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足せる内包量,足せない内包量

いきなりですが問題です.

何も のって いない 青い さらが 5まい あります。
1さらに りんごを 3こずつ のせます。
りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

答えは「15こ」です.式は「3こ/さら×5さら=15こ」で表せます.どのような式だと間違いになるか,という検討は本日しません.
続けてですが問題です.

1さらに みかんを 5こずつ のせます。
くだものは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

りんごを乗せてからみかんを乗せる,という展開です.答えは「40こ」です.式ですが,りんごは「3こ/さら×5さら=15こ」,みかんは「5こ/さら×5さら=25こ」,たし算して,「15こ+25こ=40こ」となります.小学校2年の範囲を超えますが,「3こ/さら×5さら+5こ/さら×5さら=15こ+25こ=40こ」と書くこともできます.
別の求め方もあります.1さらあたりで見ると,何もない状態から,りんごを3個ずつ,そしてみかんを5個ずつ乗せたのですから,「3こ/さら+5こ/さら=8こ/さら」となります.そしてそれが5皿ですから,「8こ/さら×5さら=40こ」です.一つの式で表すと,「(3こ/さら+5こ/さら)×5さら=8こ/さら×5さら=40こ」です.
なのですが,このように書いて,本当にいいのでしょうか?
「/」を単位に含む量は,内包量と呼ばれます.そして内包量は加法性を持たない,すなわち「足せない」量なのも,広く知られています.
ですが上の問題では,「3こ/さら+5こ/さら=8こ/さら」と,足すことができました.りんごやみかんの長方形配置や,かけわり図で表しても,足せるのが確認できます.
どんなときに,そのまま足すことができて,どんなときには,そのまま足すわけにいかないかを,考えることにしましょう.新たにですが問題です.

赤い さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のっています。
白い さらも 5まい あります。1さらに みかんが 5こずつ のっています。
くだものは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

こうすると,「3こ/さら×5さら+5こ/さら×5さら=15こ+25こ=40こ」は問題ありませんが,「(3こ/さら+5こ/さら)×5さら=8こ/さら×5さら=40こ」には抵抗があります.「3こ/さら+5こ/さら=8こ/さら」が,この場面には見られません.
総数で言うと,りんごは15個,みかんは25個ですので,果物は40個です.入れ物のほうは,赤い皿が5枚と白い皿が5枚で,合計10枚です.
もし,果物の数は増えも減りもせず,どの皿にも同じ個数の果物を乗せるとするなら,「40こ÷10さら=4こ/さら」となります.例えば,みかんを移動させれば,りんご3個ずつとみかん1個ずつという皿が5枚,みかん4個ずつという皿が5枚,ですので,「さらが 10まい あります。1さらに くだものが 4つずつ のっています」という状況(式に表すと「4こ/さら×10さら=40こ」)をつくることができます.
皿が10枚ある状況から,「3こ/さら+5こ/さら=8こ/さら」を得るためには…冒頭で2つに分けて書いた,青い皿の問題と結びつけてみましょう.手続きは,次のようになります.

  1. りんごが3個ずつ乗った赤い皿を5枚,用意します.赤い皿には1から5までの番号を振っておきます.
  2. みかんが5個ずつ乗った白い皿を5枚,用意します.白い皿にも1から5までの番号を振っておきます.
  3. 何も乗っていない青い皿を5枚,用意します.青い皿にも1から5までの番号を振ってきます.
  4. 番号i(i=1,2,3,4,5)の赤い皿のりんごを,番号iの青い皿に移し替えます.
  5. 番号i(i=1,2,3,4,5)の白い皿のみかんを,番号iの青い皿に移し替えます.

移し替える前の状態は,「3こ/さら×5さら+5こ/さら×5さら=15こ+25こ=40こ」で表されます.また移し替えた後の青い皿に着目すると,「(3こ/さら+5こ/さら)×5さら=8こ/さら×5さら=40こ」と書けます.
青い皿の果物について,赤い皿と白い皿へ同数になるよう振り分け,何も乗らなくなった青い皿を取り除くと,「40こ÷10さら=4こ/さら」も得られます.

式で表すと

足せる内包量,足せない内包量は,次のように定式化できます.
内包量は,2つの外延量の商であるという考え方から出発します.そして,内包量を持つ2つの対象a1およびa2が,何らかの方法で合併*1でき,合併された対象a3に至るものとします.
ここで,a1,a2,a3の持つ内包量をそれぞれI1,I2,I3と表記し,次のように商として書くことにします.
I1=E11÷E12
I2=E21÷E22
I3=E31÷E32
E11とE21とE31はある量空間に属する外延量で,内包量の被除数と呼ぶことにします.E12とE22とE32は別の量空間に属する外延量で,内包量の除数と呼びます.
さて,I3=I1+I2を満たすときに「足せる内包量」,I3≠I1+I2のときに「足せない内包量」と定義します.次の2つの等式をともに満たすとき,足せない内包量となります.
E11+E21=E31
E12+E22=E32
これと先ほどのI1,I2,I3の式とを結びつけると,2つの内包量の被除数どうし,除数どうしを足すことで,合併後の内包量の分子と分母が求められることを意味します.式は次のとおりです.
I3=E31÷E32=(E11+E21)÷(E12+E22)
ここに実用的な仮定としてE11,E12,E21,E22>0(ゼロやマイナスの量を対象としない)を置けば,
I1+I2>I3
となります*2
それに対して,次の2つの等式をともに満たすときには,足せる内包量となります.
E11+E21=E31
E12=E22=E32
内包量の被除数どうしは足しますが,除数は同等という場合です.このとき,次にようにして,合併後の内包量は,合併前の2つの内包量の和となることが確認できます.
I1+I2=E11÷E12+E21÷E22=E11÷E32+E21÷E32=(E11+E21)÷E32=E31÷E32=I3

事例を見ていきましょう.青い皿にりんごやみかんを乗せて,内包量のたし算ができたのは,5枚の青い皿がE12=E22=E32の役割を果たしていたからです.それに対し,「40こ÷10さら=4こ/さら」のほうは,「(15こ+25こ)÷(5さら+5さら)」と書くことができ,足せないほうの条件に当てはまるのでした.割り切れるように,3種類の皿の枚数そして果物の個数を設定しましたが,個数を変えれば割り切れるとは限らず,赤い皿と白い皿の枚数が異なると,平均で求めるわけにもいかなくなります.
相対速度も,共通する時間がE12=E22=E32に対応し,足せる内包量となります.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140330/1396126613で書いたコーヒーのブレンドの件は,コーヒー豆の価格についてE11+E21=E31,重量についてE12+E22=E32となり,足せない内包量です.食塩水を混ぜたり,30℃と40℃のお湯を混ぜたりといった,濃度や温度を「足せない」場面についても,E12+E22=E32となる量を見つけることができます.
人口密度について,「和歌山県の男性の人口密度と女性の人口密度」は足せますが,「和歌山県の人口密度と茨城県の人口密度」を単純に足すと,おかしくなります(https://twitter.com/tetragon1/status/450487065348558848).これもまた,E12,E22,E32に対応する,県の面積が共通か異なるかによって,説明できます.
なお,上に書いた式は,足せる内包量,足せない内包量となるための十分条件です.いずれの条件も満たさない(ように見える)場面として,2つの物体の衝突があります.衝突後の速度は,エネルギー保存則と運動量保存の法則が支配することになります.

(最終更新:2014-07-23 朝)

*1:「合併する」に対応する英語には,coalesce,compose,put togetherなどがあります.

*2:I1+I2−I3=(E12・E12・E21+E11・E22・E22)÷(E12・E12・E22+E12・E22・E22)