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組体操の技「サボテン」について

組体操の技「サボテン」について,これまで調べたことを整理してみます.なお,2月より手がけている荷重計算は全く出てきません.組体操を安全に実施し成功させるとした場合の,注目すべき技の一つが「サボテン」なのではないか,というのが,本記事作成の動機となっています.


サボテンがどんな技なのかというと,google:サボテン+組体操で検索し,画像を見るのが手っ取り早いです.
完成形を言葉にすると,次のようになります.
2人で実施します.演技者を,「下の者」と「上の者」と呼ぶことにします.下の者は立った状態から,足を広げ,膝を曲げます.その左右の膝の上に,上の者が左右の足を乗せます.上の者も下の者も,同じ方向を向きます.上の者の膝または太ももを,下の者が手でつかみ,支えます.上の者は前傾になり,下の者の体は,やや後ろに傾きます.上の者が腕を左右に広げたら,完成です.
ただしこの順に組み上げるのは,練習段階で壁を背にする場合が多く,技を披露する際には,肩車からこの技へと移行するのがよく知られています.
これも,手順を文章にしてみます.
肩車のあと,下の者が足を広げて膝を曲げ,体勢をつくります.その膝の上に,上の者の足を乗せます.ただしこの時点では,下の者の頭は肩車と同じ状態,すなわち上の者の足の間です.下の者が上の者の膝または太ももを手でつかみ,状態が整ったところで,下の者は頭を抜きます(上の者が前に出ます).上の者が腕を左右に広げたら,サボテンの完成です.
日本体育大学の研究室が,手順を動画で公開しています.

難しさについて,http://www.nittai.ac.jp/personal/miyake/movie/2_A_5.htmlによると,最も高い☆☆☆☆となっています.また肩車からサボテンへの移行に関して,上で書いた説明と異なるところもあるのですが,それはあとで見直します.


サボテンは,組体操のいろいろな技を紹介している,学校の先生向けの本でも,取り上げられています.
1冊で,もっとも分量をとって解説しているのは,次の本です.

組体操指導のすべて―てんこ盛り事典

組体操指導のすべて―てんこ盛り事典

この本のp.48では「2人技の最難関サボテン」と題し,2ページで,モノクロ写真と主要箇所の囲みを取り入れ,指導のステップを解説しています.p.92では「サボテンを指導できれば、他もできる」「と向山洋一氏は述べている」*1から始まって,下の者にかかる荷重を述べたのち,「ぜひサボテンは成功させたい技である」で締めくくっています.pp.95-97では,stick manのイラストで,2人が実施,2人が補助(壁役とチェック役)で行う練習方法を紹介しています.
他の本を見ます.

8時間でできる!組体操の指導法 (教育技術MOOK よくわかるDVDシリーズ)

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こちらでは,p.10の最下段で,「サボテン(複十字から)」と題し,完成までの手順と,くずし(離れ方)を,イラストと短い文で解説しています.なお複十字とは,肩車で上の者も下の者も腕を左右に広げるポーズをいいます.
次の本は,p.27のページ全体で,カラー写真をふんだんに使って,サボテンを解説しています.

DVD付き みんなが輝く組体操の技と指導のコツ (ナツメ社教育書ブックス)

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肩車からの移行です.上の人の前に補助を設け,バランスの感覚を養わせるというのも,1枚の写真になっています.
少し古めの本にも,載っています.

イラストでみる組体操・組立体操

イラストでみる組体操・組立体操

このp.250に載っている,「膝のり」について,やっているのはサボテンです.肩車から移行するのも,まったく同じです.このページには,他に2つの方法で,同じ形をつくっていますが,下の者の手が持つところは,サボテンと異なっています.*2
さらに古い本にも当たります.

組体操 (1972年)

組体操 (1972年)

続・組体操

続・組体操

これらには,サボテンと同様のポーズをとったものは,見つかりませんでした.近いものとして,『組体操』p.92に,下の者はサボテンと同じで,上の者が倒立をするというのがありました.また肩車は,『続・組体操』p.121に載っていましたが,下の者は屈伸をしています.どちらも今の運動会では,見かけないものです.


その一方で,サボテンは少人数ながら,負傷しやすい技としても知られています.それを指摘した発端というのは,失念してしまったのですが,最近はてブした中から,サボテンに対する自治体の取り組みを見ていきます.
名古屋市は今年2月,以下の通り報道し,小学校向けのガイドライン,研究計画例,そして事故の発生状況を,PDFで公開しています.

http://www.city.nagoya.jp/kyoiku/cmsfiles/contents/0000079/79686/3jikonohasseijoukyou.pdf(組体操における事故の発生状況;デッドリンク)の事例の筆頭がサボテンで,事例を5つ挙げており,いずれも本市(名古屋市)で発生したとのことです.上段から落下し,顔面強打前歯陥没,眼底骨折,腕の骨を骨折といった,痛ましい記述が並びます.
ただしサボテンは規制の対象となっておらず,安全確保について詳しい指示が載っていました.
東京都北区では,3月9日,教育委員会定例会にて区立小中学校における組体操の実施の基準を定めました.

  • https://www.city.kita.tokyo.jp/koho/kuse/koho/hodo/press-releases/h2803/160309.htmlデッドリンク

その基準の中に,サボテンや肩車は「行わない」とあります.「立ったままの姿勢で、膝より上の部位(膝、腰、背中、肩等)で、相手を支える技」は行わない,とのことです.


名古屋市が取りまとめた情報から,サボテンは,上の者がケガをしやすいことが分かります.そこに注意して,安全に実施する対策を,立てることができるでしょうか?
下の者は,ケガをしない,と思うべきではないでしょう.しかし,(大きな)ケガを回避できる要因が,思い浮かびます.
まず,バランスを崩したとき,上の者をつかんでいた手を離すのに気づきやすいと言っていいでしょう.それに対し,上の者の太ももは,下の者の指先より感覚が劣ります.
そして手が離れ,下の者が後方に,背中から地面についたとしても,高さ(位置エネルギー)に関して,起立の状態から後ろに倒れるのよりも低く(小さく)なることも,指摘できます.それに対し上の者は,自分の身長より高いところから,前のめりで地面に落下することになります.
ところで柔道をしてきた者として,「前受身」でダメージを軽減できるのでは,と思ったのですが,前受身は自然本体,すなわち立った状態から始めるのに対して,サボテンの上の者は,それより高い(位置エネルギーのより大きい)状態から始めるので,受身を学んでおくことが,サボテンのケガ回避に役立つとは,期待できません.
完成までの手順,すなわち情報工学の分野で言う「正常系」は,サボテンに関して十分に確立していると思います.完成までの途中,とくにバランスをとる段階でのトラブルは「異常系」とみなすことができ,それへの対策について,上で取り上げてきた書籍で,明確に書かれたものはありませんでした.
あえて言うと,「くずし」でしょうか.柔道の「崩し」ではなく,上に書いた,「離れ方」のことです.壁を背にした練習の段階でも,下の者が手を離し,上の者がケガすることなく着地できるように,しておくのです.練習では,離す際に掛け声をします.もし掛け声なく,すなわち下の者は予告なく,手を離しても上の者が無事に降り立てたら,それを本番で披露することがないとしても,2人の相性はばっちりと言えるのではないでしょうか.
別の観点で,必ずしも安全性に寄与するとは言えないことに注意しつつ,気になることがあります.日体大の方々によるサボテンの動画では,0分58秒あたりから「...足の大腿部,真ん中に,足を置いた...」と言っています.実際,上の者の足は,下の者の太ももの上となっており,膝の上ではありません.
本を見直すと,いずれも,完成形では上の者は,下の者の膝の上に,足を置いていました.ただし,最初に足を置く段階では太ももの上に置き,下の者が頭を抜いて,ゆっくり後方にするのに合わせて,膝の上になるよう,上の者が足を移動させるというイラストも,ありました.
結局のところこれは,何度も練習するとともに,クラスのうまくできている子らの演技を見ながら,ペアの2人で,最良の位置を決めるべきことなのかもしれません.
なお,日体大の方々の動画では,マット敷きの室内でなされているのに対し,運動会の本番では,砂にまみれた手や裸足のもとで実施し,スリップしやすい点についても,配慮が必要になると思われます.

*1:「しのたまわく」「ゲーテ曰く」に匹敵するかわかりませんが,TOSS関連ではよく「向山洋一氏」の言説を目にします.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120530/1338323870で見た本も,確か,そうでした.個人的にTOSSについて,学級運営や「向山式算数」の出版物からいくらか学び,領分(どんな指導法にも,それが効果的に作用する場面があるのだということ)を意識しているのは参考になる一方で,順に点数をつけて全員に伝えるというやり方は,とうてい好きになれません.

*2:この段落は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160418/1460991599に書いた内容をもとに作成し,挿入しました.