必ず名数にして,法数は姑く(しばらく)これを不名数と見て可なり(其の理は比例式に於いて詳らかにすべし)。その得数は,必ず実数と類を同じくして即ち其の同名数なり。初学の者須からし左の九九合数表を暗記すべし。」九九は「一一如一,一二如二」から始まり「九九八十一」で終わる半九九である。「如」は積がー桁の数の時に用いられる文字で「が」と読ませている。
(p.14)

かけられる数ではなく「原数」と表記されており,これが「実」または「実数」,かける数は「掛くる数」そして「法」「法数」です.
「法数は姑くこれを不名数と見て可なり」「その得数は,必ず実数と類を同じくして即ち其の同名数なり」は,

  • 被乗数と積に単位: 4個×45=180個
式に単位(古いもの)

のルーツと言っていいように思います.読み進めると,

実が操作を受ける量(または数)であり,法が操作なのだから,この概念は量と数の乗除における関連を明確にする上でも有効性をもっている。

なんてのも出てきます.ただ,表記の順序に関しては,

なお,法数が無名数であることに「しばらく」と付されているのは,巻三の「正比例」の章で,例えば「米三十五石にして,其の価金二百八十両なる時は,米百五十石の価幾何なるや」という問題の解法の中に150×280という,両を表す数と石を表す数の積が使われるからと思われる。

とありまして,280両×150ではないという次第です.
『筆算訓蒙』は,早稲田大学図書館の古典籍データベースで読むことができます.PDFになっています.

(最終更新:2013-07-19 朝)

*1:「ごしちさんじゅうご」のルビあり.