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どの選択肢を選んでも正解〜学習指導要領実施状況調査(平成24年度実施)の算数四択問題

いきなりですが問題です.

次の問題について考えます。

(問題)
\frac12Lの水と\frac13Lの水を合わせたら、何Lになりますか。

この問題について、ひろしさんは、次のような図をかいて答えを求めました。

(ひろしさんの答えの求め方)

2つに分けたうちの1つと、3つに分けたうちの1つを合わせると、5つに分けたうちの2つになります。
だから、\frac12+\frac13\frac25です。   答え \frac25L

まだ,解答すべき「問題」にたどり着いていませんが,いったん止めます.分数のたし算をする際に,分母と分子をそれぞれ,たしてしまっています.
それで,こんな計算をしてはいけないのはなぜですか,という展開なのですが,以下のとおり,四択となっています.

この答えの求め方が正しくないことをひろしさんに説明します。あなたなら、次のどの考え方を使って説明しますか。
次の1から4の中から最も当てはまるものを1つ選び、その番号を□の中に書きましょう。(*1から4は、すべて正しい説明です。)
1 \frac12+\frac13\frac36+\frac26\frac56だからちがうと説明する
2 \frac12は半分だから\frac13をたしたら半分より増えるはずなのに、答えが\frac25で、半分よりへっているからちがうと説明する
3 ひろしさんの図は、1Lの大きさが変わっているからちがうと説明する

4 次のような図をかいてちがうと説明する

いずれも興味深い説明の仕方です.それぞれに違いや関連性もあって,1は分数の加法の手続きを行っている*1のに対し,4はその手続きを,分数の表記を用いることなく可視化したものです.2は「a,b>0ならばa+b>a,b」と表すことのできる量の関係を,この出題に置き換えたものとなっています.
3の図は,量分数の和として不適切なことを示しています.もう少し,掘り下げましょう…ひろしさんの図は,例えば打率計算で分母と分子にあたる数をたすのはなぜかの説明になら,使用できます.1試合目は2打数1安打(その試合だけだと,打率は5割),2試合目は3打数1安打(同じく3割3分3厘),合わせると,5打数2安打で打率は4割です.少し一般化して,2試合の打席数(>0)と安打数をもとに,2試合分の打率計算を考えます.その際,合計打席数は,各試合の打席数よりも大きくなります.3の図は,合計打席数に対応する数量が,左辺の各項および右辺で同じ「1L」になっているから間違い,というわけです.
といったところで元ネタです.http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shido_h24/03.pdf#page=36より,問題文・解答類型と反応率・分析を見ることができます.「5B(箱囲みの)6」とあり,第5学年のB分冊の大問6を意味します.
解答類型の表から,数値を取り出すと,次のとおりです.「1」の反応率は36.4%,「2」は20.3%,「3」は17.1%,「4」は25.4%です.いずれの類型番号にも「◎」がついており,正答を意味します.「上記以外の解答*2」は0.3%,無解答は0.5%です.出題意図は「関心」の調査となっています.表のすぐ下には,それぞれを選ぶと何に関心があるかが,選択肢ごとに書き分けられています.
これは,国立教育政策研究所平成24年度に実施した「学習指導要領実施状況調査」の1問でした.この調査の詳細は,以下より知ることができます.

平成20年告示の学習指導要領の検証が主な目的です.調査対象児童数(解答者数)は明記されていませんが,結果のポイント によると「1教科1問題冊子当たり,3,000人程度(略)」とあり,人数ベースの抽出率は約3.2%とのことです.平成15年度の教育課程実施状況調査では,16,000人*3でしたから,ずいぶんと少なくなっています.
「1問題冊子」に関してですが,5年の算数の調査においては,3種類の問題冊子が作成されています*4.上で見てきた,分数のたし算で4つの選択肢がどれも正解というのは,B冊子ですが,同様の形式がC冊子にも見られます.5C(箱囲みの)7では,分数の意味(いわゆる量分数)に関して,最初のページに間違った説明があり,次に「正しい説明」を4つ挙げ,その中から1つ選ぶという形式になっています.
とはいえ,4つの「正しい説明」を問題文に入れ,1つ選ばせ,そのいずれもが正解という出題は,奇妙なものです.私自身,小中高の記憶をたどってみても,その種の出題は経験していません*5.自分の科目で,その種の出題をするとなったら,採点対象の試験ではなく,例えば授業中(終了時)に,アンケートを兼ねて実施するのが良さそうに思っています.
自分が学んできた経験と,今回の調査との違いは,一言でいうと「関心」です.上で書いたように,これは「関心」を問う出題となっています.関心・意欲・態度を評価の対象とするもので,wikipedia:新学力観Q16 「関心・意欲・態度」の観点はどのようにとらえたらいいですか? - 評価に関するQ&Aで整理されています.以前に東京都の調査で,関心・意欲・態度として1つの選択肢だけが間違い,他はすべて正解というのを,取り上げてきました(正解はウ以外〜関心・意欲・態度を問う四択問題).関心をみるための選択肢式の問題には,腐心のあとがみられる,と言ってもいいでしょう.
なお,「学習指導要領実施状況調査」は,こんな問題ばっかりなのかというと,そうではありません.算数の分析を見ると,「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)」と同様の出題も多く見られ,似通った正答率になっています.
冒頭の問題を,全国学力テストで使用するなら,間違いの理由(または正しくはこうなるという論証)を児童らに書いてもらうことになるのでしょうが,学習指導要領実施状況調査でそれを採用しなかったのを推測するにあたり,集計のコストもさることながら,調査の目的が,全国学力テストと異なっている点---全国学力テストは児童・生徒に近く,学習指導要領実施状況調査は学習事項に近い---を,無視するわけにいきません.

(リリース:2015-12-08 早朝)

*1:別々の方法で,a+b=cとa+b=dを得て,かつc≠dであれば,a+b=cとa+b=dの少なくとも一方が間違っていることも,使用しています.

*2:複数解答か?

*3:http://d.hatena.ne.jp/takehikoMultiply/20151206/1449353710

*4:例えば,http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shido_h24/03.pdf#page=19の表を見ると,算数では,第4学年はA・Bの2種類,第5学年と第6学年ではA・B・Cの3種類の問題冊子が作られたことが分かります.

*5:いわゆるネタとして,思い浮かんだのは,「第二問(化学) 炭素が完全燃焼すると何という物質になるか? 1.二酸化炭素 2.二酸化炭素 3.二酸化炭素」です.http://news4u.blog51.fc2.com/blog-entry-1255.htmlによると2006年とのこと.