前の土日,東大にて,情報知識学会の年次大会が催されました.M1になって間もない学生に,卒業論文の内容を取りまとめてプラスアルファをつけ,しゃべってもらいました.
M1学生と
「おつかれさんでした.質疑はだいたいメモってるんで,メールしますね」
「ありがとうございます.あの,先生…」
「はいなんでしょう」
「いろいろな発表を聞いて思ったんですが…」
「はい」
「うまいと思った人のしゃべり方には,ユーモアとか,余裕があるんですね」
「ふむ…」*1
「自分もあんなふうに話せるようになれればなあとか」
「ん…学生の間は,その方向に行ってほしくないなあ」
「そうなんですか?」
「時間内にしゃべり,理解してもらえるような内容を作り込んで,1本の流れとして話す.というのを身につけてほしいものです」
「はあ…」
「先日,某ゼミで,うちとこのM2の人が発表してたでしょ.あれが理想形」
「ああいうのですか…」
「前日の内容チェックでは,こちらも大丈夫かなあと思ったもんやけど,準備のために飲み会を欠席したくらいやし,すごい作り込んだなあというのが分かる,話の組み立てとしゃべりやったね.余裕のなさというよりは,余分な話をできるだけそぎ落とした,というか」
「先生,あの人,質問の終わりのほうで苦労されてましたよね…」
「そうだね.でも,はじめの何件かはうまいこと対話できてたでしょ.しゃべりを聞いてもらって,当然出てきそうな質問には用意をしているし,そうでなければその場で考えるわけです」
D3の方の発表に対して
うちとこの学生の発表の直後は,大学名は書きませんが,大学院文化科学研究科の方でした.まあ文系の方なんだなあ.単著か.学生さんか研究員さんか教員さんか,わからんなあ.予稿を見てみると,引用の仕方が,自分の分野とは全然違うし…と思いながら聞いてみると,ドクター3年の方でしたか.かつてはSEをしていて,何度か出てくる先行事例の著者は指導教員で,学生である前から親交があったとのこと.なので,社会人ドクターですね.
内容に関しては,うちの学生の発表よりも,研究室内の別件,国内では昨年のじんもんこんや,個人的には先月スペインで発表した分に,近いなあと思いました.
質疑で,主要なところは抑えられましたので,まだ時間もあったことだし,こんな質問をしてみました.
「発表内容,というか発表の題目に関して,情報分野の発表では『ナニナニを用いた』という言い方で,採用する手法を明確にするというやり方があって,私もよく使うのですが,今回の発表ではその手法を何ととらえればいいのでしょうか?」
質問した背景は,こうです.当雑記でもしばしば書き,周囲にも言っていることですが,研究は「何を対象として」「何を用いて」「何をするか」で決まります.とはいえ,タイトルの中で「ナニナニを用いた」と書くべきかどうかは,その都度考えます.
逆に,「ナニナニを用いた」という定型句を用いると,学会の口頭発表にせよ,論文にせよ,ポイント稼ぎのように感じることもあります.手法を変えればまた1件の発表になり得ます.その分,1件1件の研究が小さく見えるという危惧も,抱いています.
といったことで,「ナニナニを用いた」というポイント稼ぎの表現を使わずに,自分の解決したい課題と,取り組みについて話していき,その積み重ね…「重ね塗り」と呼ぶべきかもしれません…によって,博士論文に行き着いてほしいなあという希望がありました.
ご回答は,こういう意図を完全に汲んでくれたわけではありませんが,博士論文の途中段階なのがよくわかり,完成への期待を感じさせてくれるものでした.