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情報通信技術において知っておくべき国内機関と省庁

「本日の授業の主なテーマは,対称暗号です.秘密鍵暗号,共通鍵暗号ともいいます.具体的には,DESとAESです.いずれもその選定には,米国の機関が関わっています.しかしそれらの暗号アルゴリズムの利用は,米国限定ではありません.我々も,無料で使えるのです.
そういった米国の状況を語るより前に,日本国内で,ITC・情報通信技術はどうなっているのかというのを,2枚のスライドにしてみましたので,お付き合いください」

主要な国内機関


「情報通信技術は多岐にわたりますが,情報セキュリティに関するところとして,真っ先に挙げないといけないのは,情報処理推進機構です.IPA(アイピーエー)と書かれ,また呼ばれます.
IPAは,経済産業省所管の機関とされています.省の所管というのは,各年度の事業実施にあたり,予算の申請を行う際に,受け持つ省庁のことです.IPAの事業については,経済産業省というわけです.
IPAでは,セキュリティ調査,そしてその情報提供を行っています.以前の授業で紹介した『情報セキュリティ10大脅威』も,IPAで公開されている情報なのでした.
セキュリティ以外で,みなさんに知ってもらいたいのは,『未踏』と呼ばれる事業です.これは…Webのページを見ましょう.えっと,ここです.

『「未踏事業」は、ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイディアと技術を有するとともに、これらを活用する優れた能力を持つ、突出した若い人材を発掘・育成することを目的としています』,とのことです.
興味深いのはその人材発掘・育成に関するところで,今年はもう募集が締め切られましたが,審査や,採択後の開発において,情報通信技術で最高レベルの技術者・指導者から,アドバイスを受けることができます.応募や採択を目指さなくても,最高レベルの技術者・指導者が誰で,そのもとでどんな人がどんなことを提案し,また成果となったかを,知っておくのも大事なことです.

スライドに戻りましょう.国内の機関で,その次に見ておきたいのは,情報通信研究機構です.NICTという英語略称もありますが,学会に出席した際には,ニクトでもエヌアイシーティーでもなく,情報通信研究機構と呼ばれていることが多いように思います.
こちらは総務省の所管です.総務省が何をしているのか,というのは次のスライドで明らかにするとして,この情報通信研究機構は,通信や放送に関することに携わっています.通信は,いいですよね.たとえば,1対1によるメッセージのやりとりです.放送というのは,たとえばテレビ局です.1か所から,1つの情報発信によって,一気に多数にメッセージが伝わります.そういったあたりの研究だとかを担っています.
あと,ラジオのFMなんかで,日本人じゃあない人が『Japan Standard Time』とか言ったあとに,時報が流れたりしますが,あの時間のこと,正式名称は日本標準時も,情報通信研究機構が関わっています.

3番目に挙げるべき機間は,国立情報学研究所です.NII(エヌアイアイ)とも略されます.NTTとは無関係です.こちらは,文部科学省の所管です.情報・システム研究機構というのがあって,4つの研究所で構成されているのですが,その1つが,国立情報学研究所です.
ここに関わってくる学問分野は,図書館情報学です.コンピュータやインターネットが,図書館になかった時代から,図書館にどのような本をどこに置けば効率良く使えるか,そして『これこれこんな情報はありますか?』といった漠然とした,ときには誤りが含まれている問い合わせに対して,図書館内外の情報を駆使して,情報源を見つけるという,リファレンスサービスなどについて,そのやり方や知見は,図書館情報学という学問において,蓄積されています.PCやネットを使うことが当たり前となった現在においては,情報検索の技術や技法も,大事になってきます.これらと深く関わり,研究・開発をしているのが,国立情報学研究所です.
それから,みなさんが研究室に配属され,3年生,あるいは4年生で卒業研究をする際には,文献調査といって,関連する分野の論文を探し,閲覧可能であればダウンロードして読むことも,必要となります.日本語で書かれた論文の著者名・学会名・刊行年などを,手っ取り早く探すのに便利なWeb上のサービスは,CiNiiと書いてサイニィと呼びます.これは,NIIが提供しているサービスなのです.機関名ではNIIはいずれも大文字なのに対し,サービス名では,iはすべて小文字になるのも,知っておいてください.
スライドに入れていませんが,図書館といったら,国立国会図書館のことを,言っておくべきでしょうか…
たしかに国立国会図書館も,図書館情報学との関わりとして,蔵書を管理し,入館者に,あるいはネットからのユーザに,サービスを提供しています.以前は近デジと呼ばれていた,近代デジタルライブラリーは,まもなくそのサービスを終了し,国立国会図書館デジタルコレクション,略して国デジに組み込まれます.
スライドに盛り込まなかったのには,1点,理由があります.どこの省の所管,と言えないのです.国立国会図書館は,国会のための図書館です.三権分立,司法・立法・行政のうち,国会と言えばもちろん,立法です.それに対して,スライドに書いてある各機関は,どこかの省の所管として,位置づけることができます.省は,行政です.国のものは国のものでも,その次の段階の区分けが,大きく異なっているのです.

スライドに戻ります.産業技術総合研究所も,情報通信技術においては無視することのできない機関です.英語略称のAISTよりも,産総研(さんそうけん)の略称のほうがよく知られています.個人的には,その前身の1つである電総研の名称がなじみでした.
産総研は,産業化技術開発というのに強みを持っています.たとえば論文や特許となっている,ときには理論中心の学術成果を,実際に使えるよう,応用する,というふうに考えてくれればと思います.書いていませんが,経済産業省の所管です.

最後に挙げたいのは,理化学研究所,略して理研(りけん)です.文部科学省の所管で,STAP細胞の騒動もありましたが,情報通信技術の観点では,理研の所管は,あまり重要視されません.
理研と情報通信技術の結びつきといええば,何はなくとも,スーパーコンピューターの京ですね.『きょう』じゃなくて『けい』ですよ」

関わる省庁


「先ほどの所管で出てきたのは,経済産業省経産省),総務省文部科学省文科省)でした.表にすると,この画面のとおりとなります.
経済産業省の前身は,通商産業省通産省)です.コンピュータに関しては,半導体をはじめとするハードウェアから,ソフトウェア産業までの幅広い領域に,強みを持っています.省の名前にあるとおり,産業全体に幅を利かせています.
次に総務省ですが,2001年の中央省庁再編により,自治省総務庁・郵政省を統合してできた省です.このうち,情報通信技術ともっとも関わりが強いのは,郵政省です.郵政省は,郵便物を配達するだけでなく,電報や,電信といった業務も担っていて,それらが,情報通信への強みの元となっています.
もう1つ,『消防防災』という言葉も,知っておいてください.我々からすると,消防と防災は,病気になったらお医者さんにかかるのと,そうならないよう普段から気をつけておこうっていうくらいに,別じゃないのかと思うかもしれませんが,くっつけたこの四字熟語は,少し探せば,いろいろなところで見つかります.各自治体の住民の安全性を,国の行政からサポートしているのは,総務省なわけで,消防防災のための通信技術も,省庁再編によって連携が強まった,と見ることもできます.
表の最後は,文部科学省です.以前は文部省,それと科学技術庁というのもありました.大学を含め学術や,科学技術については,文科省を抜きに語れません.研究者に対する競争的資金であり,よく報道されている『科学研究費補助金科研費)』は,文科省と,文科省所管の日本学術振興会の事業です.科研費でこんな成果が得られました,といった研究者の報告は,文科省の手柄にもなったりするわけです.

といったところで,表全体を,見直してみてください.表の右端の列は『強み』であり,『担当』とはしていません.前のスライドと合わせて,ここまでお話しした担当などは,分かりやすさのために出した例であり,各省庁や機関が行っていることの,ほんの一部です.
また省庁を並べてみると,『縦割り行政』なんて言葉も,思い浮かんだりしますが,情報通信技術に関しては,省庁どうしの境界線は,あるようなないような,という印象を個人的に持っています.
そのひとつの例として,省庁どうしの連携の動きを,紹介したいと思います.ブラウザに切り替えて…

本文は『政府は人工知能(AI)の研究開発を加速するために、文部科学省経済産業省総務省の3省で今年度、計約100億円の予算を投じる。3省での研究開発の足並みを揃えて産業化を推進していくとして…』から始まります.それ以降の細かい話は,授業のあとで,読んでください.
写真を見ていくと,『登壇後に握手を交わす馳浩文科相高市総務相、林・経産相』なんてキャプションがあります.ナニナニ省の大臣は『ナニナニ相』と書いて,『ナニナニ大臣』と言うのが慣例,なのは知っていますよね.
3つの省のトップが,手を組んでいる写真です.
足並みを揃え,手を握っているのですが,こちらで用意した,先ほどの2枚のスライドと照らし合わせると,次の疑問を持つはずです…『人工知能』は,どこの省が担当するのでしょうか?
これの答えは,『人工知能はナニナニ省,といった確立がなされていない』となります.現在,主導権争いをしているところだ,と思ってもいいでしょう.
そう理解をしておくと,人工知能に関する報道を見かけたとき,それはどこの機関からの情報で,そしてどこの省からので,といった具合に,背景が理解しやすくなると思います.

情報通信技術は,いや情報に限定することなくたいていの技術や産業は,グローバルな視点をもって認識し,また発信していくことが,欠かせません.
とはいえ,自分の国の状況を知っておくのも,大切だと思います.コンテンツの大海原に飛び込んだとき,沈んでしまうでもなくあっちの方向に向かうでもなく,世の中はこうなっているのかと,認識をしやすくしてくれるのは,各機関による,国内外の動向を踏まえた上での,研究論文や調査成果だったりするからです」

なにこれ

昨日の授業で話した内容です.スライドはPDFにして,授業ページで公開しています.試験には出しません.

追記

途中に書いた「『これこれこんな情報はありますか?』といった漠然とした,ときには誤りが含まれている問い合わせに対して,図書館内外の情報を駆使して,情報源を見つけるという,リファレンスサービス」について,その一端を知るには,次のページがおすすめです.

(最終更新:2016-05-08 朝)