その1
車内で.
「お菓子,食べるね」
「いやいやうえの子よ,これから昼食なんやが」
「もう開けてしもたもん」
「…」
「お姉ちゃん,ちょうだ~い」
「(あとの子やな,あの声は)」
「このお菓子はね,大人専用なのよ」
「(どんなお菓子やねん)」
「では,わたしは今,大人です.一つ,ください」
「あとの子よ,それは無理ありすぎるぞ」
その2
夕食のテーブルには,大きな鯛がありました.
おばあちゃんが,中央に箸を入れたのを(文字どおり)皮切りに,テーブルで向かい合って座る,さきの子とあとの子が,魚の身をどんどん取って,自分の器に移し替えていきます.
「さきの子よ,多すぎやせんか」
「ええねん!」
「一人でそんだけ,食うんか?」
「ちゃうねん.お姉ちゃんの分も,取ってんねん」
「…」
「食べるで」
「念のため聞かせてくれるか,さきの子よ」
「なに?」
「もしお姉ちゃんが『食べへん』っちゅうたら,どうするの?」
「うちが食べる!」
「…ちゃっかりしてるなあ」
「でしょでしょ!」
「ちなみに褒めてへんぞ」