わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

目的は設定するもの,手段は選択するもの

指導教員からもらった研究テーマを進めているけれども,本当に成果が得られるのか分からないと悩む,研究室の学生さん.
先生の授業を聞いて,自分で手を動かしてみるものの,思うようにいかず途方に暮れる,受講生さん.
私があなたの悩み・苦しみを完全に解消します…なんて豪語するわけにはいきませんが,もし問いかけができるのなら,目的と手段について,きちんと理解していますか,あなた自身十分に納得していますかと,たずねたいのです.
“目的”は,「何ができればいいのか」と言い換えられます.
密接に関係する言葉に,“課題”があります.課題は「何ができてほしい(しかし現実には達成されていない)か」を表します.それを受けて,「何ができればいいのか」を決めるのが,目的の設定となります.
目的の中に,主語は書きません.プログラミングをはじめとする技能については,その習得の主体があなたに決まっているからです.また研究においては,課題を共有するという観点と,誰が実行しても同じ結果にならないといけないという観点から,やはり主語を書かないほうが適切であり,自然なのです.
とはいっても,研究目的を指導教員にチェックしてもらう際や,学習上の/に限らずあなたの悩みを周囲に伝える際には,意見や承認をもらったあとに行動するのはあなたなのですから,じゅうぶんに実行可能なことが分かるようにしておかないといけません.
自分も先生も「大丈夫だ」と納得できるために,必要不可欠なのが,“手段”です.その目的を達成するために(あるいは,その課題に対して),この手段・手法を用いる,という話の流れです.
先生の講義や他の人のゼミ発表を聞いていると,まず課題や目的を設定し,次に,それを解決する手段を説明するというスタイルを,それなりに耳にするかもしれません.しかしこれも「話の流れ」であって,現実には,目的と手段からなる様々な組み合わせを吟味し,コレとコレなら他の人に分かりやすく説明できるだとうと確信を持った上で,最終的に,あなたが耳にするストーリーとなっているのです.
あなたもゼミ発表だとか,レポート提出だとか,プログラム作成だとかをする際には,同じように考えてみてください.まず,解くべき課題は何かを考えます.しかしその問題意識を疑問形のままで表すと,見た人は課題を「放り投げた」ように感じるかもしれませんので,あなたが解決したいのはどこなのかを,明確に能動的に表します.それが,目的です.
次に,その目的のために,最も良い手段を見つけます.見つけるまで,労を惜しむわけにはいきません.プログラミングだったら,解説書を読んだり,動作確認用の既存のサンプルコードを取り寄せて動かしてみたり,自分で小規模なコードを書いたりすることも,必要になるかもしれません*1.研究なら,先行事例としての論文を読んで,自分の研究に適用できるかを考える段階が該当します*2
研究の進捗報告では,「この手法*3を用いる」は「この手法を用いて目的を達成するのが,自分にとって最善だと考えている」と同じ意味になることを,理解しておきましょう.そして口頭では,自分だの最善だのといった主観的語句を使用せずに,「この手法を用いる」型の表現で,話す・聞くことになります.
ところで,手段や手法を決定すると,そこから,目的を見直すほうがよいということもあります.解くことのできる対象を大きくしたり小さくしたりするのが,その典型です.それに応じて,目的の表現を修正するか,掲げた目的はそのままでも,補足説明を追加することになるでしょう.
まとめ:課題はたくさんあります.目下の課題が現在形+疑問文で表せるのに対して,解消できる状態が望ましいと考えて未来形+肯定文で書くのが「目的(の設定)」です.その目的を達成するのに使えそうな手段は,複数考えられますが,その中で最も良いものを選択することが必要不可欠です*4.ということで,「目的は設定するもの,手段は選択するもの」なのです.

きっかけ

どの分類器を使うかというのは難しい問題である.自分で手早く実装する必要があるならばナイーブベイズ分類器がよいだろう.ただし,ナイーブベイズ分類器を工夫して分解性能を少々向上させても,SVMなどに及ばなかったら,その研究の意義について少し考えてみたほうがよい.
(言語処理のための機械学習入門 (自然言語処理シリーズ), p.145)

*1:そういうのを読んだり書いたりせず「この問題に使うのはこれしかないでしょ」とすぐに決められるのは,達人か愚か者のどちらかです.

*2:「適用しない」という結論になっても,自分の書く論文で関連研究として取り上げることがあるかもしれないので,書誌情報や,論文内容のメモを作るのを忘れないように.

*3:手法=手段,とお考えください.実際には,使い分けがあります.

*4:ただし,「利用可能な複数の手段を比較する」というのが「目的」になる場合もあります.