「しかしさっきはびっくりしたぞ」
「どしたん」
「すえの子なんやが…」
「…」
「こっちが階段を降りようとしたら,てっぺんのところで,おしりついて座っとったんよな」
「え? 座ってたん?」
「そうなんや.明かりなしで,暗い状況でやで」
「パパか誰かに,下ろしてもらいたかったん?」
「せやな.んでだっこして下ろして,おじいちゃんおばあちゃんにおはようやでって言うたら…」
「…」
「大人に背ぇを向けて,突っ立って,首を下げよるんよな.無言で」
「すねてんねん」
「そうなんやろなあ.この子なりに,何も言わんかわりに,いろいろ考えてんやろなあ」
「すえの子ちゃんね,昨日の晩,すねてたで」
「何やったっけ」
「お風呂上がりやねんけど」
「ん? 昨夜,すえの子を風呂に入れたのはパパで…ああ,思い出した」
「何かやったん?」
「えっとやな.体を洗ろたあと,スポンジでその辺をゴシゴシしおって,ぜんぜん,お湯の中に入ろうとせんかったんや」
「…」
「しびれ切らして,すえの子を脱衣所へ連れてって,とっとと服を着せたんやが」
「叱ったん?」
「いや,あえて無言を貫いたな.服を着せる間,ずっと目ぇを合わせてたが」
「あの子あのとき,おもしゃかってんで.こっちきて黙ってたからな,パパに叱られたんかって聞いたら…」
「…」
「『やさしくしかられた』やって」
「ほお,そんな叱り方があるんか」
「パパのことやで!」
「んん? パパが,優しく叱ったと!?」