わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

structure

上で見てきたテスト問題には,上部に,評価項目らしきものが書かれています."3.OA.1: I can use multiplication strategies to help me multiply.(かけ算を使って,かけ算の答えを求めることができる*5)"と"3.OA.3: I can use the structure of a word problem to help me solve it.(文章題の構造を使って,答えを求めることができる*6)"です.
*6:word problemの冠詞がaで,structureの冠詞がtheとなっているのは,この段階で学習したり解答したりするかけ算の文章題(いろいろある中から,出題された一つ)では,かけられる数とかける数がそれぞれ一意に定まる(式で逆に書いてはいけない)ことを示唆します.(略)

筆算の順序から進展

structureにつける冠詞,そしてかけ算の「構造」とは何かについて,他文献との照合を行うことにします.
小学校学習指導要領解説 算数編の日英対訳の,かけ算に関連する話から見ていきます*1.本文ページはp.125で,PDFでは134です.また直前のページには,原文となる日本語の文章も載っています.

d. To see one number as a product of other numbers
One of the objectives is to help students understand the multiplicative structure of numbers through activities such as making equal groups when counting objects. For example, students are taught to grasp the entire size of a certain object by using a partial group of that object as a unit and then counting how many units (groups) there are.
For example, if you do an activity such as: “Arrange marbles so that it is easy to see that there are 12 marbles,” various ways of arranging them can be thought of. If marbles are arranged as shown in the diagram below, they can be represented by such algebraic expressions as 2×6, 6×2, 3×4 or 4×3. This helps students see one number as a product of other numbers, deepening their understanding of numbers, and enriching their feel for numbers.
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2 × 6 or 6 × 2
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3 × 4 or 4 × 3

ここで,児童に理解してもらいたい"the multiplicative structure of numbers"(数の乗法的な構成)は,"to grasp the entire size of a certain object by using a partial group of that object as a unit and then counting how many units (groups) there are"(ある部分の大きさを基にして,その幾つ分として,全体の大きさをとらえること)だとなります.この記述は,あとのページになりますが,p.133で書かれている"Cases where multiplication is used, and its meaning"(乗法が用いられる場合とその意味)の最初の段落と整合しています.
上記引用の2番目の段落では,"Arrange marbles so that it is easy to see that there are 12 marbles"(12 個のおはじきを工夫して並べる)を用いています.かけ算の順序に批判的な見方としては,かけられる数とかける数とを区別して教えても,こういった事例では,それらの区別が不要(な例として,学習指導要領に載っている),ともなるのでしょうが,そのスタンスでは,おはじきをアレイで配置したときに,なぜ2×6と表せるのか,6×2になるのか,3×4そして4×3であるのか,また学年が上がって0.1×3が0.1+0.1+0.1を意味するのはなぜか,などについて,手がかりが得られません.
「ある部分の大きさを基にして,その幾つ分として,全体の大きさをとらえること」に加えて,1つ分の大きさを被乗数,幾つ分を乗数に書くという,学習指導要領や教科書・解説書などで確認のできる慣例により,「2個が6つ」を表した式が2×6であり(また逆に2×6は「2個が6つ」と解釈でき),他の式も同様と理解することができます.
なお,3行4列の配置からも,2×6や6×2の式を得ることは可能です.本だと『新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』です.当ブログではアレイ図で取り上げてきました.
ここで昨今の論争や,学習指導要領から離れまして,当ブログで書いてきた中から,"structure"や「構造」を含む論文・書籍を見ていくことにします.

  • Park, J.-H. and Nunes, T. (2001). The development of the concept of multiplication, Cognitive Development, Vol.16, Issue 3, pp.763-773.

(略)
「対応づけ」について,図ではなく文字で,その原理と例題が示されていました(pp.766-767).

In the correspondence group, the problems involved a fixed relation between two variables. This produces a structure with four values in the problem and the unknown could be different values in this structure. For example, Tom went to a sweet shop. He bought three sweets. One sweet costs three pence. How much money did he spend? The four values are one sweet, three pence, three sweets, nine pence (the unknown in this example).
(対応づけ群では,問題には2変量間で固定の関係が含まれている.その問題の中に4つの値があるような構造を生み出しており,未知の値は,その構造の中で異なる値となる.例えば,トムがお菓子屋さんに行き,お菓子を3つ買ったとする.1個3ペンスだと,いくら払ったか? この例で4つの値とは,「1個のお菓子」「(1個)3ペンス」「3つのお菓子」「9ペンス(未知の値)」である.)

かけ算の学習には,累加よりも対応づけ―イングランドの介入研究より

"a structure"とあります.2変量間で固定の関係(比例関係)は,Vergnaudが提唱する4つの値からなる構造*2をもたらすというもので,読み手にとってはここで初めて出現するstructureであることからも,不定冠詞のaにするのが自然に思えます.
次に取り上げたいのは,「構造」の異なる使われ方です.キーワードは「3用法」です.

 中島 比の3用法を俎上にあげる方が多いようですが,方程式で解くといっても,その立式がすでに必要なことであるし,その辺,よく理解していただいていないのではないですか。比の用法は複雑だというご意見ですが,乗法・除法の適用の場を構造として捉えると,あのような形にまとめられるということです。

量,比の3用法―1965年の座談会より

前後を読むと,上で引用した発言は批判されています.中島健三によるこの主張は,座談会において,受け入れられなかったわけです.
しかし,「構造」という言葉を使用しなくても,同じような事例があります.上記の座談会より前になりますが,遠山啓が1960年に書いた中に「密度×体積=重さ 速度×時間=長さ 単価×分量=価格 とは書くが,体積×密度=重さ 時間×速度=長さ 分量×単価=価格 とは書かないし,それはひどく考えにくいだろう」とあります(『遠山啓エッセンス〈3〉量の理論*3).この件も,黒木, 2014など,かけ算の順序の中で批判されてきました.
乗法・除法の適用の場を構造として捉えている事例は,日本ローカルではありません.英語だとGreerの分類表が知られており,かけ算・わり算でモデル化される場面で整理をしてきました.無料で読める文書からだと,http://www.corestandards.org/assets/CCSSI_Math%20Standards.pdf#page=89がお勧めです.それらもやはり3用法であり,そして,かけられる数とかける数が実質的に区別できない事例も,含まれています.
Greerを典拠として「値段や重さなど〈乗数と被乗数が区別される文脈〉と,面積などの〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉」を見出し,高学年の児童を対象に調査を行ったという研究がhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110006184927にあり,乗数効果で取り上げてきました.


かけ算の「構造」とは何なのかについて,国内外で引用されているのは,Vergnaudの"Multiplicative structures"と題された文章です.1983年と1988年に出された,異なる本の1つの章となっています.2×2の表をもとにさまざまな見方を紹介しているなど,重なる点もありますが,内容は異なります.かけ算と構造に書いてきました.
今回,当ブログの過去記事を検索したところ,かけ算の問題の構造という記事を見つけました.批判の有名どころも,「構造」を持ち出していたのでした.
そういった頑固どころの転向は困難としても,批判に賛同し,教育はなぜ変わらないんだと不満を持つ人々に向け,かけ算の構造はもともと,これこれこんなふうに提案され,そして今ではこうなっているんですよと,易しい表現と適切な情報源の提示をしていきたいのですが道半ばです.

(最終更新:2015-11-24 朝)

*1:PDFファイルで「structure」を検索すると,はじめのうちは,"the spiral structure"をよく見かけます.日本語は「スパイラル」のみなのも,対比として興味深いところです.

*2:関連:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141010/1412893475#20141010f2, http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA189

*3:「量と構造」と題した文章も,収録されています.1967年です.