わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

掛算順序で知っておくべき情報・知識は何なんだろうか

通して読んだ感想は,「飲まれてるなあ」でした.
「掛算順序」と称するトピックについては,あらかじめ情報を持っておいた上で対話をしないと,より多くを持っている人にコントロールされる,という一例かなと思います.
[twitter:@jun24kawa]さんが今後,お勤めのところの専門家から助言を得て再度この件でツイートをするか,それとも,算数については何も言わないことにするかは,分かりませんが,以下,参照・整備してきた情報源や記事にリンクしておきます.


算数教育に携わってきた方の書いた解説書を見てきた中で,かけ算の指導について,もっともバランスがとれているのは,次の文章です.

乗法の場面、「1ふくろにミカンが3こずつ入っています。5ふくろでは、ミカンは何こでしょう。」は、3×5と立式される。立式は、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」とまとめられ、それぞれ被乗数、乗数という。ところで、「オリンピックの400メートルリレー」や「このDVDは16倍速で記録できる」、「xのk倍は」の式は、どのように表わされるであろうか。それぞれ、一般的には「4×100mリレー」、「16×」、「kx」と表される。被乗数と乗数の位置が教科書の書き方と逆になっていることに気付くであろう。この例から分かるように、乗法では、数の位置ではなく、数が意味する内容に注目して、どの数が1つ分の数であるか、いくつ分はどの数かをしっかりと読み取ることが大切である。第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。しかし、高学年になり、乗法では交換法則が成り立つことや外国での立式を知り、数の意味をしっかり理解できていれば、必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。
(『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』pp.91-92; 転載元

ツイートで,テスト問題の出典を問い合わせていましたが,業者テストだけでなく,東京都で実施し数万人が解答する中にも,全国レベルの学力実態調査にも,昭和26年の学習指導要領試案にも,また海外でも,その種の出題を通じて,かけ算の式が正しく書けるかを判定している出題例があります.以下の記事で,新しいものからまとめており,今後も書き足していく予定です.

算数教育に携わる団体や教育産業の状況は,以下のところでまとめました.

a×bというかけ算の式の意味,そしてa×bとb×aがどう違うのか,などについては,次の2つです.

「兎の耳」でかけ算の検討をするのは,古くさいです.1972年にそれを使って2×3でも3×2でも良いと主張したのは遠山啓ですが,1979年に兎の耳を持ち出すのは良くなかったと釈明しています.

兎の耳のかけ算と,1970年代に何が起こったのかについては,2つずつ記事を書き,整理を試みました.

そもそも,「掛算順序」(これはTogetterまとめからの切り貼りです)は算数教育において周知されていません.wikipedia:かけ算の順序問題は内容が整理されておらず,自分(T.m.930)も少し入って手直しを進めています.『かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)』は,入門にはいいのですが,出題事例・諸団体の見解・海外の状況は十分取り上げられていると言えません.
「かけ算の順序」という言葉でさえ,算数教育の実践に携わる人が使うことはほとんど見られません.一つ分かっているのは

具体例を挙げて、少し説明を加える。かけ算の導入は、日本では次のように扱われる。
『しょうがくさんすう2年下』(中原他, 1999, p.16)
みかんがひとさらに5こずつのっています。4さらではなんこになりますか。
この問いに対して、1さらに5こずつ4さらぶんで20こです。このことをしきで
5 × 4 = 20
とかき「五かける四は二十」とよみます。
それに対して、英語ではかけ算を表す順序が逆で、“four plates of 5 oranges”という英語での表現より、4×5=20となる。そこで問題となるのは、例えばタイでは自然な語順が日本語式であるにもかかわらず、教科書は英語式の順番に従っている。単にかけ算の順序が逆になっただけで小さなことのようであるが、初めての学習者にとってはかなりの認知的な負担が強いられるだろう。この例に見られるように、認識的な差異を考慮に入れないでカリキュラム開発をするならば、教科書という基本的な教材の中に、基本的な問題を抱えこんでしまう可能性がある。
([数学教育協力における文化的な側面の基礎的研究 p.38; 転載元

で,一つの場面に対し「a×bか? b×aでもいいのでは?」ではなく「日本ではa×bと書くが,外国ではb×aになるのでは?」という問題意識を見ることができます.なお,この執筆者(馬場卓也・広島大学教授)が啓林館の算数教科書の英訳に携わったことは,国際比較に追加で記しています.
最後に手前味噌ですが,正解・不正解の根拠,歴史的国際的な観点については以下のところでまとめていますので,ご覧いただければと思います.