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3口のかけ算

いきなりですが問題です.

5人家族があります.それぞれ,1日に1個ずつ,りんごを食べます.7日間で,この家族は全部で何個のりんごを食べるでしょうか? 式と答えを書いてください.

さっそくですが解答です.5人家族で1日に1個ずつ,りんごを食べるというので,この家族が1日に食べるりんごは5個です.7日間ですから,5×7=35 答え35個となります.
また別の考え方もできます.1日に1個ずつ,7日間ですから,1人が食べるりんごは7個です.5人いますので,7×5=35 答え35個となります.
問題文を少し変えてみましょう.

5人家族があります.それぞれ,1日に3個ずつ,ミニトマトを食べます.7日間で,この家族は全部で何個のミニトマトを食べるでしょうか? 式と答えを書いてください.

解答は難しくありません.5人家族で1日に3個ずつ,ミニトマトを食べるというので,この家族が1日に食べるミニトマトは3×5=15で15個です.7日間ですから,15×7=105 答え105個となります.
また別の考え方もできます.1日に3個ずつ,7日間ですから,1人が食べるミニトマトは3×7=21で21個です.5人いますので,21×5=35 答え105個となります.
ここまでを整理しておきます.分解式は,総合式に置き換えています.

  • りんごの問題
    • 1日に食べる個数に着目すると,式は5×7
    • 1人が食べる個数に着目すると,式は7×5
  • ミニトマトの問題
    • 1日に食べる個数に着目すると,式は3×5×7
    • 1人が食べる個数に着目すると,式は3×7×5

ここで「5×7」に注目します.りんごの問題では,この積がそのまま,求めるべき総数になりました.しかしミニトマトの問題だけでなく,他の飲食物,あるいはカロリー摂取量などに置き換えても,成り立つようにしようとすると,「定数×5×7」と考えるのがよさそうです.りんごの問題では,その定数を1とし,「1×」はイチイチ書かない,とするわけです.
問題文を見直すと,「それぞれ,1日に1個ずつ,りんごを食べます」と,定数1にあたる「1個ずつ」が書かれています.これは伏線というわけではなく,答えを求めるのに必要な情報です.というのも,

5人家族があります.それぞれ,りんごを食べます.7日間で,この家族は全部で何個のりんごを食べるでしょうか? 式と答えを書いてください.

とすると,式が立てられません.もとの問題文にあった「それぞれ,1日に1個ずつ」は,総数を求める際に必須の情報なのです(「それぞれ,」も重要です.これがないと,5人家族で1日に1個ずつ,りんごを食べるという話になってしまいます).「1個ずつ,りんごを」のところは,いろいろと変えることができます.「1日に20羽ずつ,折り鶴を折ります」として,仕事量の問題にすることもできます.
パー書きを使うと,「それぞれ,1日に1個ずつ,りんごを食べます」は「1[個/人・日]」と表せます.「それぞれ,1日に3個ずつ,ミニトマトを食べます」のほうは「3[個/人・日]」です.『量の世界―構造主義的分析 (1975年) (教育文庫〈8〉)』によると,そういった量は,複内包量と呼ばれます.
先ほど整理した各項目で,次元(単位)を含めた式を用いて計算してみると,次のようになります.

  • りんごの問題
    • 1日に食べる個数に着目すると,式は1[個/人・日]×5[人]×7[日]=5[個/日]×7[日]=35[個]
    • 1人が食べる個数に着目すると,式は1[個/人・日]×7[日]×5[人]=7[個/人]×5[人]=35[個]
  • ミニトマトの問題
    • 1日に食べる個数に着目すると,式は3[個/人・日]×5[人]×7[日]=15[個/日]×7[日]=105[個]
    • 1人が食べる個数に着目すると,式は3[個/人・日]×7[日]×5[人]=21[個/人]×5[人]=105[個]

このような“3口のかけ算”を見ると,右側の「×」から先に計算したくなります.やってみます.

  • 1[個/人・日]×5[人]×7[日]=1[個/人・日]×35[人・日]=35[個]
  • 1[個/人・日]×7[日]×5[人]=1[個/人・日]×35[人・日]=35[個]
  • 3[個/人・日]×5[人]×7[日]=3[個/人・日]×35[人・日]=105[個]
  • 3[個/人・日]×7[日]×5[人]=3[個/人・日]×35[人・日]=105[個]

ここで生じた「[人・日]」という次元には,いくつかの意味づけを行うことができます.一つは,1[個/人・日]や3[個/人・日]といった1あたり量とのかけ算がうまくできるよう,次元を合わせたというものです.それとは別に,「人日」という一つの単位を採用すれば,あとは「1人1日あたりどれだけ消費(作業)するか」という比例定数にそれをかけることによって,消費(仕事)の総量が求められます*1
“3口のかけ算”や,右側の「×」から先に計算したらどうなるかなどについては,結合法則の話でして,これまでも取り上げてきました.結合法則を,交換法則と区別して認識するで見てきた

1こ90円のシュークリームが、1はこに3こずつ入っています。2はこ買うと、代金は何円になるでしょう?

について,パー書きの式を立てると,90[円/こ]×3[こ/はこ]×2[はこ]と表せます.計算は,次の2通りになります.

  • 90[円/こ]×3[こ/はこ]×2[はこ]=270[円/はこ]×2[はこ]=540[円]
  • 90[円/こ]×3[こ/はこ]×2[はこ]=90[円/こ]×6[こ]=540[円]

この場合,複内包量や「[人・日]」に相当するような次元は一切現れません.一つだけ注意をしておきたいのは,90[円/こ]×3[こ/はこ]=270[円/はこ]と,内包量どうしのかけ算をしていることです.この種のかけ算は内包量×外延量,I×Eで見てきていまして,ある海外文献ではI×I'=I''と表しています.
りんごの問題で「[人・日]」が出てこない式,例えば「1[個/人・日]×5[人]×7[日]=5[個/日]×7[日]=35[個]」を振り返っておくと,その中で「1[個/人・日]×5[人]=5[個/日]」という計算をしています.これは,複内包量×外延量=内包量と見ることができます.
結局のところここが,複内包量を含む(複比例に基づく)3口のかけ算と,3年で学習するシュークリーム問題のような3口のかけ算との,決定的な違いとなっています.


冒頭の,りんごの問題を,かけ算を学習する2年で出題することができるかについて,少し考えておきます.「さっそくですが」と展開したとおり,1日に食べる個数や,1人が食べる個数に着目して,式そして答えを求めることは可能です.そしてかけられる数とかける数を入れ替えた,2つのかけ算の式が正解となるのも,興味深いところです.
ですがこれは,2年での出題はふさわしくない,あるいは控え目に言っても要注意な出題です.というのもここまで書いてきたとおり,「複比例」「人日」「のべ」を前提としたかけ算だからです.
低学年でも,場面の理解,立式,そして解答は可能だけれど,その依拠するものを意識しておく必要があり,安易に出題するわけにいかないだろうというものを,去年,創作しています.

アヤコ,カナコ,サワコの3人で手分けして,庭の水やりをします.
いつも11時30分に始めます.そして11時42分に終わります.
ある日,カナコひとりで,庭の水やりをすることになりました.
12時ちょうどのお昼ごはんに,間に合うでしょうか.

4マス関係表

ここでも,仕事量を使っていますが,この問題の背景にある,算数・数学の要素は,「反比例」です.本日のりんごの問題や,小学校の2〜3年で学習しているものと,また別の種類のかけ算と言えます.
りんごの問題は,ドメインパーキングのコメントに出てきた出題の改題です.

*1:人日を計算するにあたって,かけ算は必須ではありません.月曜日は何人,火曜日は何人,…と,日によってまちまちでもいいのです.それぞれの人数を足せばいいのですから.とはいえ,人数のたし算で得られるのは,何[人]です.かけ算にすると,何[人・日]または何[人日]になるのは,どうしてかというと,「のべ」の概念が入っているからです.小学校の算数では「人日」ではなく「人」または「日」として扱うのが良さそうです.のべについては対象を,広げる,狭めるをご覧ください.