わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

新手の思考停止

最近,学生と,こんな会話になることがありました.

教員:今回やっている研究室の活動について,自分なりに何か技術が身についたとか,今後はこの点についてもっと学ぼうとか,ありますか?
学生:いえ,特に.

教員:研究室のゼミとかディスカッションとか,これからどんなふうに変わっていくんかねえ….
学生:分かりません.

2番目の教員の発言については,少し補足が必要でしょう.ゼミやディスカッションで,発表者以外の学生の発言を誘発しようと,教員側は心がけています.変わる一例として,発表内容や,教員の発言の中で出た,ゼミ全体でなじみの薄い言葉を,発表者とは別の学生が無線LAN接続のノートPCを使ってさっと調べ,意味や使われ方を読み上げるというのがあります.昔だったら,教員が長い時間をとって解説するか*1,「後で調べておくといいよ」と言い残してその後誰も調べなかったというものです.
上の教員の発言,どちらも,教員としては,正解を望んでいません.何か情報を返してもらって,そこから対話を深めようという意図です.しかし学生の返答が「特に」や「分かりません」で,それ以上進みません.
そして,そういった返事が,その場で少々悩み,即座に答えを出しにくいなあといった,遠慮がちに発するのであれば,ちょっと質問の仕方を変えようかなという気になりますが,最近,複数の学生の会話で経験した「いえ,特に」「分かりません」は,「はい,それは」と同じような即答であり,十分にはっきりしている言い方なのです.
はっきりした言い方で,しかも質問に対して否定的で,その後の会話の進展が望めない…新手の思考停止なのかと思うようになりました.
次のような会話なら,ぽんぽんできます.

教員:ふだんの授業は,きちんと理解していっていますか? しんどい科目も,ありますかね?
学生:○○演習が,難しいです.
教員:え,あの科目は,先生やTAのアドバイスをよく聞き,自分なりに進めていけば,いけるんとちゃうかな.大変か…
学生:はい.
教員:演習のベースになる,○○の講義は,前のセメスターで取ったでしょ?
学生:いえ,落としました.
教員:ありゃりゃ.

教員と対話をしたくない,というわけではなさそうです.○○演習で苦労している理由を,自分なりに理解しているのも,うかがえます.
連想するのは表現者へ - わさっきなのですが,そこで取り上げた学生とも,何割か似ているけれど,何割かは違うのです.
一番大きな違いは,会話で悩まないという態度をとっているところです.簡単な質問には答えます.しかし少々難しいと感じたら,「分かりません」と答え,別の話題にしてくれと促しているようにも,思えます.
研究室の教員との対話だから,教員の方が素直に話題を変えるわけですが,同様の受け答えを就職活動でもやってしまったら,高い確率で先方の機嫌を損ね,あるいはコミュニケーション能力に低い点数がつき,内定を得るのに手間取りそうです.
さて,対策が必要です.今,思い浮かんでいるのは…世の中にはたくさんの形の「問い」があり,その答え方はいろいろあっていいことを,一対一の対話や,ゼミでのやりとりを通じて,広めていくことです.
しかし,「いろいろあっていい」は「何でもいい」ではありません.コミュニケーションもデザイン活動なのであり,内容だけでなく形式も求められています.していい言い方,いけない言い方があります.時間やその他のリソースに注意しつつ,妥当な返答をする訓練が不可欠です.正しい答え方を,手本として示す必要も,あるでしょう.
もちろん,良い「問いかけ」をすることが前提になります.そこでの訓練が十分にできてこそ,圧迫面接ほか,意地の悪い質問にも対応できるようになるというものです.
美味しんぼ』で,牛乳の話があったと思います.たしか,子供が牛乳大嫌いなのだけど,牧場へ連れて行って高温殺菌をしない牛乳を飲ませて本物の味を理解させれば,給食の牛乳も好んで飲むようになった,というエピソードがあったように記憶します.会話でも,学生を弾ませるような,本物で濃厚な問いかけを,用意していきたいものです.

*1:そこに間違いや,今となっては古い情報が入っていても,誰も突っ込めません.