わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

「・」をめぐる問題

科学の成果が技術に使われ、生活が便利になる−−という発想から、日本では科学と技術を一くくりでとらえてきた。科学技術基本法、科学技術予算などがいい例だ。
双子のように並び称される両者を「・」で区別しようという主張が科学者の間で強まっている。国の総合科学技術会議では、資料に「科学・技術」の表記を取り入れ始めた。「科学技術と書いた場合、文法的には科学は技術の修飾語扱いで、技術が主役であるような印象を与える。同格の言葉を併記するなら『・』を入れるべきです」と、有識者議員の一人、金沢一郎日本学術会議会長は説明する。

http://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20100306k0000m070134000c.html

上の記事が出たのは10日以上前なのですが,その間,ちょっと情報収集をしていました.本やら新聞記事やら,Webの情報やら,自分の頭の中やら.
何かというと,「・」を入れることができるけど,入れずに使われている言葉です.
結果は,たったの3つでした.

  • 科学技術
  • 誹謗中傷
  • 情報通信

科学と技術に関しては,科学研究費事業仕分け問題を教育で解決する現時点でのたった一つの最適解 - 技術教師ブログ「科学技術」じゃなくて、「科学・技術」にする? - モジログでも取り上げられています.私もかつて,次のように書いていました.

  • 科学と技術の区別,そしてその一方でこれらが対等に結ばれて語られていることへの理解
技術のエッセンスは,設計 - わさっき

NAIST奈良先端科学・技術大学院大学になるんだろうか

http://b.hatena.ne.jp/takehikom/20100306#bookmark-19789197

NAISTについては昔話があって,設立当初の英語名称はNara Advanced Institute of Science and Technologyだったのでした.「Advanced」がなかったら,略称がNISTになって,これはすでに有名なのがある*1のでまずいね,と,入学するより前に,授業だったかゼミだったかの雑談で聞いたことがあります.現在は,「Advanced」が取れていますが,NAra Institute of Science and TechnologyでNAISTなのですね.沿革にも載っていなくて,少々戸惑いました.
奈良先端科学技術大学院大学」を「奈良先端科学・技術大学院大学」にするのは,まず

それはともかく、「科学・技術」という表記で、ほんとうにいいんだろうか?とちょっと心配になる。記事中にある「総合科学技術会議」のような例でも、これを「総合科学・技術会議」と書いてしまうと、「・」の切断力が強すぎて、「総合科学」と「技術会議」に分かれて見えてしまう。ほんとうは「総合」「科学・技術」「会議」なのだ。

「科学技術」じゃなくて、「科学・技術」にする? - モジログ

と同じロジックで,日本語表現の点で問題があります.国策か社会の風潮によって,仮に,「・」を入れるのが当たり前になったとしても,学名変更で国の承認手続きが必要になりそうです.そして看板の付け替え,印刷物の変更のコストも,馬鹿になりません.そんなこんなの,妄想でした.
誹謗中傷については,wikipedia:誹謗中傷の説明が分かりやすいですね.「誹謗中傷する」については,goo辞書の「誹謗」のところでも,用例として挙げられています.
最後に,情報通信です.情報と通信をくっつけて世の中に出回るようになったのは,ICT=情報通信技術でしょうか.それ以前に,IT=情報技術として世の中で流行し,国会でも面白おかしく取り上げられたものですが,ICT=情報通信技術という言葉に変わり,現在ではこちらが定着しているように思われます.
私のいる学科は情報通信システム学科で,英語ではDepartment of Computer and Communication Sciencesと書かれます.ITとかICTとか言われるより前にできた学科名です.
科学と技術と同じくらいに,情報と通信も,境界がないように見えます.
例えば,データベースは,私が大学3年の後期に,ある教科書を読んで学んだときには,純粋に情報処理のように思っていました.しかし今どっぷりその分野につかり,システムを組み上げて学会発表をしながら,情報処理と通信の両方があってこそ有用なものになることを,痛感しています.そして,関係データベースが確立するよりも前の,いわばデータベースの初期の段階から,国レベルでの鉄道の予約という,データベースを構築する必要性があった*2にも,思いをめぐらせます.その当時から,データベースは情報と通信の両方が土台となって作られ,使われてきたことがうかがえます.
通信を,計算機どうしのデジタル情報に限定せず,対象も媒体も広くとると,適用範囲が増えることになります.
例えば,プログラミングで関数を定義するときにも,たとえそのプログラムが他の計算機どころか同じ計算機とも通信していない*3状況でも,通信すなわち(形として現れない情報*4の)やりとりというのを認識しないといけません.すなわち,関数を呼び出すというのが,一つの通信行為にあたる,と考えるのです.戻り値を得て,関数を呼び出した時点に制御を戻すのも,もちろん1個の通信です*5.値をやりとりして,個々の呼び出しそしてプログラム全体として,適切に機能するよう,コーディングするのは,外見としては情報処理技術なのですが,このように,通信の考え方も多分に含まれているというわけです.
科学と技術の曖昧さに,情報と通信の曖昧さを掛け合わせると,話がさらに大変なことになります.ならないよう,一点だけ書いておきますと,情報については「情報は科学か? 工学か?」という問題が昔からあったように記憶します.しかし通信については「通信科学」という結びつきはほとんどなく,「通信工学」というのがポピュラーです.この違いを深く妄想していくと,面白いんだけどなあと思ったのですが,すでにきちんと検討されている文献がありそうなので,この件はいったんここまでにしたいと思います.

*1:wikipedia:国立標準技術研究所

*2:実際に国鉄の座席指定でどのようなシステムが組まれたか,本を読んだわけでもないので,この表現にとどめておきます.

*3:「自分の計算機」と「他の計算機」を区別する必要はなくて,LinuxのCのプログラミングでは「プロセス間通信」という概念で一般化できます.私の担当の演習の話だったりします.

*4:デジタルにせよアナログにせよ,通信される内容は,波形などで「形として表せる情報」だという立場をとっています.ここではそういう形にすらなっていないけど,「情報」ですよね,とお考えください.

*5:関数を呼び出してそれが終わるまでというのを,一つの通信行為とみなす,という考え方もできます.