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本文の大半を占めるのは,合計86個のトリアージプロトコルです.各プロトコルは見開きになっていて,左のページは,レベル(LEVEL1〜LEVEL4.LEVEL1がトリアージの色で言うと赤に対応)とアセスメント視点,右のページは,レベルごとにどのように看護すればよいかの情報です.
そのプロトコルをページごとに見てみると,共通する事項がかなりあります.例えばLEVEL1に対する看護側の考慮として,「緊急治療」「患者の側を離れない」「蘇生チームを動員」「救急カートを準備」「ABCアプローチ」が,どの奇数ページ(右側ページ*1)にも載っています.
しかし慎重に見比べると,あるページでは「蘇生チームを動員」が赤文字になっており,また別のページでは「ABCアプローチ」の前にいくつかの項目が挿入されています.なので,マニュアルを読み進めていけば,症状ごと*2のトリアージ方法そして処置方法の違いを理解することにつながります.そして外来で実践し,絶えず見直しを図っていくことで,より熟達したトリアージナースになるということなのでしょうね.
ただ,これをどのように使用してきたかについての説明には,物足りなさがあります.2008年からの試行として,『看護師の従来の判断で評価した重傷度の色シールを,来院時の問診票の右上片隅に貼り,マニュアルで評価した色シールを右下片隅に貼って比較し』(はじめに*3pp.8-9)ているのですが,このやり方では,看護師の判断の妥当性を調査したいのか,作成したトリアージマニュアルの妥当性を調査したいのかが分かりません.そして,結果の図は,はじめにp.11にありまして,4分類(後述)の割合*4を,看護師の判断とマニュアルに基づくものとで比較し,『看護師の判定の方が低い』『Under triageの可能性』と書いていますが,この図からは,例えば看護師はLevel3と判断したけれどマニュアルではLEVEL2となる,あるいはその逆といった,より細かくして見たときのアンダートリアージとオーバートリアージの度合いについて,知ることができません.
あとは,この本を読んでいない人が持ちそうな質問に,答えてみることにします.
- Q:トリアージって,本当に必要なんですか? A:『ER部門における患者トリアージは,院内の救急診療の第一段階として重要なことは周知です』(はじめにp.8.マニュアルのp.1にも同じ記述があります)なので,当然必要ということです.
- Q:色分けはどうなるんですか? 黒は? A:はじめにp.10によると,赤,橙,黄,緑の4区分*5です.それぞれ,蘇生,緊急,至急,準至急を表します.黒は現れません.災害時のトリアージの黄が,橙と黄の2つに細分化されたと考えればいいと思います.
- Q:必ずその4区分なのですか? A:医療機関・救急診療体制に応じて,3区分,あるいは2区分にすべきだということが,pp.5-7に書かれています.
- Q:精神疾患に対するトリアージは,入っていますか? A:うつ病(pp.140-141),不安(pp.164-165)の項目があります.精神状態の変化(pp.160-161),精神錯乱・混乱(pp.162-163),自殺企図(pp.166-167)もあります.
- Q:院内トリアージ加算については,何か書かれていますか? A:書かれていませんでした.ページ左端に「乳児・小児」がついている理由も,本文中には見当たりませんでした.
- Q:「さくさくトリアージ」って,誰が命名したんですか? 出版社? A:出版社ではなさそうです.はじめにp.10で,用紙を撮影した中に「さくさくトリアージ」の記載があります.運用ルールの中にも記述があるので,これは,2008年からの試行において広尾病院でこの名称が用いられていた可能性が高いです.命名者や経緯については,書かれていません.
- Q:「さくさくトリアージ」なんて本,患者さんの前で開く姿を想像したら,みっともないと思いません? A:この本に限らず,患者さんの前で対応マニュアルを読むなんて姿が,妄想の産物ではないかと思います.ただ,新書版なので本当にポケットに入りますし,書名を隠したければ…強調しますが,「さくさく」というタイトルではなく,マニュアル本であることを隠すためとして…新書用のブックカバーをつければいいのではないでしょうか.
- Q:この本が,病院で広く活用されると思いますか? A:活用の意味によります.この本を医師も看護師も持たせてER外来トリアージ(院内トリアージ),というのはないでしょう.この本を根拠資料の一つとして,別の情報と統合・取捨選択して,診療機関用の院内トリアージの実施基準を定め,定期的に見直しを行うというのが,健全な使い方かなあ.
- Q:おすすめの本ですか? A:まあまあです.トリアージに関する新書としては『とっさの時に人を救えるか―災害救急最前線 (中災防新書 (015))』のほうが勉強になりました.
*1:横書きです.
*2:症状ごとにプロトコルが定められているのかというと,ちょっと違うようです.p.2に解説があり,自分なりに要約すると,「プロトコルは,基本は症状なんだけど,所見や疾患をもとにしたのもある」といったところです.
*3:困ったことに,目次と「はじめに」に関して斜体字で3から12までのページ番号が振られていて,そのあと,マニュアルのページ番号がゴシック体で1から振られています.本日のエントリでは,斜体のほうのページを参照するときは「はじめに」を前につけ,マニュアルのほうは何もつけないことで,区別を図っています.
*4:総数を書くことのできない事情があったのでしょう.
*5:当該ページにはもう一つ,「青:該当なし」というのもありますが,後ろで一切出てこないので,5つではなく4つと考えるべきです.