わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

読まずに,語るな

所感を:

  • アレイの<図−2>は3行4列,3×4行列,(3,4)行列ではないかと.●の並びをa_{11}からa_{34}までの文字に置き換えれば確かめられる.
  • 直積の列挙が「{a,p}」から始まるが,数学の慣例は{a,p}={p,a}ではないかと(そうするとM×N=N×Mとなってしまう).順序対を意識するなら「(a,p)」と書くべきであろう.
  • 集合の直積は一般に非可換で,「直積M×Nの個数」に着目するのはいいけれど,「♯M×♯N=♯(M×N)」という式にしたとき,左辺と右辺で「×」の対象が異なる(左辺は整数どうしの積)のも忘れずに.
  • 2年の教科書を挙げているが,アレイを使えばa×bでもb×aでも表せるのは,3年の教科書も見ておきたい.昨年度の教科書展示会でのメモを見直すと,大日本図書では,アレイ配置で「全部のシールの数をもとめる式を2つ書きましょう。」という出題があり,式を書く欄も2つある.また日本文教出版も同様の並びに対し,式を書く欄は1つだけれど,右に「かけ算の式は1つだけかな。」と書かれている.
  • 「アレイ図ではたて(ひとつ分)×横(いくつ)と見るのが唯一正しいとする考え方である」にはソースがほしいところ(期待して断言したのだとも思うが).アレイがいまの算数で活用されている意義は,むしろ交換法則や分配法則の視覚的/操作的なツールであることではないかと.なお,アレイに対して結合法則を適用する試みも,今年出た『筑波発 問題解決の算数授業 (初等教育学の構築を目指して)』に見られる.
  • 2重数直線の特性は,かけ算・わり算の演算決定に使用できることと,「乗数が1より小さいとき,積は被乗数より小さくなる」「除数が1より小さいとき,商は被乗数よりも大きくなる」*1の視覚化に使えること.冒頭にリンクした記事ではいずれも不在*2
  • 中学の教科書に2重数直線が載っていない件には,次の問いの答えを考えてみるといい:「乗数が1より小さいとき,積は被乗数より小さくなる」「除数が1より小さいとき,商は被乗数よりも大きくなる」を,数学でどのように証明すればよいか? ここで計算の対象を,小学校の算数の範囲に限定しても,負の数や実数,また文字に変更(命題も適宜変更)しても,それぞれに応じた結果が得られる.
  • アレイと2重数直線の主要論文を挙げておく.読まずに,語るな.*3
  • 米国における,アレイを用いたかけ算の意味づけは,http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=uc1.b3313417;view=1up;seq=128より読むことができる.アレイをみっちりやってから,文章題が出てくる.なお,この文書のはじめに集合の表記と諸演算が書かれているが,そこに直積はない*4
  • 文章題などの場面を児童が図にすることの困難さを指摘する論文もある.無料で読めるのはhttp://www.juen.ac.jp/math/journal/files/vol16/hiroi.pdf.また『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』に見られる「図というのは2通りありまして,1つは,人間が物事を考えるために描くもの.もう1つは,考え終わった人が説明のために描く図です。教科書などの図は,ほとんどが説明のための図です。(略)あのきれいに整理された図を最初から子どもが描けるわけがありません」も,教師には周知なのでは.

*1:http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_004_2.pdf#page=106およびその次のページの記載をもとにした.

*2:http://blog.goo.ne.jp/mh0920-yh/e/038f94f5a26f45124dcb5f38d3ccb10dで小学校学習指導要領解説が貼り付けられているが,全国学力テストの出題例と合わせた指導例も見ておきたい:http://www.kyoiku-shuppan.co.jp/view.rbz?cd=2528(8 乗数と積の大きさ,除数と商の大きさの関係)

*3:読んだらそれで終わりではなく,その後どのような論文で引用され,あるいは解説書などに使われてきたかも,つぶさに見ていく必要がある.それをするか否かが,点で見てケチをつける人と,線や面そして空間で対象を見る人との違いとなる.

*4:アレイと直積との関連づけは,SMSGによるその後の出版物で書かれた可能性もあるが,中島の1968年の指摘が,国内としては初出になるのではないか.