わさっきhb

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アレイ図の応用問題

 いきなりですが問題です.下の図で,赤い点の総数を求める式を答えてください.

 さっそくですが解答です.まずは2×3×4=24でしょう.
 しかし2つの「×」の意味が少し,違っています.それを確認するため,(2×3)×4と,2×(3×4)という2つの式を比べることにします.前者の式のうち,2×3は,もとの図のうちの一部,具体的には以下の図によって表されます.

 これが1列分で,実際には4列あるから,2×3を4倍するというわけです.分解式では2×3=6 6×4=24となります.
 それに対し,3×4も,もとの図の一部として,具体的には以下の図によって表されます.

 同じ数の赤い点が置かれる入れ物の数は,3×4=12です.どの入れ物にも,2個ずつ,赤い点が配置されるので,「一つ分の数×いくつ分=全部の数」という言葉の式の「一つ分の数」には2,「いくつ分」は12が割り当てられ,式は2×12です.分解式では3×4=12 2×12=24となります.
ところで,3×4と式にした場面については,4×3と書いても,差し支えありません.横1行分の4個の入れ物を,「一つ分の数」とみなせばいいからです.
そうしたとき,2×4×3という式にしても,いいのではないかとなります.総合式では2×(4×3)=24,分解式だと4×3=12 2×12=24となる式に対応する図は,すぐ上のと同じです.
 2×4×3の左のかけ算を先に計算する,(2×4)×3を表すには,上記のいずれにもない見方が必要となります.ここで2×4は,もとの図のうちの一部,具体的には以下の図によって表されます*1

 これが1行分で,実際には3行あるから,2×4を3倍するというわけです.分解式では2×4=8 8×3=24となります.
 以上をまとめると,冒頭の問題の答え(総数を求める式)は,以下の10個になります.

  • 2×3×4=24
  • (2×3)×4=24
  • 2×3=6 6×4=24
  • 2×(3×4)=24
  • 3×4=12 2×12=24
  • 2×4×3=24
  • (2×4)×3=24
  • 2×4=8 8×3=24
  • 2×(4×3)=24
  • 4×3=12 2×12=24

 上記すべての式に,共通点があります.「2×」が,いずれにもちょうど1回,出現しますが,「×2」は出現しません.というのは「2」が,赤い点の総数を求めるにあたり「一つ分の数」となっているからです.「×3」も「3×」も出現しているのは,いくつ分としても一つ分の数としても使用可能だからです.2×3×4の直後に指摘した,2種類のかけ算の違いは,かけられる数・かける数が一意に定まるかけ算と,そうでないかけ算の違いとなります---簡潔に言うと「倍」と「積」です*2
 ここまでの検討で使用したかけ算の式は,「一つ分の数×いくつ分=全部の数」のみです*3.12の入れ物に2個ずつ入っているのだから,12×2=24はダメなのかというと,それを支持するロジックもVergnaud (1988)にて書かれています(かけ算と構造).


 上記の出題の情報源を整理をします.問題と解答,そして2×4を除く画像は,以下の記事が初出です.

 同種のシチュエーションが,2003年のネット上のQ&Aに見られます.

 問い方は,少し異なっています.該当箇所を抜き出します.

●お金の場合
「10円玉を、縦4個、横8個の長方形の形になるように並べました。10円玉は全部で何円ですか。」という問題の場合、
「縦に数えると40円、横に数えると80円。だから、40と80をかけて、答えは3200円。」という考え方は正しいでしょうか。私は、間違えていると思います。しかし、どこを間違えているのかを説明できません。間違えているならば、どこを間違えているのか、説明してください。

 これについては,個数を変えて,検討・紹介をしてきました.

 順序論争では,以下のように書いていました.

3.3 「倍」と「積」のかけ算

(略)
「倍」と「積」を組み合わせた計算も可能である.10円玉を以下のように並べたとき,その総額はいくらだろうか.そしてどのように計算すればよいか.

縦に見れば30円ずつ,横に見れば40円ずつある.だからといって30×40=1200と計算してはいけない.現実には120円しかない.10円玉の枚数を数えると,3×4=12で(4×3=12としてもよい),12枚ある.これで,金額が求められる.10円玉が12枚で120円というのは明らかだが,式にするなら10×12=120となる.2つのかけ算の式を合わせて,10×3×4=120と書くことができる.左辺=(10×3)×4=30×4=120とすれば,30円が4列あることを表現できるし,乗法の結合法則も確かめられる.

 この種のかけ算を,批判的な立場から取り上げている本もあります.

(p.46)
ここまで書けば,たいていの読者はばかばかしいと思うだろうし,筆者はそれを希望して書いているのであるが,しつこいようだがもう少しやってみよう.始めの3トン積のトラック5台が1列に並んでいて,そういう列が6列あるとする.砂の総量は全部で何トンか.1列で3×5または5×3,だから6列で6×(3×5)または(3×5)×6,…,それともトラックが5×6台または6×5台.1台3トンだから(5×6)×3または3×(5×6),….順序を気にする連中はこのうちどれが正しい書き方でほかのはすべて誤まりであるとしたいのだろう.

 このうち5×3は,「一つ分の数×いくつ分=全部の数」に合いません.また「ほかのはすべて誤まりであるとしたい」は,授業や学力調査*4において,1つの場面で複数の式が期待されている実情を踏まえていないなとも,読んで感じました.
 批判から離れまして,知る限り最古の事例は,次のところに書かれています.

 書き出します(漢字・かなは現在の表記にし,図は省略しています.なお,図において5の並びは7つずつ3行あるように見えますが,本文に合わせるには,6つずつ3行に読み替える必要があります).

(p.23; https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826625/16)
41. 乗法原理第四.第五.5を図の如く並ぶるとき此全数字の値の総和は5の6×3倍,即5×(6×3)なり.然るに又一行の数字の値の和は5×6なるを以て全数字の総和は5×6×3,又一列の数字の値の和は5×3なるを以て全数字の値の和は5×3×6なり,故に
5×(6×3)=5×6×3=5×3×6,
又37によれは5×6=6×5,5×3=3×5なるを以て
5×6×3=6×5×3=5×3×6=3×5×6.

 途中の「37」は,前ページ(国デジの画像では同じ箇所の左側)に書かれた「37. 乗法原理第一」のことです.そこでは,*を用いたアレイ図とともに,現在でいう交換法則が記されています.
 交換法則を認めていることから,『数学をいかに教えるか』のトラックの事例に近いのか,というと違いもあります.『簡易中等算術』では,もう少しページを進めたところの「51. 名数の乗法」(p.32; https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826625/21)に,「乗法の意味によれば被乗数は名数なることを得るも,乗数は必不名数ならざるべからず.被乗数が名数になる場合には積は之と同名数なり」とあります.トラックの件は,3トンが名数となります.本記事冒頭の問題も,赤の点の数が名数になります.『簡易中等算術』の5を使ったアレイ図は,「5」も「3行」も「6列」も,不名数とみなすことで,よりさまざまな式が成立しています.

*1:convert -size 160x120 xc:white -stroke blue -strokewidth 2 -fill none -draw "rectangle 1,1 40,40 rectangle 40,1 80,40 rectangle 80,1 120,40 rectangle 120,1 158,40" -stroke none -strokewidth 0 -fill red -draw "rectangle 10,10 16,16 rectangle 23,23 29,29 rectangle 50,10 56,16 rectangle 63,23 69,29 rectangle 90,10 96,16 rectangle 103,23 109,29 rectangle 130,10 136,16 rectangle 143,23 149,29" 2x4.png

*2:「積」のかけ算だから,「×3」も「3×」も出現している,というわけではありません.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140822/1408718509の《箱売り》で挙げた式,90×(3×2)=(90×3)×2では,いずれも「倍」です.

*3:細かいことを言うと,「2×3×4=24」「2×4×3=24」は,この式に基づいていません.これらの式で求められるのはなぜかを,この言葉の式と,筋道を立てて考えることにより,残り8種類の式が得られた次第です.

*4:2年生の調査からだと,都算研のhttp://tosanken.main.jp/data/H27/gakuryokujitaichousa/h26kekkatokousatu2nen.pdf#page=4の大問5があります.第1学年にも,ひき算で,答えを2つ書かせる問題が健在です.