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卒業論文題目 基礎文法最速マスター

卒業論文の題目(標題,タイトル)を決定するまでに,何を考え,どのような表現をとればいいか,まとめてみました.

3つの鉄則

  • これまでの研究室や学科の卒業論文の題目をざっと眺めて,使える名詞やフレーズを見つけましょう.ただし,過去の題目とまったく同じにしてはいけません.
  • 「何に対して(対象)」「何を用いて(手段)」「何をしたか(実施内容)」の3点セットが基本です.実施内容は題目に必須で,対象と手段は,一方または両方を入れましょう.
  • 必ず,指導教員のチェックを受けましょう.

定番表現1(題目末尾の表現)

(a) 〜の構築,〜の開発,〜の試作,〜の提案

「ものづくり」研究なのが明確になります.
例:

(b) 〜の研究,〜に関する研究

卒業研究が学部4年間の学業の集大成であることを,再確認できます.

例:

  • Visual Hullの閲覧時における仮想カメラの制御による見えの改善に関する研究
(c) 〜の評価,〜の性能評価

既存手法などの「評価」が主目的のときに,使用します.
なお「〜の構築」という題目であっても,評価は行います*1.言い換えると,構築で一人,その評価でもう一人という卒論にしてはいけません.
例:

  • Wyner-Ahlswede-Korner符号化問題に対する線形符号に基づく符号化法の性能評価
(d) 〜の検討,〜の提案

手法に主眼を置くとき使用します.
例:

  • 感染型ルーティングにおける位置情報を用いたバッファリング手法の検討
(e) 〜について

「〜に関する研究」とだいたい同じ意味です.
語感や,指導教員の意向によって*2,これが選ばれることもあります.
例:

  • 不完全情報ゲームにおける探索戦略の学習について

定番表現2(題目途中の表現)

(f) 〜を用いた

「〜」は手段・手法になります.
例:

  • 近赤外線画像を用いた夜間の人物検出
  • 遺伝的アルゴリズムを用いた公共スペースにおける照明制御システムに関する研究
(g) 〜における,〜を対象とした

「〜」は研究対象を書くのが一般的です.
別の使い方として,複数人でシステム構築をした場合に,そのシステム名称を記し,「における」のあとに,自分がどこを関わったかを書くこともあります.
例:

  • URL短縮サービスを対象としたKVSとRDBの設計構築比較
  • 漢訳仏典翻刻支援システムにおける文字入力支援方式
(h) 〜のための

目的を明確にするのに使用します.
例:

  • 歩行者移動支援のための街路の明るさを考慮した経路探索手法に関する研究

定番表現3(その他)

(i) 定番表現1(題目末尾の表現)を使用しない

「〜の構築」「〜の研究」といった言葉をつけないほうが,研究内容を明確に表すこともあります.
例:

  • 二重振り子の周期的挙動
  • 携帯アプリケーション向けの高速変形シュミレーション
(j) 主題―副題―

短くやや一般的な主題を置き,ダッシュで挟んで,副題として研究対象または適用手法を明示します.
「主題:副題」という表記は,おすすめしません.のちのち,参考文献に記載されるとき,どこまでが題目なのかが見にくくなるためです*3

(k) 「支援」の有無

工学(ものづくり)研究では,よく,利用者を想定しその人々を支援するためのシステムを作る,という展開になります.
そんなとき,題目として「〜支援システム」とすべきか,それとも支援を書かず「〜システム」とすべきかについて,考えておきたいところです.
「〜支援システム」は,「〜」の部分を実質的に行うのは人間であり,それをシステムが支援するときに,採用します.
一方,支援をつけない「〜システム」は,「〜」の部分を実質的に行うのがシステムであるときです.
例:

  • 食材選択によるオリジナル料理レシピ創出支援システム
  • トラフィック監視によるホスト・サービス単位の境界型組織内ネットワーク防御システムの構築

題目確定までに行うこと

  • 題目を決めるというのは,卒業研究も大詰めの段階になっているはずです.これまでの活動を見直して,「何に対して(対象)」「何を用いて(手段)」「何をしたか(実施内容)」の3つに関係する言葉を,書き出してみてください.この段階では,それらが複数あってもかまいません.いろいろな角度から検討して,一本化すればいいのです.
  • 題目は,長すぎても,短すぎても,何をしたいのかがよく分からなくなります.目で見て音読して,ベストな表現を見つけてください.「の」を入れるか入れないかというのにも,注意を払いましょう.
  • 上で「複数人でシステム構築をした場合」を取り上げましたが,先輩が実施中の研究(修論,学会発表)の題目とも,同じにならないようにもしましょう.先輩とのコミュニケーションを密にするということです.先輩が「〜の構築」のとき,卒論は「〜における…の開発」という形にするのも,よく見られます.
  • 関連研究にも,注意をしたいところです.参考文献に入れるものと完全一致というのも,まずいので,文献調査は直前ではなく早めにしておきたいところです.
  • 一応,題目が書けたのだけど,どうもしっくりこない,というときは,不要なものが潜んでいる可能性があります.案の中から一部を取り除いたものと比較して,よい方を選びましょう.例*4
    • 時間の概念を含む暗号プロトコルにおける公理的安全性検証に関する研究
    • 時間の概念を含む暗号プロトコルにおける安全性検証に関する研究

指導教員の了解をもらう

正解・不正解のほかに,妥当解や,傷のある解というのもあるはずです.いくつかは想定でき,いくつかは実際に表現してはじめて,本人または他人が,その正否あるいは妥当性を検証できるものです.卒業研究は,どこに妥当解を置き,そこを目指して卒業論文完成までどこまで努力できる/したかを,本人と指導教員が確認する作業です.

表現者へ

卒業研究・卒業論文はいうまでもなくあなたのものですが,その完成に至るまでに指導教官のアドバイスを経なければなりません.卒論題目*5もです.
題目提出の期限に注意し,遅くともその2日前に教員に第1案を見てもらいましょう.「教員連絡なし」「事後報告」「連絡したのは提出日」というのは,ハイリスクもいいところです.
すんなりOKという可能性は少ないので,理由を聞いて,時間をとって考え直し,あなたも先生も納得の題目にしましょう.そしてゴールを目指し,論文執筆です!

なぜ提出よりずっと前に決めるか

私の所属する学科では,卒業論文の題目決定は,提出日よりも何週間か前に設定しています.これにはいくつかの理由があります.
一つは単純で,発表会のプログラム編成のためです.時間・発表者氏名・題目がセットになって,メールでやりとりされたり,会場で掲示されたりすることになります.
2番目は,特許関係です.「発明の新規性喪失の例外」*6により,卒論提出・発表(この時点で「公知」になると思ってください)をした後で,その内容を含む特許の出願ができる規定があるためです.
ただ大部分の学生は,その例外を受けるための手続きをすることにはなりません.安全側に倒して運用する,事務手続きのために,題目決定と合わせてこの件の問い合わせもなされると思うのがいいでしょう.
3番目の理由は,言ってみれば提出までの中間チェックです.「研究がきちんと進んでいるか」を指導教員の保証のもと,報告するという意味合いです.「ぜんぜん大学に来ていないが,提出だけはする」というのを防ぐ効果も,あると思います.

題目例の出典

*1:ただし必ずしも,定量的な評価実験を要求するものではありません.

*2:「〜について」がないと,「その対象すべてに渡って研究したの?」というツッコミが入り得ることがあり,それを回避するための「ぼかした表現」とも言えます.私の修士論文題目でも「〜について」を使用していました.

*3:題目を引用符で囲ったり,斜体字にしたりすればいいのですが,自分が目にする範囲でそれらは主流ではありませんので.

*4:自分の博士論文の和訳をもとにしたフィクションです.研究の概略は,学生時代の研究紹介をご覧ください.

*5:修論題目も,指導教員の了承は不可欠なのですが,なぜ本エントリで「卒業論文」に焦点を当てているのかについて,ここに書いておきます.修論だと,2年前の卒論をはじめ,修士研究期間中の学会発表があるはずで,そのつどチェック・検討をする機会があったわけです.その一方,多くの卒研生にとって,自分の論文の題目を決めるのは初めてのことなのです.進学するにせよ就職するにせよ,その題目がずっと残るわけなので,しっかり検討してほしいという願いもあります.

*6:http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/hatumei_reigai.htm