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こぐま会のかけ算の順序

100てんキッズドリル 幼児のかけざん

100てんキッズドリル 幼児のかけざん

「2013年4月10日 第1刷発行」「2015年2月5日 第2刷発行」です.
「1あたり量×いくつ分=全体の数」を採用しています.もっとも顕著なのは,pp.20-21の合わせて6問でしょうか.

(p.21)
① じてんしゃが 4だい あります。タイヤは ぜんぶで いくつですか。〔4×2 2×4〕
② シュークリームが 4こ はいった はこが 2つ あります。シュークリームは ぜんぶで いくつですか。〔4×2 2×4〕
③ 3この みかんが はいった ふくろが 2つあります。みかんは ぜんぶで いくつですか。〔3×2 2×3〕
(p.22)
① 3まいの はっぱの うえに かえるが 2ひきずつ います。かえるは ぜんぶで なんびきですか。〔3×2 2×3〕
② 4つの きんぎょばちに きんぎょが 3びきずつ います。きんぎょは ぜんぶで なんびきですか。〔3×4 4×3〕
③ 3にんの こどもに 4ほんずつ えんぴつを あげます。えんぴつは ぜんぶで なんぼんですか。〔3×4 4×3〕

それぞれの問題は,文章題と,図と,2つのかけ算の式が上から下へと配置されています.2つの式のうち,意味が合うほうに,丸をかきます.
6つの場面の,数の出現を見比べると,まずp.21の①は,自転車のタイヤの数を思い浮かべることが必要ですが,残り2つは,各文章題で先に出現する数量,「4こ」「3こ」のほうが「1あたり量」となります.
それに対しp.22の3問はいずれも,「2ひき」「3びき」「4ほん」と,後に出現する数量が該当します.
念のため解答(p.63)を見ると,上から順に,2×4,4×2,3×2,2×3,3×4,4×3に○をせよとあります.
もうこれでお腹いっぱいの気分ですが,本の先頭から,興味深かった記述を取り出します.まず表紙裏,こぐま会代表 久野泰可の序文において,「九九を覚えることだけに集中する計算主義の学習では、「3×4」と「4×3」の違いが解らないまま進むため、文章題の立式で間違えてしまうのです。これでは、かけ算が本当に解ったことになりません。」と記されています.a×bとb×aの区別を重視するスタンスなのが読み取れます.
この本の最初の問題は,かけ算では(たし算でも)ありません.「3にんの おきゃくさんに、みかんを 2こずつ あげます。みかんは ぜんぶで いくつ いりますか。」(p.3)です.啓林館の1年の算数を,先取りしています.この文章題と,3人のこどもたち,そしてみかんの乗っていない3枚の皿の絵の下に,「みかんを 2こずつ 3にんに あげるので、こたえは ○を、2こずつ 3かい かきます。」と指示し,この段階で,「3にん」「2こ」の出現順序が替わっています.ページ下部に,○を描く欄があり,2個ずつ3回の,なぞり書きできる丸が示されています.
このp.3から始まる何ページかのヘッダには,「一対二対応」「一対三対応」「一対多対応」など,日常も,算数教育の本でも見かけない用語が出てきます.これは久野氏の造語とのことで,こぐま会 久野先生に聞いてみよう!2013 第9回【小学校受験新聞】に,事例と解説が載っています.
書かれていない話を書くと,本日見てきた本には,「累加」「アレイ」「連続量(長さなど)のかけ算」が出てきません.1つの場面で2通りのかけ算の式になるものも,見当たりません.
数教協関連の本で見かける,子どもの並び*1については,類題がありました.「② たてに 7にん ならんだ こどもの れつが 4れつ あります。こどもは ぜんぶで なんにんですか。」(p.46)です.すぐ下の図では,左右で手を伸ばしても届かないくらいの隙間が列のあいだにありまして,式は7×4=28を書くことになります.
書いていない種類のかけ算は,小学校でそのつど学習してください,というスタンスでしょうか.本の表紙をよく見ると,「幼児の」が吹き出しになっています.「対象年齢 5・6・7歳」ともあります.小学校の2年の学習を含むようにも,含まないようにも見える書き方です.
「1あたり量」という用語の採用に由来する,残念な点を,指摘しておきます.裏表紙裏のところです.

かけ算の考え方は「1あたり量×いくつ分=全体の数」です。例えば「みかんを2個ずつ3人に配るには、全部でいくついりますか」という問題であれば、式は2×3で答えは6となります。話の順序を入れ替えて「3人にみかんを2個ずつ配ります……」とした場合も、式は2×3です。この問題の「1あたり量」はみかん2個、「いくつ分」は3人です。単位をつけて考えると、「2個×3=6個」となり、式の始めの数「1あたり量」の2個は、答えの6個と同じ単位がつく性質の数です。

この文章,そして本全体を通じて,「1あたり量」は,いわゆるパー書きの量や内包量を直接は意味していません.「2個ずつ3人に」と「3人に2個ずつ」が同等なのには賛同する一方で,単位をつけて書いた式「2個×3=6個」において,なぜ3人ではなく3になるのかの説明がないのは,少し注意が必要にも感じました.
個人的に思う上記の最大の課題は,被乗数は「量」,積は「数」となっていて,結語の「同じ単位がつく性質」が自明でないことです.別の言い方をすると,量とは何か,数とは何かについて,それらがどのように関わりまた区別すべきかについて,この本は言及を避けているのです.
『小学校学習指導要領解説 算数編』では「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる」とあります.言葉の式で表すなら,「一つ分の大きさ×幾つ分=全体の大きさ」*2です.こう書けば,被乗数と積が同種の量であることがより明確になります.そして「大きさ」のほうは,連続量でもかまいません.なお,「幾つ分」は分離量に限られますが,乗数が小数や分数になっても,式を立て,計算ができるようになるのは,乗法の意味の拡張と深く関わってきます.
だから「1あたり量×いくつ分=全体の数」は思慮が浅い,とまではいきませんが,累加を採用せず,「1あたり量」にこだわると,乗数に単位がつかないのはなぜか,かけられる量に対してかけ算の答えは数になるのはなぜかといったツッコミどころ,そして“ほころび”も見えてくるなと思った次第です.
良書か悪書かの判断は,そうですね,本棚に少し目立つように置いてみて,妻や子らに,手に取ってもらいますか.ああそういえば,前の土曜日に大阪に行ったとき,3時のおやつにと,コンビニでどら焼きを買って,食べずに持ち帰り,月曜日,テーブルの上に置いて出勤したら見事になくなっていたなあ….


関連:

*1:手のつなぎ方を変えたらa×bにもb×aにもなるというもの.手元の本から探すと,『算数の探険1 たす ひく かける わる(加減乗除)』p.135ですが,書店で立ち読みした他の本でも,目にしたことがあります.

*2:乗法に関連して,「全体の大きさ」という表記も,解説に入っています.