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下り坂を進む我々

講演者は,京都造形芸術大学教授の寺脇研先生.
昨日,学内で「教育と文化を考える」と題する特別講義があり,出席してきました.学生が多く,途中何度か,観光学部とそこに属する2学科への言及があったので,観光学部の学生は出席を課されていたのかもしれません.
講演内容を要約すると,「『教育と文化を考える』というコンテキストにおいて,『上り坂・下り坂』という切り口を用いて,『下り坂』を進んでいく学生に希望を与える」といったところでしょうか.
お話の主軸は,「上り坂・下り坂」でした.上り坂というのは,崖の上のポニョじゃなかった司馬遼太郎坂の上の雲』によるもので,恥ずかしながらこの本は読んだことがないのですが,ともあれ講演としては,坂の上の雲を,成長期における目標に位置づけていました*1
一方,下り坂というのは,日本で言えばバブル崩壊後であり,世界的にも昨今のアメリカの不況を背景に*2,これからの生き方を各構成員がいかに考え*3,構成員同士で折り合いをつけていくかが課題となります.構成員は,個々人という単位に限らず,国家という単位も考えられます.
上り坂と下り坂の対比を含めて,お話の興味深いところは,一通りテキスト化して当日記に残しておきたいとも思ったのですが,分量の都合で,脱線は2点だけ(ご本人にとって,強調したいところだったと思いますし).上り坂は「競争」,それに対して下り坂におけるキーワードは「共生」とのこと.そして,「落ちるところまで落ちればいい」ではなく,「現在の生活水準をなるべく下げずに,しかし下り坂であることを認識しながら前を進むこと」というスタンスでした.
さて,講演の後半に,「上り坂では経済力や軍事力が重視されたが,下り坂では,文化力だ」というのを耳にして,疑問がわいてきました.文化力について*4定量化したり,他のものや,自身の過去・未来のものと比較したりできるという前提を置いた上で,「下り坂で文化力が重視される」根拠は何なのかです.
質疑の時間で,誰も手を挙げなかったこともあり,「『下り坂で文化力が重要』とのことでしたが,これは,日本の過去や世界のどこかで,参考にされたものがあるのでしょうか? それとも,上り坂のころに脚光を浴びなかった項目だからでしょうか?」と質問しました.
丁寧なお答えをいただきました.世界的に見てもモデルとなるものはなく,だからこそ,これからを生きる学生の知恵を望む,とのこと.
学生向け講演として,よかったのではないでしょうか.

*1:“『坂の上の雲』とは、封建の世から目覚めたばかりの幼い日本国家が、そこを登り詰めてさえ行けば、やがては手が届くと思い焦がれた欧米的近代国家というものを、「坂の上にたなびく一筋の雲」に例えた切なさと憧憬をこめた題名である。”,wikipedia:坂の上の雲

*2:そういえば昨日読んだスーパージャンプの「王様の仕立て屋」は,アメリカ発の世界的不況で服飾も映画も立ち行かなくなった状況に,主人公・織部悠が労使交渉に臨む社長向けに服を仕立て,その成功を見て周囲が前向きになるというストーリーでした.

*3:手元のメモを見直すと,「自分の考えを持つ人間になること」とあります.聞く一方ではいけないのだ,とも.

*4:経済力でも軍事力でも,あるいは自分の分野になぞらえるなら,構築するシステムの完成度でもいいのですが.