研究室生活 基礎文法最速マスター - わさっきの第2弾です.「修士論文 基礎文法最速マスター」「博士論文 基礎文法最速ドクター,じゃなかったマスター」というのは,作る予定はありません.
前回同様,私の経験に基づいておりますが,他の大学や分野でも適用可能なアドバイスになるよう,心がけています.
1. 基礎
なぜ卒論
卒業に必要な科目だからですね.四の五の言わずに完成させて,卒業しましょう.
多くの科目が100点満点で成績がつく中,卒業研究は「合格」「不合格」のいずれかで判定されます.これは,優劣を,完全に学生の努力で決めることができないという事情があるからです.具体的に言うと,素晴らしい研究発表だった理由は,本人の努力もさることながら,指導教員が良いテーマを見つけたからなのかもしれないのです.
卒論と卒研
「卒論」とは,卒業論文の略です.「卒研」とは,卒業研究の略です.「卒検」は,卒業検定の略で,おそらく運転免許の話です.
執筆し,提出するのは「卒論」です.1年かけて実施するのは「卒研」です.科目名は「卒業研究」です.卒業論文は,この科目に合格するための要件の一つとして提出するものです.
発表会も,1年間かけて実施したことを,決められた時間に凝縮してしゃべり,先生からの質問を受けるわけですから,「卒業論文発表会」ではなく「卒業研究発表会」といいます.
…このように,個人的には区別をしています.特に,メールを送ったり,発表プログラムを作成したりするときには,あとあとまで残るので神経を使います.すべて「卒論」と言う先生もいたりしますが,そういう研究室の学生さんは,そのルールに従いましょう.
単著
複数人でシステムを構築していても,卒論は一人一人書きます.タイトルが異なりますし,問題解決のための着眼点が違います.
グループとしてのゴールは同じであっても,自分の研究として,目的を何にするか,すなわち定番表現で言うと「本研究の目的」は,卒論を書く人それぞれで異なります*1.異なる(のが分かる)ようにするのは,学生を同時に見ている,指導教員の責務ですが,まあ学生間でも意識しておくと,プレゼンしやすくなるでしょう.
2. 体裁
表紙
本文の体裁は研究室ごとに違っているのが通常ですが,表紙は,学部で統一するよう定められています(私の所属する学部では).「表紙の体裁はこうです」というフォーマットに従いましょう.
年度と年月日に注意してください.今なら「2009年度」であり,提出時には「2010年○月○日」となります.
タイトルが長い場合,助詞句*2の直後で改行します.「〜を(改行)用いた」は間違いで「〜を用いた(改行)」とします.複合名詞が巨大化したときには,助詞句の直前で改行することも認められます.
ページ番号
ページ番号のことを「ノンブル」とも言います.
表紙には,つけません.アブスト,目次,図目次,表目次はローマ数字の小文字とします.「iii」の次が「iiii」ではなく「iv」だったら正解です.
本文(謝辞,参考文献,付録を含む)にはアラビア数字(算用数字)です.1章の最初のページが「1」となります.卒論にページの制限(上限も下限も)はありませんが,謝辞の前のページ番号が「20」以上になることを目安に,文章や図表を入れていくことを,目指すのがいいでしょう.
書籍だと,章の始まりは奇数ページにする慣例がありますが,卒業論文では適用されません.
ページ番号は,ローマ数字であってもアラビア数字であっても,奇数ページであっても偶数ページであっても,ページの下部中央につけます.
内容梗概
表紙の次のページは,「内容梗概」または「概要」というページを設けます.
研究の概略を1ページで書きます.背景と本研究の目的,実施したこと,評価方法と結果,研究の意義を,バランス良く書きます.背景が長くなりすぎて,自分が手がけた本体のところが2〜3行だけ,というのは避けるようにします.
このページは,俗に「アブストラクト」と言います*3.会話では「アブスト」と縮めますが,おそらく和製英語でしょう.「要旨」と言う人/書いている本も,いる/あるかもしれません.
構成
本文を書く前に,目次案を作ります.うちとこのテンプレートはこんな感じ:
1 はじめに
1.1 研究の背景
1.2 研究の目的
1.3 研究の成果
1.4 本論文の構成
2 準備
2.1 ……
2.2 ……
3 実施したこと
3.1 ……
3.2 ……
4 評価
4.1 実験
4.2 結果
4.3 考察
5 おわりに
謝辞
参考文献
付録
最初の章と最後の章は呼応させます.「はじめに-おわりに」「まえがき-あとがき」「緒言-結言」*4あたりを聞いたことがあります.
2章と4章の見出しは,内容によってはもっと具体的にすることもありますし,「準備」「評価」のままにすることもあります.3章は,「実施したこと」は絶対ダメで,実施したことをタイトルにします.どうしても思い浮かばなければ,卒論のタイトルとします.実施したことと,システム利用の流れを別にしたければ,章を分け,評価以降の章番号も一つ増やします.
謝辞(必須)・参考文献(必須)・付録(任意)には章番号を振りませんが,目次に並べページ番号を書き,本文のフォントは章見出しと同じにします.
章の中で内容を分割し,番号と見出しをつけたものを節といいます.本文で,他の節を参照したいときは「3.2節」のように書きます.
章の中で内容を分割し,番号と見出しをつけたものは,項あるいは小節といいます.項も,目次に入れます.
節にせよ項にせよ,「4.1」や「3.2.1」のように「.1」で終わって「.2」がない,ということがないようにします.
3. 本文
記号類
個人的な推奨は以下の通り.
- 句読点は「.,」
- 丸括弧は全角
- 英語は半角
- 数字は半角
丸括弧の中が英語だけのときは,丸括弧も半角にした方が,見やすそうな気はします.
統一していれば,そこで目くじらは立てません.統一していなかったら,例えばある段落だけ「。、」だったら,「ここだけどこかから引き写したのかな?」と誤解されるかもしれませんね.記号類は,最終段階で一括置換しましょう.
漢字かひらがなか
漢字にすべきか,ひらがなのほうがいいか,迷ったら次のルール:
- 専門用語は原則として漢字
- 形式名詞,副詞,接続詞は原則としてひらがな
後者の有名な例は「従って」です.「〜に従って」は動詞なので漢字,「したがって,〜」は接続詞なのでひらがなとします.
これも,論文の中で統一していることを重視しましょう.integrityは一貫性とも誠実とも訳されます.
図表
図見出しは図の下に書きます.表見出しは表の上に書きます.
図,表で別々の通し番号とします.ただし章が変わったからといって振り直すのではなく,卒論全体でそれぞれ通し番号とします.
図表は本文で1回以上参照します.「〜(図○).」「図○に,〜を示す.」「〜は図○のとおりである.」といった書き方をします.参照した段落の直後に,該当する図表を置きます*5.
提出前に一度印刷して*6,「図○」と「表○」をマーカーで塗ってから,以下のことを確認しましょう.
- 図番号が「図1」から始まり連続していること
- 表番号が「表1」から始まり連続していること
- どの図番号も1回以上,本文で適切に記載していること
- どの表番号も1回以上,本文で適切に記載していること
謝辞の書き方
「主指導教員」「所属内の他の教員」「学外で協力を得た人」「研究室内で協力を得た人」「その他」の順に,それぞれ段落を分けて書きます.2番目以降について,該当者がいなければ,書かなくてかまいません.
謝辞の書き方(2007年度版) - わさっきは幸いにも今年度も有効です.
参考文献と引用
引用の前に,参考文献のページを充実させておきます.各項目は「[番号] 書誌情報」として,文献の情報を書きます.書誌情報の体裁は,研究室の慣例に従ってください.なければ,sist-jst.jp - このウェブサイトは販売用です! - 技術 基準 流通 科学 学術 文献 雑誌 構成 リソースおよび情報を参考にするのはいかがでしょうか.
番号は,最終的には引用順で通し番号にします.面倒ですね.はじめのうちは「[和歌山2009]」のように「著者+発行年」を番号の代用とし,文章を充実させて,参考文献の追加や引用順の変動がなくなったところで,一括置換を使って並べ替えるという方法があります.うーん,面倒ですね.TeXならこんな心配がうんと減りますが,習得が大変なので,何で書くかは,卒論を書き始めるときに決めておきたいものですね.
本文で「[番号]」として書くのが,引用です.括弧類と同じで,なしにしても読めるように書くのが原則です.「著者名[番号]」の形式は,細かいルールをここで書くのが面倒なので,すすめられません.
その一方で,私の分野では,「[番号]では〜」と,名詞のように用いることが許されます.ただし文頭は「文献[数字]」とします*7.
何に対して引用するかというと,卒論ではこんな感じです:
- 先行研究
- 使用する手法の出典
- 統計情報(白書など)
- ソフトウェアやWebサービス
参考文献の話に戻りますが,URLを書誌情報に入れるのは,別段問題はありません.ただし,Wikipediaや用語解説のページ,LinuxやWindowsといった普及しすぎているソフトウェアは,参考文献に入れないようにします.
実験
「目的」「実施内容」「結果」「考察」の順に書きます.
実施内容と結果はとくに客観性・再現性に配慮します.
件数や人数を明記します.ただしそれらの数が多ければ良いというものではないので,数量を含む実験方法について,あらかじめ指導教員に相談して了承を得ておきましょう.
学外の人の協力を得る実験
「依頼文」「実験手順書」「アンケート」を文書化し,指導教員の承認を得てから,実験します.
卒論には,アンケートのみ付録に入れます.これは実施内容の根拠になるからです.依頼文は,システムのソースコードと同じで,論文には入れませんが,研究成果として残しておきます.実験手順書は,それを論文の体裁にしたら,「実施内容」になります.
4. 提出まで
どこから充実させるか
書けそうなところから書きます.「実施したこと」から書き始めるのがよいというわけでもありません.
章立てを決めたら,それぞれに何を書かないといけないのかを1〜2行で書き,そこから肉付けすることをおすすめします.
スケジュール
スケジュール管理をしてください*8.スケジュール管理そのものは記憶からなくし,執筆に集中できるようにしましょう.
赤入れ
途中段階の原稿を,指導教員に見てもらうことを「赤入れ」「添削」といいます.
実際,赤ペンが入った状態で返ってきます.
赤が多いと良くない(少ないと良い),というものでもありません.主要部だけ赤入れ,ということもあります.先生は多くの学生の面倒を見ているだけでなく,試験や成績評価,年度末の雑事に追われている中で,時間を割いて全文に目を通してくれたということを,忘れないようにしましょう.
赤の入ったすべての箇所について,何がまずいのか,どう対応すればよいかを聞き,納得してから,修正します.
表記ミスだけでなく,再調査などをして書かないといけないものもあります.なので簡単に修正できるところだけをまず修正します*9.修正のたびに,返してもらった原稿で赤の入ったところに,鉛筆で印をつけると,どこを変えたかが明確になります.再度先生に提出するとき,直前にもう一度赤入れ原稿と照合して,修正していない箇所がないことを確かめましょう.
提出
提出日はもちろん時刻に注意です.近年は時刻も指定されています.事務室の閉まる時間よりも早くしています.1分でも遅れると受理されません.
あったら困るのですが指導教員が間違った指示をする可能性があるので,他の研究室の人と会話をして,提出の要領と緊張感を共有しましょう.
綴じ方などの様式は,教員から聞き,研究室のみんなと同じにしましょう.どこかでgiveしてもらったら,別の機会にtakeするようにしたいものです.
直前にプリンタが機能しないだとか,キューにたまっているだとかで,自分のが打ち出されないというのは大変です.そんなときに,転ばぬ先の杖:
補足
有名どころを一つ.
卒業論文の書き方指南のWebページで,おそらくもっとも有名なのは,やればできる卒論の書き方 第1部 論文の書き方でしょう.あれ? 東大はどこへ行った…http://b.hatena.ne.jp/entry/staff.aist.go.jp/toru-nakata/sotsuron.html.へえあれまあ.
書くのに疲れたときの息抜きに,読むことをおすすめします.いや,興奮剤になるかこれは….
*1:目標と目的の違いというのが問われます.wikipedia:目的は,個人的に共感できませんでした.「目標」と「目的」の違い - INSIGHT NOW!プロフェッショナルの『目的=目標+意味』,目的と目標の違い | 脱コンサルタントの企業経営でノウハウ公開(表)の『目的:試合に勝ちたい,目標:甲子園出場』は,いずれも今回の趣旨に合います.
*2:例:http://sousouryofu.iza.ne.jp/blog/entry/853572/,³Ê½õ»ìÁêÅö¶ç
*3:英語では「Abstract」と書きます.beatmania IIDXでもあったらしく修正されたらしいのですが,「Abstruct」ではありません
*4:私は卒論を書かなかったのですが,院生時代,ある長電話友達は「どの章にも『緒言』と『結言』を(章の最初と最後の節に)書かないといけない」と言っていました.
*5:TeXの文化ではページの上だとか下だとかに置き,本文と独立させるだとか,手書き時代には,図表は一つで1ページだとかいったルールもありましたが,現在のWord文化では,本文中というのが当たり前になっています.そういえば先日カメラレディ原稿を出した国際会議では,TeXのテンプレートでも,本文中に図表を入れるスタイルをとっていました.
*6:2up両面モノクロで.
*7:箇条書きの番号や,直前の文に対する引用というのと,間違えられないようにするためです.
*9:簡単なところの全修正は,1時間で終えてしまいましょう.
*10:ホテルの非常口みたいなものですね.もちろん,焦っているからといって複数それぞれに印刷するのは,厳禁です.
*11:不慮の傷病で大学に来られないとき,教員や研究室の学生が,暫定的にと提出してくれるかもしれません.まあ当てにするなひとすぎるなんとやらですが.