いきなりですが問題です.
次のかけ算になる文章題を作りましょう.
- 内包量×外延量=外延量
- 外延量×外延量=外延量
- 内包量×内包量=内包量
- 外延量×倍率=外延量
- 内包量×倍率=内包量
- 倍率×倍率=倍率
- 内包量×外延量=内包量
小学校の算数,かけ算・わり算で使用される量を分類するにあたり,「外延量」「内包量」という言葉が使われることがあります.外延量は5メートルや3秒などの量で,「足せる量」と言ったりもします.それに対し内包量の代表的なものは,時速5キロメートルといった速さです.単価や「1あたり」の量も,内包量となります.「足せない量」と呼ばれたり,時速5キロメートルは5km/hと表せることから「パー書きの量」と表現することもあります.
外延量(extensive quantity)・内包量(intensive quantity)の分類は,国内に限った話ではありません.以下をご覧ください.本記事の後ろで,また別の海外文献を取り上げます.
本記事で活用するわけではありませんが,内包量どうしを足していい場合もあります.ある道のりを往復して,行きと帰りとで速さが異なっていたら,それらの速さを足して2でわって得られる値と,往復の平均の速さとは,異なります(「足してはいけない」と言っていいでしょう).ですが時速30kmで2時間走って,そのあと時速40kmで2時間走ったとすると,平均の速さは,30と40の中間,時速35kmです.1個28円のお菓子と1個42円の果物を,いくつかずつ買って合計を求めるときに,いきなり28+42とするわけにいきませんが,お菓子と果物を同じ数ずつ買うのなら,「(28+42)×同じ数ずつ」で計算すれば効率的です.
といったところで解答です.式はいずれも「3×5=15」となるようにします.
「内包量×外延量=外延量」は,小学2年生だと,「1さらに りんごが 3こ のって います.そのような さらが 5まい あります.りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう.」がいいでしょう.後との比較のため,速さを使った問題も,挙げておきます.「時速3kmで5時間進むと,何km進みますか.」です.
「外延量×外延量=外延量」は,面積や体積が分かりやすいです.「縦3cm,横5cmの長方形の面積は何㎠ですか.」と「底面積が3㎠,高さが5cmの円柱*1の体積は何㎤ですか.」です.
「内包量×内包量=内包量」について,小学校で「1あたり」や「パー(/)書き」を習っていても,すらすらと問題を作れないのではないかと思います.これは,3口のかけ算,かけ算の順序の《箱売り》に書いた,「n1[d1/d2]×n2[d2/d3]=n1n2[d1/d3]」を使います.「1枚3円の切手が,5枚で1セットになっています.1セットは何円ですか.」という問題文にすると,「3×5=15 答え15円」ですし,パー書きの量の式は「3円/枚×5枚/セット=15円/セット」と表せます.
「外延量×倍率=外延量」も,2年のかけ算の範囲内です.例えば「長さ3cmのテープがあります.5倍だと,何cmですか.」です.
「内包量×倍率=内包量」の例としては,速さを何倍かしましょう.「時速3kmの5倍の速さは,時速何kmですか.」です.3km/h×5=15km/hです.この式と,3km/h×5h=15km(内包量×外延量=外延量)とは,意味も,数直線で表したときの見え方も,異なっています.昨年,「時速4kmで3時間進んだときの道のり」と「時速4kmの3倍の速さ」の違いを,数直線で - かけ算の順序の昔話にて取りまとめました.
「倍率×倍率」は,長さの何倍かにします.「赤いテープの長さは,青いテープの3倍です.黄色いテープの長さは,赤いテープの5倍です.黄色いテープの長さは,青いテープの何倍ですか.」について,それぞれの長さを「赤」「青」「黄」とおくと,赤=青×3,そして,黄=赤×5=(青×3)×5=青×(3×5)であり,3×5=15で15倍と求められます.
最後の「内包量×外延量=内包量」ですが,かけられる数のほうの内包量は,複内包量にします.問題文は3口のかけ算,かけ算の順序の《2つに比例》をアレンジして,「ミニトマト好きの家族がいます.それぞれ,1日に3個ずつ,ミニトマトを食べます*2.5人家族です.1日に,この家族は全部で何個のミニトマトを食べるでしょうか.」とします.単位付きの式は,3[個/人・日]×5[人]=15[個/日]となり,3[個/人・日]と15[個/日]は内包量というわけです.
元ネタです.
- Greeno, J. G.: Instructional Representations Based on Research about Understanding, Cognitive Science and Mathematics Education, Routledge, pp.61-88 (1987).
Cognitive Science and Mathematics Education
- 作者:Schoenfeld, Alan H.
- 発売日: 1987/05/01
- メディア: ペーパーバック
Table 3.2 (p.75)が,面白かったのでした.
表見出しの"Multiplicative Compositions"を直訳すると「乗法的な合成」です.何を合成するのかというと,Extensive(外延量),Difference(変化量),Intensive(内包量),そしてFactor(倍率)です.この4つは,p.73のFig 3.6,およびその前後の文章で図式化・具体化されています.ここにDifferenceが入るのも興味深かったのですが,これはやはり乗除ではなく加減の要素とみなすべきで,本記事では対象外としました.なおp.75の表のあとに,「合成」の例として,"a per b and b per c produce a per c"(a/b×b/c=a/c)によって2つの内包量からまた別の内包量が構成されることや,外延量と内包量は"their is a per b, times an amount of b, resulting in an amount of a"(a/b×b=a)と表されることなどが,例示されています.
冒頭の問題の中に(そして文章題を例示しながら)「内包量×外延量=内包量」という関係式を入れましたが,Greeno (1987)には見当たりません.典型的な場面として,内包量と外延量をかけたら,外延量になるというわけです.それと,この文献において内包量×外延量か,外延量×内包量かというのは,「どっちでもいい」らしく,p.74のFig. 3.7では内包量にあたる"book per bag"が左に,p.78のFig. 3.11*3では"fingers on each monster/hand"が右に,それぞれ配置されています.