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7段ピラミッドと5段タワーについて

  • 組体操(組立体操)について,文部科学省は廃止通知を出していません.
  • 学校での組体操(組立体操)の実施にあったっては,ピラミッドやタワーの段数を減らす傾向が見られます.過去に7段ピラミッドや5段タワーの成功実績があるからといって,2019年に実施することは,賛同できません.


 今朝起きて,ツイッターのタイムラインを見ると,トップは,組体操(組立体操)のリツイートでした.


 「文科省の廃止通知」って,そんなの出てたかなと思いながら検索したところ,上位に,組体操等による事故の防止についてがヒットしました.平成28年(2016年)3月25日付の事務連絡で,発信者は「スポーツ庁 政策課 学校体育室」です.
 ピラミッドとタワーについては,2ページ目,記書きの3番目の「各学校においては、タワーやピラミッド等の児童生徒が高い位置に上る技、跳んできた児童生徒を受け止める技、一人に多大な負荷のかかる技など、大きな事故につながる可能性がある組体操の技については、確実に安全な状態で実施できるかどうかをしっかりと確認し、できないと判断される場合には実施を見合わせること。」が該当します.「できると判断した場合には,実施してよい」と読めますので,廃止通知ではありません.
 同日の記者会見がテキスト化されています.ページ内に分散して「組体操」が出現するものの,大臣の方針として「廃止」とはなっていません.

 2016年の事務連絡がobsoleteでないと思われる状況証拠を,見つけました.http://yutaka-nishiyama.sakura.ne.jp/math/kumi_2018_10_29.pdfです.このURLは,都道府県別組体操事故統計(2018年版)の「参考資料・参考文献」のすぐ上で記載されていました.兵庫県知事室長名による回答には,「2 西宮市中学校連合体育大会(2017年11月9日)の5段タワーについて同大会におけるこの演技については、ご意見にあるスポーツ庁の通知及び県教育委員会の「組体操での事故防止に向けた指導上の留意点」に基づき、安全面に配慮した演技構成、指導体制や指導方法等を検討のうえ、実施したものであるとのことです。」と書かれています.通知を踏まえて県教育委員会が「留意点」を整理し,自己責任で実施して,成功したと,解釈することができます.
 「成功した」のです.都道府県別組体操事故統計(2018年版)には,以下のページのURLも記載されていました.

 平成29年(2017年)11月9日,阪神甲子園球場での開催です.読み進めると,「最後は3年生による演技で、男子による組立体操「生きる」では5段ピラミッド完成させ、その圧巻の迫力に観客からは大きな拍手が送られました。」という文もありますが,その少し下の画像を見ると,実際に行われたのは「5段タワー」です.下段の2人は四つんばいで,その上に,3段が立つという構成法です.それぞれに最低1人,白い帽子をかぶった大人がつき,ほかに撮影の方も見かけます.10基以上が,組み上がっています.
 検索して,このタワーに対する事故の報道は見かけなかったですし,どこかで事故があったのなら,このような写真を掲載しなかったと想像できます.
 ところでその1年後,第64回 西宮市中学校連合体育大会では,タワーの段数は3段に減っています.「『組立体操 決意』3年男子」の5枚目です*1.5段から3段にすることで,タワーあたりの構成人数が少なくなり,その分,タワーの数が多くなっています.横並びに座るのが何グループか見られ,途中で失敗したものと思われます.
 近年の傾向は,ピラミッドやタワーの段数を減らしていることだと,理解しています.7段のピラミッドに対する指導例は,以下のp.64に載っています.

体育科教育 2016年 05 月号 [雑誌]

体育科教育 2016年 05 月号 [雑誌]

 ピラミッドの演技図(グラウンド内の大まかな構成図)が載っています.中央には「ピラミッド(7段ピラミッド)」とあります.
 この学校では7段で組んだのかと思いながら,図の周辺に目をやると,この図のキャプションには「図2 ピラミッドの演技図。生徒たちは当初、周囲に3段、中央に7段を配置していたが、教師の指導を経て5段に修正された。」と書かれていました.


 当ブログでは2016年,三角錐型の7段ピラミッドに関する記事を書いていました.本記事の投稿に先立ち,リンク先の変更や記述の見直しを行いました.

 「都道府県別組体操事故統計(2018年版)」の作成者,西山豊氏によるアーカイブで,リンクされている各文章は,読んでおいて損がないと思います.

 組体操に関わる人々(学校の先生,児童,記者など)の心理を巧みに描いた朝比奈あすか『人間タワー』は,第一話が2016年4月に出て*2,のちに単行本になりました.

人間タワー (文春e-book)

人間タワー (文春e-book)

 三角錐型の7段ピラミッドについて,具体的な事故事例を見つけていません.10~11段の危険性を,そのまま6~7段に適用する論調には,好感が持てません.
 しかしながら,ここ数年の状況を見ていると,書籍やWebに掲載されているから,あるいは指導者の成功実績があるからといって,今の子どもたちにやらせようというのもまた,適切ではないなと考えています.

*1:その一つ前は,クイックピラミッドに見えます.

*2:https://www.bunshun.co.jp/mag/bessatsu/bessatsu323.htmより少しだけ立ち読みできます.