離散的 | 連続的 | |
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区別あり | 累加 | 倍 |
区別注意 | 1あたり | 比例 |
区別なし | 直積 | 面積 |
解き方
「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という問題に対して,
- 「累加」では,次の図を使って,3+3+3+3+3=15と計算します.この左辺を「3×5」と書きます.
- 「倍」では,上の図を使って,“3”をかけられる数,“5”をかける数と認識し,3×5と式にして,3×5=15と計算します.
- 「1あたり」では,上の図を使って,“3こ/さら”を1あたりの数,“5さら”をいくつ分と認識して,3こ/さら×5さら(または3×5)と式にし,3こ/さら×5さら=15こ(または3×5=15)と計算します.
- 「比例」では,次の図を使って,“3”を比例定数(または単位量当たりの大きさ),“5”をいくつ分と認識して,3×5と式にし,3×5=15と計算します.
- 「直積」では,次の図を使って,3×5=15(または5×3=15)と計算します.
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- 「面積」では,次の図を使って,3×5=15(または5×3=15)と計算します.
いくつか注意
- 2つの数の積によるかけ算を,対象としています.結合法則(□×(△×○)=(□×△)×○),体積*1,複比例*2は今回,対象外となります.
- 「区別」とは,かけられる数・かける数の区別です.a×bで表される場面において,b×aと書くと,意味が変わるのが「区別あり」と「区別注意」,a×bでもb×aでもよいのが「区別なし」です.
- 「離散的」「連続的」はそれぞれ「分離量」「連続量」と読み替えてもかまいません.これらの用語の注意点は,分離量と連続量,かけ算とわり算のはじめのところをご覧ください.
- 「離散的」の対象は,a×bという式で表す際の「片方」を指す場合と「両方」を指す場合があります.具体的には,累加については,かける数(b)のみ離散的であることを要請し,かけられる数(a)は小数や分数であってもかまいません.1あたりと直積については,aもbも離散的なのを前提とします.
- 「倍概念」は「倍」と同義です.
- 「倍」と「比例」はそれぞれ,離散的な場面でも利用可能です.分類の都合上,連続的と位置づけました.
- 乗数を先に書く海外のスタイルだと,倍は「5×3=15」になります.累加も少し修正が必要で,5×3=3+3+3+3+3=15(日本では,3×5=3+3+3+3+3=15)です.Vergnaudの考え方に基づくと,比例については上記から変更なしです.もちろん,直積や面積もそのままです.1あたりについては,海外でそのような解き方を見かけませんでした.
「区別注意」とは
1あたりと比例は,通常「1あたりの数×いくつ分」「y=k×x(kは比例定数)」という式で表されます.かけられる数とかける数には,明確な区別があります.
なのですが,1あたりの数や比例定数に相当するものを,かける数として扱っている事例もあります.
- 「パーティー会場で4人用のテーブルがすべて満席となり、さらに7人がまだ座っていないことを想定しよう。このとき参加者の人数を数えるとき、どのようにするだろうか。恐らくテーブルの数を数えて、それに4を掛けて、その結果に7を足すだろう」(『いかにして問題をとくか・実践活用編』p.151;テーブルの数に4をかけるより孫引き)
- Vergnaudの解説*3に見られる「」.なお,『算数・数学科重要用語300の基礎知識』p.187にも同じ表記があります.
それらは,比例関係にある2種類の数量において,下図*4のとおり,同じ列にある2つの数量の関係を,かけ算で表したものと言えます.
この関係において,かけられる数(基準量)は,表の上側にある数,かける数は矢印に添えた数(比例定数),そして積は表の下側の数です.これにより基準量×比例定数=積という等式が得られます.これは「y=x×k」と言っているようなもので,したがって逆にできるという次第です.
このように逆にできるのは,小学校の算数では「数量の関係を表す式」として,4年や5年で学習する内容をもとに,説明ができます.もちろん直接的に,交換法則を使えば,「いくつ分×1あたりの数」「y=x×k」とでき,上の解き方で「5さら×3こ/さら=15こ」という式に至るのですが,学校教育はその立場をとっていません.
ここまで書いた考え方と,いわゆるトランプ配り(例えば森毅『数の現象学 (ちくま学芸文庫)』pp.67-68;wikipedia:かけ算の順序問題にも記載あり)や,『かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)』p.43の「3km/(km/時)×4km/時」に象徴されるロジックとの,関連性については,検討の価値があるようにも思います.
関連文献
- 累加と倍のつながりは,小学校学習指導要領解説 算数編にあります(p.87,第2学年).
乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。
- 同解説p.107(第3学年)には,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」という例題があります.累加で答えを出すのは非現実的であり,倍の離散的な場面への適用と言えます.連続的な場面では,「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金が何円になるか」(p.166,第5学年)となっています.
- 倍・比例・面積による分け方は,名称は少し異なりますが前述のVergnaudと『算数・数学科重要用語300の基礎知識』に見られます.銀林浩は『数の科学―水道方式の基礎 (1975年) (教育文庫〈7〉)』(pp.104-105)の中で,その指導の順序を「1あたり量」→「面積型」―(ずっと間をおいて)→「倍」としています.
- 『教育評価 (岩波テキストブックス)』p.155では,乗法の意味として「正比例型(一あたり量×いくつ分=全体量),直積型(面積),倍比率型(倍),累加型(たとえば3+3+3)の4通り」を挙げています.また「4×8=32となるようなお話をつくってください」に対する採点基準として,正比例型では「4」を「一あたり量」,「8」は「いくつ分」と区別されているかを記しています(p.158).
- 累加でa×bとb×aが区別されることは,Vergnaudのほか,『新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践 (MINERVA21世紀教科教育講座)』p.113で「この定義では,3×4=3+3+3+3,4×3=4+4+4となる.つまり。被乗数と乗数の順序に意味がある」と記されています.なお,『新式算術講義 (ちくま学芸文庫)』pp.26-28では,累加で定義を与えた上で,自然数を対象とした乗法の交換法則を証明しています.
- 海外での,直積に基づく乗法の状況を,本から知ることができます.Vergnaud(フランス)のほか中国のケースでは,課題も合わせて記されています.またGreer*5は,区別ありの場面のあとで,Cartesian productに基づく区別なしの例を示し,"This sophisticated way of defining multiplication of integers was formalized relatively recently in historical terms."と述べています*6.
- 遠山の示した「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」(『遠山啓著作集数学教育論シリーズ 5 量とはなにか 1 (1978年)』p.116;りんごのかけ算より孫引き)や,wikipedia:かけ算の順序問題にある図(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:KoushijouMikaKakezan.png)は,直積に基づいています.囲い込みなしのアレイ図*7をもとに,その総数を求めるのも,直積であり,2つのかけ算の式がともに認められます.
ヒートマップ
「小学校ではどのようにかけ算への理解を深めていくのか」「校外からはどのように見ればいいのか」といった問題意識で,乗法の意味の理解のあり方を考えてみます.
これですが,3行2列(表側・表頭を除く)でエントリ冒頭に示した表について,それぞれのセルにその重要度に応じて背景色を塗り,いわばヒートマップとして,視覚化するのがよさそうです.
小学校で,2年のかけ算の単元終了時には,こうでしょうか.直積に色がついているのは,「アレイ」があるからです.
5年で,小数のかけ算を学習する時点では,こうなります.累加の色がそこそこあるのは,児童らは小数をかける場合でも累加で考える傾向があるのと,分数×整数でまだ使うからです.
比例や,順列・組み合わせまで学習を終え,小学校卒業時には,次の状態を期待したいところ.
「1あたりの数×いくつ分」を活用する,数教協スタイル*8では,話が変わってきます.2年終了時の状態のみ,載せておきます.
そこでの“熱さ”は2年学習時のものと明らかに異なっており,これが,教育とネットとの違いを表しているわけです.
まとめ
乗法(かけ算)の意味づけは,書籍からでもネットの議論でも,多岐にわたります.今回,「累加」「倍」「1あたり」「比例」「直積」「面積」という6項目を表に入れ,分類を試みました.項目間の関係や,学校内外の人々の認識の度合いを表すのに,活用いただければ幸いです.
そうだそうだ…私自身のヒートマップはと言いますと,場面によって強弱が変わります.どのマスも,最大から最小まで変わり得ます.なのでもし,画像化するなら,アニメーションGIFにしたいところです.
本日のエントリタイトルについて
- タイトルの全体構成は,PARANOiA Revolutionのアーティスト名をもとにしています.ちなみにSP踊はX3モードでクリア済みです.
- 「倍」「1あたり」「直積」をタイトルに入れなかったのは,それらの用語が学習指導要領解説に書かれていないからです*9.
(最終更新:2012-12-15 朝.「累加」に少し加筆修正をしました)
*1:「底面積×高さ=体積」を含みます.
*2:比例定数を1とした「z=x×y」の関係を含みます.
*3:Vergnaud, G.: Multiplicative Structures, Acquisition of mathematics concepts and processes, Academic Press, pp.127-174 (1983).
*5:Greer, B.: Multiplication and Division as Models of Situations, Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning, pp.276-295 (1992).
*6:野暮な個人的意見ですが,この中のsophisticatedは,ネガティブな意味合いで使用しているように見えます.
*9:もちろん検索すれば,「倍」は容易に見つかりますが,「〜倍」や「倍数」といった使われ方なのです.