わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

教育思想の分類

日本の教育格差 (岩波新書)

日本の教育格差 (岩波新書)

本書の主題については,あまり関心を持ちませんでした.60年代そしてここ数年の,全国学力テストについて,pp.120-125に簡潔に書かれていますが,上位よりも下位に注目して分析している点は,短いとはいえこの件に関心のある人は読むべきかもしれません.
この本で強く興味を持ったことの一つは,『教育格差を是正する,もちくは教育改革を図る直接の担当は,文部科学省教育委員会,教員を含んだ教育界に属する人々である.そして,最終的な決断は政治の場となる.政策の立案に際して,教育界はどう動けばよいか,といった全体像を後押しする教育思想ないし教育哲学を考えることも重要である.いくつかの教育思想・哲学を論じておこう.』(p.178)から始まる議論です.
まず2009年に出されたある文献をもとに,(A)族議員文部科学省を中心とした規制主義,(B)市場原理を主軸としたネオ・リベラリズム,(C)政治的リベラル・社会民主主義,という3つを挙げ,それぞれ解説しています.ちなみに日教組の勢力は(C)に入ります.
著者はこれをもう少し分けて,(A1)画一的な規制教育,(A2)保守主義教育,(B)ネオ・リベラリズムによる教育,(C1)日教組的な批判勢力による考え,(C2)政治的リベラリズムによる教育,としており,この中で著者は(C2)が重要であると記しています.
著者自身が,その中のどれにコミットするかを書いていませんし,たとえ文科省,議員さん,組合の先生方であっても,こういった分類に押し込められるのは嫌でしょうから,むしろ,三分類にせよ五分類にせよ,それぞれにどのくらい賛意を持っているか,レーダーチャートあたりで表してみるのがいいのかもしれません.
レーダーチャートは冗談として*1,私自身はどうかというと,まず,大学の授業においては,成績評価において画一的であること,また規制的・抑制的であることが不可欠と考えています.とはいえレポート課題についてはある程度自由度を持たせて,いくらでも上を目指せるようにはしています.
情報分野において,教育・政治ほどではないにしても「保守的な考え方」というのは,あると思ったほうがよさそうです.つい最近でも,コマンドライン(CLI)・IDEの論争を目にしました.また,大学でないと学べないことを教えるべきか,研究室で/就活で/就職後に役立つことを教えるべきか,という問いは,保守主義とネオ・リベラリズムの対立に相当するように感じます*2
大学に属していて「批判勢力」は想定できないので,(C1)についてはパス.ただ,組合ではないにしても,大学教育を真剣かつ建設的に考える組織(学協会?)を意識すべきかとは思っています.(C2)に関して,「格差原理」*3というのは,プログラミングにおける底上げ教育に関連があるのかなあと思いつつ,それは公平とは別の話だよなあとも考えます.

*1:冗談ついでに…STREAMが55から上がりません.何やり込めば上がるんだっけ.

*2:「教育なんて二の次,研究第一」「優秀な学生をとってきて,ビシバシ指導する」という考えの大学教員は,ネオ・リベラリズムに共感するのではないでしょうかね.

*3:ロールズは『正義論』のなかで,(略)第二原理は有名な「格差原理」であり,社会で最も恵まれない人の利益を最大にすることを説き,すべての人に公平な機会が与えられるべきだと主張した.』, p.185