わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

ツイートにお答えします

1日遅れですが,[twitter:@LimgTW]さんと[twitter:@tetragon1]さんによるツイートのうち,目にとまったものについて,回答と関連情報を書いておきます.

Q: 「たて×横×高さ」は入れ替えてもいい?

この事例は,直方体の体積を求める際には,「たて×横×高さ」は入れ替えてもいいという話です.直方体が与えられたとき,体積を求めるための3つの長さについて,どれをたて・横・高さと“見る”かは任意となります.もちろん代数的に,交換法則と結合法則を使って,a×b×c=c×b×aほかを証明することで,入れ替えてもいいと言っていいでしょう.
直方体ではなく長方形について,一意的に縦・横の別がないことは『新・算数指導の疑問これですっきり―It’s OK!』p.45(質問にお答えします - 3. ななめ)に,また交換法則と結合法則を組み合わせた任意性については『新式算術講義 (ちくま学芸文庫)』に書かれています.
この件は,「1こ90円のシュークリームが、1はこに3こずつ入っています。2はこ買うと、代金は何円になるでしょう?」に対して,例えば90×2×3という式を立てて良いかについての答えを与えていません.ある学習指導案では間違いとみなしています(結合法則を,交換法則と区別して認識する).2数の積で対称性がある場合,ない場合について海外文献を読み,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130219/1361220251#20130219f4にメモを書きましたが,時間をとって改めて記事にすることにします.

Q: 集合の直積? ベクトルの直積?

かけ算の順序論争あるいは乗法の意味で出てくる「直積」は,多くの場合,wikipedia:直積集合に書かれている「集合のデカルト積」を指しています.
論争に関連したところから,出典を探ると,中島 (1968b)があります.参考文献と称するメモの5)で,以下のとおり解説されています.

直積集合の要素は順序対であることを考慮すると,A×B≠B×Aとなりますが,有限集合のみを考え,集合Xの要素数を|X|と表すとき,|A×B|=|A|×|B|=|B|×|A|=|B×A|が成り立ちます.ここで外側2つの「×」は直積の定義,内側2つの「×」は自然数うしの積の定義によります.
この等式をもとに,直積型のかけ算はかけられる数とかける数が交換可能であるとみなされ,視覚的には面積と対応づけられることが多いです.

Q: 直積は特殊?

交換可能なかけ算が他にあるか,というと,純粋な数どうしのかけ算が挙げられます.複素数までを対象とします.四元数を対象としたときには交換法則は成り立たないので,演算の対象を拡張するときには,それまでに成り立っていた性質が成り立つか確かめよう,という主張は,『算数教育指導用語辞典』にもあります.
数学的には直積,視覚的にはアレイに基づく,かけ算の導入やカリキュラムづくりは,特殊だし,「過去のもの」扱いでいいと思います.キーワードは「数学教育の現代化運動」「School Math Study Group (SMSG)」です.当ブログから一つ引用すると,次のところです.

このように説明が入っているのは,アレイ図とその数え方が,当時すなわち昭和40年代前半,日本の算数教育に普及していなかったことを示唆します.
かけ算を学習しようとする子どもたちに対して,集合の直積を示す必要はないとしても,ここで集合の概念が顔を出すのは,数学教育の現代化運動(現代化)と密接な関係があります.
現代化については,『確かな算数・数学教育をもとめて (杉山吉茂算数・数学教育論選集)』pp.256-273で「終わった」段階での概括(1994年に書かれた論文)を読むことができます.当雑記でも,今月4日に,ほんの少しだけ言及しています.直積(デカルト積)に基づく国内外の乗法の例は,デカルト積のピクトリアルをご覧ください.

アレイ図

英語文献だと,Anghileri&Johnson (1988)Greer (1992)では「過去のもの」扱いをしています.以下のように(Vergnaud, 1983),教育上良くないと書いているものもあります.

The Cartesian product is so nice that it has very often been used (in France anyway) to introduce multiplication in the second and third grades of elementary school. But many children fail to understand multiplication when it is introduced this way. The arithmetical structure of the Cartesian product, as a product of measures, is indeed very difficult and cannot really be mastered until it is analyzed as a double proportion. Simple proportions should come first.
デカルト積は,(積の考え方として)非常にいいので,フランスではとにかく,小学校の第2〜3学年でかけ算を導入する際に非常によく使われてきた.しかしこの方法で導入すると,多くの児童が,かけ算の理解に失敗している.量の積として,デカルト積による算術的(乗法的)な構造というのは実のところ非常に難しく,複比例として理解できるようになるまでは,その修得は困難である.単純な比例(割合)の問題を最初にもってくるべきである.)

Q: 算数学は理系的思考とは言えない?

「理系的思考」が強くても*1,「文系的思考」が弱いと,小学校の先生として採用されるのは難しいだろうなあ,とは思います.
工学に携わっている者として,小学校の教育できちんと学習してほしいなあと思っているのは「答えを一つ,求める/選べるようになること」です.ここである問題に対して正解は複数あり*2,その中の一つを選ぶことを想定しています.また現在では,答えを言う(プロダクトあるいはソリューションを,ぽんと示す)だけでは不十分であり,なぜその答えに至ったか(根拠,コンセプト)を言うことも,強く求められています.
かけ算の順序論争をもとに,文字になった算数の授業例を見ていくと,「答えを一つ,求める/選ぶ」タイプの授業が,好ましいとされています.そこには問題解決学習が根底にあり,日本の授業のやり方・考え方は世界的にも認められています.世界比較や日米の比較を知るには,『日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou kenkyuu』を通して読むことをお勧めしますが,まずはドイツは100,日本は50,米国は81なぜ教材研究をご覧ください.
小学校の算数が,理系の思考を支援しているか否かは,教える方々,学ぶ子どもたち,そして周囲の人々次第かなと思います.私は「支援している」に一票を投じます.かけ算の順序論争に関わるより前に書いた,技術のエッセンスは,設計も関係してきます.

Q: 倍概念・比例関数・複比例は排他的? 包含関係あり?

定義としてはそれぞれ別ですが,それぞれが適用できる対象には,重なりもあります.すなわち,(2)の問いはnoとなります.
例えば,「1個15セントのケーキを4個買います.いくらになりますか」という問題を考えたとき,4個を4倍と見なせば(単位付きの式で表すと,15セント×4=60セント),倍概念ですし,1個15セントを比例定数と見なせば(同じく,15セント/個×4個=60セント),比例関数*3となります.これら2つの見方の詳細は,次のステップをご覧ください.
倍概念で解釈できるけれど,比例関係で表すのが不自然な例として,「基本使用量1,864円×50%」(乗数に単位を付けない?)のような,割合を使ったかけ算があります.
互いに排他的かどうか,包含関係を持つかに関する(1)については,前半(排他的)はたぶんyes,後半(包含関係)もたぶんyesです.「たぶん」は,「自分(takehikom)なりに【倍概念】【比例関数】【複比例】を定義するなら」と言い換えることができます.
包含関係ではなく,ある定義のかけ算を使って,別の定義のかけ算が表現できるかということになります.挙げられた3つではありませんが,《積の乗法》を《倍の乗法》に帰着すること,《倍の乗法》を《積の乗法》に帰着することについては以前に試みています(倍指向と積指向の整理Towards Japanese Multiplication Instruction).

Q: 複比例で,片方の量を固定して考えるのは?

複比例をもとに比例を考えることができるのは,複比例定数が隠れているからです.
x,y,zを変数としたとき,z=xyは,z=axy(aは複比例定数)でa=1の場合と見ることができます.そうすると,xを固定したときは,b=axと置くことで,z=byと表せます.bは,yがzに比例するという場合の比例定数となります.
とはいえ,比例あるいは線形空間などをもとに複比例を定義するのが,自然な流れでしょう.複比例の可換図式が,『量の世界―構造主義的分析 (1975年) (教育文庫〈8〉)』や『線型代数 (1976年) (現代数学への序章〈3 赤摂也,広瀬健編〉)』に載っています.

Q: 「倍」「積」への分類は?

比例関数はどちらかというと量どうしの積です.上でケーキの問題を挙げましたが,単価・個数・総額(被乗数・乗数・積それぞれの単位)が異なりますし,個数と総額の関係としてみると,そこに単位の変更(単価を媒介した単位の変換)がなされているのが特徴です.
線引きが簡単ではないことについては同意します.個人的には別々に概念を定義し,各事例がどこに分類されるかを確認したあと,各概念の相互関係を論証するように,したいところです.

*1:その思考の定義や,思考できることの判定方法などには,目をつむるとして.

*2:解答者は,どのような「解空間」があるかが分からない状態から,問題解決を図ります.

*3:個数が説明変数,総額が目的変数,という2つの変量の関係です.