- 作者: 中澤渉
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/03/20
- メディア: 新書
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飛ばし読みしています.125ページから始まる「3 教育効果の測定」(第3章 教育政策とエビデンス)については,じっくり読みました.最初に「真の因果効果とは――反実仮想の発想」という小見出しを設け,因果関係について2つの段落で簡潔に記したあと,因果関係の証明は簡単ではないよというのが,例示されていました(pp.125-126).
たとえば、テストの前に一時間教科書を通読したとする。その後テストを行い、よい点をとった。すると教科書を通読したから、テストの点数がよかった、と考えがちだが、社会科学的にはその推測は不十分だ。もしその推測を認めてしまうなら、仮に教科書を通読した後に、点数が悪かった場合(こうなることは十分ありうる)、その人は教科書を通読したから点数が下がった、と推測するのと変わらない。ただ、この推測に違和感がある人は多いだろう。大体、教科書の通読と、テストの点には何の関係もなかった可能性すらあるのだ。
教科書の通読によるテストへの実質的な影響は、教科書を通読しなかった場合と比較しなければわからない。しかし教育現場では、厳密な比較を行わず、何らかの教育方略や学習行動を実施したから、効果があったとする言説で満ち溢れている。(略)
その後は,薬の効果の有無に対象を切り替え,ランダム化比較実験(RCT)を述べています.「ただ社会科学は」から始まる段落を設け,そう簡単でない(あまりなされていない)ことを書いたあと,一種の思考実験として,「反実仮想的」発想で推論(因果関係の推定)を行う,としています.
RCTが適用できない場合の他の措置の一つとして「回帰不連続デザイン」の名前をあげ,日本の学級編成が定員を40人と定めている(41人になったら学級が分割される)ことに着目して,学級規模が学力に与える影響・効果を分析したという研究を,138ページ以降で紹介しています*1.巻末には文献のURL(http://ies.keio.ac.jp/old_project/old/gcoe-econbus/pdf/dp/DP2011-005.pdf)が書かれていました.その著者の一人が作成した,文科省の会議資料(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/084/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2011/07/11/1308080_2.pdf)も見つかりました.