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交換法則・異質性・教える側・教わる側・解除時期

「かけ算の順序」に関して,気になるツイートを見かけました.フォローして,1か月分を読んでみました.
以下が「まとめ」となっています.同日(2016年12月6日)と翌日のツイートで,思考を展開されています.

あいにく,はてなダイアリーでは,ツイート内の丸囲み数字がうまく表示されません.https://twitter.com/nowhereman134/status/806203922364833792を開けた上で,以下をご覧ください.
1つずつ,自分が読み書きしてきたことと,照合してみます.①交換法則 については,「問題文を読み,かけ算で求められると判断すること,すなわち演算決定は,交換法則の適用(A-1)よりも前に行わなければならない」(かけ算の順序論争について)が思い浮かびます.つけ加えるなら,「場面を式で表すこと」と,累加や交換法則その他の「計算の性質」とを,区別して取り扱っているのが,日本の小学校のかけ算導入における指導の実情と思ってよさそうです.
②異質性 については,算数(子どもたち*1の認知)と数学(モデル化)の両面で,思い当たるものがあります.算数面では,「子どもたちにとって,「4が3つ」と「3が4つ」は基本的に別物である.具体物で考えると---4つずつキャンディを持っている3人の子どもは,3つずつキャンディを持っている4人の子どもよりも,運がいい.キャンディの総数は同じなのだけれども.」と訳した件があります(Luckier!).複数の洋書で,"asymmetry"という単語を見かけます(海外では,「かけ算の順序」「たし算の順序」についてどのような見解を出していますか?).
数学では,「量と数」がキーワードとなります.「2m×3」といった式です(算数では認められていない形ですが).1970年代のNagumoや田村は,異質性を直接言わず,「量」を公理的に定義し,「数」を整数から単位分数・有理数・実数へと拡張させていきながら,量と数のかけ算について議論を進めています(数学者による「かけ算の順序」).「量×数」でかけ算を定義しておけば,「数×量」は使用しませんし*2,aを量,nを数としてnaと表記する場合にも,anの形は特に必要としません.
批判する数学者が持ち出した「日本語は右Z-加群的」(算数を教えるのに必要な数学的素養・読み直し)というのも,ちょっと面白い,数学の使い方だと思います.
③教える側(黒板上、教科書上など)による順序固定 について,2010年以降の解説や授業例を挙げたいと思います.解説は,布川の「2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っているが,これもかけ算の意味の理解を確かにするためと考えられる」(算数教育・資料集)です.授業例としては,「3まいのおさらにりんごが6こずつのっています。りんごはぜんぶで何こですか。」(どっちの式でもいいのかな - 北数教)や「チューリップがたくさんありました。子どもが7人います。そこで,このチューリップを3本ずつくばったら,ちょうどなくなりました。チューリップは何本あったのでしょう。」(掛順ひっかけ問題は,ネットde真実)です.
上記の2つの文章題は,それぞれ6×3,3×7と表すこと,言い換えると,2つの数を出現順からひっくり返して並べ,かけ算の式にすることが,期待されます.かけ算の順序を問う問題で整理を試みました.中でも金田の文献は,ひっくり返さない文章題とひっくり返す文章題について,小学2年生(学年末)と大学生とで同じ問題を解かせ,正解率を比較しています.ネットでもまた論文・書籍でも,批判の対象となっていますが,現在(平成30年度まで)使用される6社すべての2年の教科書に掲載されていること,その種の文章題には「一つ分の数」が分かる絵が添えられヒントとなっていること,学習指導要領解説にも3年生ですが,「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」という,同パターンの文章題が記載されていることは,知っておいて損がないと思います.
④教わる側への順序固定強制 について,「強制」という言葉は,個人的に把握する限り教育学の知見と相容れないと認識していますので,批判者の土俵に安易に乗ってよいのかという懸念もあります.それはともかくとして,異質性そして同質性を,学年を経てどのように認識し,授業やテストで活用すべきかという視点で考えるのは,価値があると思います.
そうしたとき,2年生なのですが,3行4列に●が配置された状態(アレイ図 (2015.12))で,●の数を求めるとなると,3×4も4×3も認められることは,指摘しておきたいと思います.これは同質な場面に対し,異質性に基づく定義を適用して,かけ算の式で表せることを意味します*3.学年を経て…は次の番号で取り上げましょう.
⑤解除時期 ですが,『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』では「第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。しかし、高学年になり、乗法では交換法則が成り立つことや外国での立式を知り、数の意味をしっかり理解できていれば、必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。」と記されています.
面積などの同質でない場面で,かける数とかけられる数を交換した式も認めるという授業例には,「4年1組45名で,こう堂にいすをはこんでいます。1人が1こずつ4かい運ぶと,みんなでいすは,なんこ運ぶことになるか。」にトランプ配りを適用させた,4年生の授業例(算数科の教育心理)と,「さとうと小麦粉の重さの比を2:5にしてケーキをつくります。小麦粉を150gにすると、さとうは何gいりますか」という,比を使った6年生の授業例(2×30g)があります.それぞれの出典の,前のほうのページを読むと,かけ算の導入の学年では,逆に書くと間違いと指導しています.
あと,「他にも「異質掛算」優位説を選んで順序固定を容認した場合、「どちらの順番にすべきか」」について,日本においては,「かけられる数×かける数」にするのが合理的と言えます.
これは現在に限った話ではなく,例えば緑表紙教科書の編纂にあたり「式に表す場合も 5円×8 というように,被乗数を先に書くのを常とするから,被乗数先唱の方が都合がよい。」(筆算の順序)と理由を述べた件や,20世紀はじめの算術の指導書などに見かける「10寸×10」「乗法において,被乗数は,名数なるを得れども,乗数はつねに無名数にして決して名数なることできずしかしてその積は被乗数と同じ名数なり」(教育評価論から見たかけ算の順序―若柳小学校事例の別考察)とも合致します.
「合理的」とは次のようなことです(算数を離れますが).「5円×8」と書けば,「5円のものが8個」と想像できます.それに対し「8×5円」だと,「5円のものが8個」のほか「8円のものが5個」と解釈できる余地があります(かけ算の順序が何の役に立つんですか).
最後に,「一つ分」「いくつ分」という書き方は,同質性に加担することになるのでお勧めしません.かけられる数とかける数の異質性が明確な言葉の式は「一つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」です(教科書でもよく見かけます).2年ではいずれも整数ですが,4年では,「一つ分の数」が小数になる場合を扱います.0.1×3は,0.1+0.1+0.1として計算したり,0.1リットルの水が入った容器を3つ用意して操作したりできます.「いくつ分」を「割合」に変更し(乗法の意味の拡張),小数でも適用可能にするのは,5年です.

*1:先生方は「子どもたち(反応,学び,認識の変化)」に関心を持ち,批判する人々は「教え方」に着目する傾向があるな,とも感じています.例えば:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160917/1474124398

*2:「数×数」は,使用します.そのおかげで,(2m×3)×4=2m×(3×4)=2m×12=24mと計算できます.面積に代表される「量×量」は,かけて得られる量に注意しながら,意味づけがなされます.

*3:異質な場面に対し,同質性に基づく定義を適用するのは,1960〜70年代の米国SMSGや,21世紀になってからの中国http://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/51が挙げられます.