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数の乗法的な構成

wikipedia:かけ算の順序問題の,次の記述から話を始めることにします.

しかし、場面に対応するかけ算の式は、常に一つというわけではない。第2学年では、「12個のおはじきを工夫して並べる」という活動において、次のようにおはじきを並べ、複数の式を記載している。これは「一つの数をほかの数の積としてみる」ことを意図したものである。

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2×6または6×2
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3×4または4×3

上記の「積」とは何だろうかと,考えてみます.まず思いつくのは,2つの数を「かける」ことによって得られる値です.「かける」という演算は後に定義することとします.あるいは,上のように並べて●の数を数えれば,12個となるので,2×6=12,6×2=12,3×4=12,4×3=12と定義する,というのも,2つの因数が正の整数であれば,差し支えないように見えます.
簡単にいうと,これは「2と6をかける」という見方です.2つの因数を対等に見る考え方です.
また別の見方があります.「積とはかけ算の答え」に基づき,小学校で学習している(あるいはこれから学習しようとする)「かけ算(乗法)の意味」を積極的に活用して,さまざまな式を作るというものです.
『小学校学習指導要領解説算数編』*1を見ると,乗法の意味は次のように書かれています(p.87):「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。」.
このとき,「一つ分の大きさ」に当たる数を,乗算記号(×)の左に書いて「かけられる数」または「被乗数」,「幾つ分」の数を右に書いて「かける数」「乗数」とします.式におけるこれらの区別は,『小学校学習指導要領解説算数編』の第2学年のところだけ読むのでは,自明ではありませんが,第4学年の「乗数や除数が整数の場合の小数の乗法,除法」における「例えば,0.1×3ならば,0.1+0.1+0.1の意味である」という例示(p.142)などから,確認することができます.
さて,次の並びに着目します.

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この図は,「一つ分の大きさが決まっている」わけでも,「その幾つ分かに当たる大きさ」が一意に定まるわけでもありません.
ですが,「一つ分の大きさ」を自分で決めれば,「幾つ分」が確定します.例えばこう分けます.

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「一つ分の大きさ」を2個の●とし,それが「幾つ分」あるかというと6つ分ですね.かけ算の式にすると,2×6となります.「2に6をかける」と言うこともできます.
6×2あるいは「6に2をかける」を得るには,横に切ってもいいのですが,次のような切り方でも,差し支えないはずです.

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「一つ分の大きさ」は,●が6個で,「幾つ分」は2つ分,となっています.このような分割の仕方ができるのは,総数に依存しまして,例えば3行7列の並びについては(そしてその並びを動かさない場合には),「縦に切る」ことで3×7,「横に切る」ことで7×3,という2種類の分け方のみとなります.
『小学校学習指導要領解説算数編』で,●の並びと,「2×6または6×2」「3×4または4×3」が出現するのは,乗法の意味を書くより前のp.81です.その直前には,次のような記載があります.

エ 一つの数をほかの数の積としてみること
ものの集まりを幾つかずつまとめて数える活動を通して,数の乗法的な構成についての理解を図ることをねらいとしている。ある部分の大きさを基にして,その幾つ分として,全体の大きさをとらえることができるようにする。
例えば,「12個のおはじきを工夫して並べる」という活動を行うと,いろいろな並べ方ができる。下の図のように並べると,2×6,6×2,3×4,4×3などのような式で表すことができる。このように,一つの数をほかの数の積としてみることができるようにし,数についての理解を深めるとともに,数についての感覚を豊かにする。

「2と6をかける」や「2つの因数」といった見方・とらえ方を,この記述から得るのは,難しそうにも見えます.
3行4列のアレイ図から,いくつかの分け方,そしてかけ算の式を得ることができるという書籍には,『新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』があります.この本を読み直したところ,アレイを使わずに,「一つの数をほかの数の積としてみることができるようにし,数についての理解を深めるとともに,数についての感覚を豊かにする」を意図した授業・板書の例がありました(pp.26-27).

「みかんが12こあります。おなじ数ずつ ふくろに分けます。どんな分け方ができるでしょうか。」という問題に対して,「2こずつわけると…」とし,図と,それまでに学習しているかけ算の式をつかって,「2×6=12」を得ます.「6こずつ」だと6×2=12,「4こずつ」だと4×3=12,「3こずつ」だと3×4=12です.
「2×6=12」の式の右上には,「6×2ではないね」と書かれた吹き出しもついています.さらに「6こずつ2つくろ」の吹き出しが刺さっています.
この意図は,板書の左の「本時のねらい」を読むと明確になります.「みかんを同じ数ずつ袋に分け,その状態をかけ算の式で表すことを通して,被乗数と乗数の意味の違いを確かめる。また,積が同じになるかけ算の式がいろいろあることに気づく。」とあります.

*1:以下のページ番号はhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_004_2.pdfからです.PDFファイルを開き,本記事で記したページ番号から60を引いた数に飛ぶと,該当ページが表示されます.