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遠山啓エッセンス,2度読み

『遠山啓エッセンス』全7巻を読み終えました.11月末より買い揃え,1回目は普通に,主にバス通勤時に読み,2回目は飛ばし読みで,気になるページで止まって重点的に読むとともに,ページ番号を巻末にメモしました.
自分なりに,分かったことを並べます.

  • まず第一に,以下の記述は撤回です.児童生徒がみずから解けるようになること,ステップアップして学習できるようになることをよく考えながら,指導していることが分かりました.
  • Q: 遠山啓の著書はご存知ですか?

Web上の議論を通じて人物名を知りましたが,読んだことはありません.機会があれば,読んで,印象に残る記述を取り上げたいと思います.
Webでの言及を目にする限り,解くべき対象に意識を集中させている反面,問題を解く人に強い関心が払われているような記述が得られなかった点は,《一連のエントリ》を書く際,意識していました.

「×」から学んだこと
  • もっとも関心があったのは,トランプ配りをかけ算の立式に適用することを,どのような文脈で記述しているのかのですが,結局,現れませんでした.遠山啓氏と強い親交があり,数学教育協議会の委員長を歴任した方々は,遠山啓氏の活動や提案,考えを未来に伝えようとした際に,トランプ配りの乗算への適用は重要でないと判断した,と理解しています.
  • 第5巻のサブタイトルにもなっている「序列主義・競争原理批判」について,現在の教育の言葉でいうと,総括的評価への批判のように思えました.wikipedia:教育評価*1で挙げられている3つの概念,すなわち診断的評価・形成的評価・総括的評価の区別が,遠山氏活躍のころには見られなかったと言えそうです.
  • 式における単位の表記は,《必要なときに使用する派》です.式における「/」付きの単位の使用については,速度計算(第3巻,pp.176-177)で確認しました.直感的に《無頓着派》とは違うように思えます.《自在派》を,きちんと定義しないといけないのでしょうか.

各巻でメモしたページを見直し,後で参照できるよう語句を抜き出してみました.所感や賛否(◎○△?×.左ほど賛意大)をつけているものもあります.
(2月2日追記:いくつかリンクをつけました.)

  • 遠山啓エッセンス〈1〉数学教育の改革
    • 33: 『3を5等分したもの』『現行の指導要領のように,分数を単位分数の加法としてのみ理解しているのでは,先に進むことができない』
    • 43-44: 『日教組テスト』『学力低下』『計算力の低下』『それは計算力の低下という犠牲なしには発達し得なかったものであろうか』 : 特定の問題の正答率のみを例示して「学力・計算力の低下」を言うのは飛躍(今も見られるが)
    • 100-101: 『徒弟教育』 : 水道方式がそう呼ばれたことへの反論
    • 102: 『ワラ人形』 : 藁人形論法,wikipedia:ストローマン
  • 遠山啓エッセンス〈2〉水道方式
    • 9: 『一般法則による計算技術がじゅうぶん身につかないうちにこのように「近道」による計算を奨励することは,一般法則を習得する上で障害が起こるおそれがある』 : s/計算/立式/gとできるか
    • 77: 『1匹あたり2本の足があるとき,その3匹分として2×3を定義する』『×1』『×0』『×小数』『×分数』
    • 156: 『別の道でも答えが出るということを知っていると』『そういうシェーマの威力を水道方式が1つの実例を示した(原文ママ)』
    • 177: 『第一用法 質量÷体積=密度』『第二用法 密度×体積=質量』『第三用法 質量÷密度=体積』
    • 177: 『少なくとも分離量の段階では同じ過程を別の角度から眺めたものと考える柔軟な見方のほうがいい』 : これが,トランプ配りの乗算への適用に最も関連しそうな記述.しかし文章はそのあと,除算の話になる
  • 遠山啓エッセンス〈3〉量の理論
    • 18: 『直接比較-間接比較-個別単位-普遍単位』『4cm+5cm』『4+5にcmをつけただけのものとして,意図も無造作に通り過ごしてしまったものである』
    • 20: 『8コ-5人=3コ』『両方とも極端であって,分離量には名前をつけず,連続量にはつける,という方式が正しいだろう』
    • 36: 『いきなり普遍単位にうつると,2cm+3cmの計算でも,分離量の2+3と全く同一視して5を出して,それにセンチメートルを機械的につけるだけになってしまう』
    • 41: 『連続量の等分除-分離量の等分除-分離量の包含除-連続量の包含除』『分離量の等分除と包含除は,トランプ配りの方法でたがいに移行し合うものとして,理解させておくことが望ましい』『分離量のばあいで 6枚÷3=2枚 6枚÷3枚=2 などと区別させる必要はない』『しかし連続量となると 6m÷3=2m 6m÷3m=2 と区別させたほうがよい』
    • 42-44: 『ただ応用問題の答にだけは,(引用者注:分離量であっても)助数詞をつけさせるとよい』『トランプ配りの方法でも同じ意味になる』『はじめは助数詞をつけないでいって,2年になって…とかの単位をつけさせる』
    • 49-51: 『線密度=重さ÷長さ』『内包量=外延量÷外延量』『重さ=線密度×長さ』『算数教育を通ずる黄金則』
    • 51-52: 『1cmが3gの針金を4cmとる→3×4』『1つが15円のりんごを3つ分とる→15×3』『3×1→1つ分とる→3』『3×0→0個分とる→0』『乗法を累加の発展としてではなく,全く新しい演算として定義する』 : 1つの「つ」は単位? 「個」のsyntax sugarもしくはマクロ?
    • 54: 『表2 速度についての計算練習のための表』『毎時40km』『毎分5km』
    • 55-56: 『70g×0.05=3.5g ではなく,0.05g×70=3.5g』『4g÷0.05g=80』: 単位の扱いが無頓着に見える.前者は0.05(g/cm^3)×70(cm^3)=3.5(g)では?
    • 56-58: 『5ヤールで2000円の服地があるとき,3ヤールではいくらになるか』『帰一法』『2000÷5=400円 400円×3=1200円』 : ヤールが式に現れていない
    • 67-68: 『3mで24DM(マルク)する布地がある.5mではどれほどになるか?』 : 「=の上に^」という記号はTeXで定義されている? \doublebarwedge, \triangleqが近いが,発見できず
    • 69: 『密度×体積=重さ 速度×時間=長さ 単価×分量=価格 とは書くが,体積×密度=重さ 時間×速度=長さ 分量×単価=価格 とは書かないし,それはひどく考えにくいだろう』『第三用法…重さ÷密度=体積 長さ÷速度=時間 価格÷単価=分量 となるが,これは包含除』
    • 71-72: 『率の第二用法』『r(g)×s』『s(g)×r…答はもちろん同じになるが,考え方はひどく異なっている』 : 厳密派ならr(g/g)×s(g)=rs(g)か
    • 83: 『1本15円のエンピツが8本でいくらか…15円×8本 とでもかく子がいると,目に角をたてて一大罪悪でもみつけたようにバツをつける先生がでたりする』『藤沢理論…量の追放』
    • 88-89: 『(左上)分離量の等分除 (右上)連続量の等分除 (左下)分離量の包含除 (右下)連続量の包含除』『なぜなら,数学教育は若干の公理を天下りに仮定してはじめるわけにはいかない.子どもに計算を教えるさいには,どうしてもその計算が実在のどのような法則を範囲しているかを納得させてからはじめなければならない』
    • 149: 『距離÷時間=速度 - 第1用法』『速度×時間=距離 - 第2用法』『距離÷速度=時間 - 第3用法』
    • 153-155: 『密度=\frac{質量}{体積}』『速度=\frac{長さ}{時間}』『\frac{総量}{容量}=内包量(1あたり量)』『いままではウサギが3匹いて,それに耳が2こずつついているとしていたのですが』『2×3のシェーマとしては「1箱に何かが2つずつ入っているものの3箱分」としたほうがわかりやすい』『総量=内包量×容量』『2×0』『0×0』
    • 175-177: 『単位をつけたままかけて,2cm×3cm=6cm^2 とした方がはるかによい』『1km/h=…=\frac{10}{36}m/sec』『たて×よこ=面積』『純粋な数になおすと,(よこの数値)×(たての数値)=(面積の数値) といわねばならないし,それはたいへん厄介である』『VT=(v km/h)×(t h)=(v×t)(km/h×h)=vt km=L』 : 加減算の言及なし.相対速度は例えば (v1 km/h)-(v2 km/h)=(v1-v2)km/h.形式的には,単位を文字とみなせば,分配則で説明できるか
    • 201: 『湿度・絶対湿度・相対湿度』『遠山さんは小学校の算数指導に集中しすぎて,目配りが届かなかったのかも知れない』 : 解説として疑問を呈している.算数指導において湿度を定義すれば解決する?
    • 206-207: 『1c=360°=2πrad』『加速度(m/s^2),これは「メートル毎秒毎秒」と読む.英語のように「メートル毎平方秒」と読むのは誤用である』『密度勾配((km/m^3)/m),これは「キログラム毎立方メートル毎メートル」と読む』
  • 遠山啓エッセンス〈4〉授業とシェーマと教具
    • 1-2: 『答は1つだと思い込んでいますからね』 : 後日検討→採点Q&A
    • 8: 『徳川時代の人口は…3000万のまま増加しなかった』『ひどく沈滞して息苦しい社会だったに相違ありません』 : 昔の人の発想はこうだったのか
    • 72: 『カエルが3匹いたとすると,ヘソは全部でいくつか→0×3=0』 : 3×0=0の説明は見当たらず,0×3と3×0は違う
    • 99: 『凡そ算は問を設るを難とし,術を施す之に次ぐ』
    • 136-138: 『授業を見てから教具の良否をいえ』『風の強い日には窓をしめて授業するという当然の手続きを怠って,その責任をタイルに転嫁しているのである』 : 運用でカバー? 解説を見てから設問の良否をいえ,と言っていいか
    • 164-165: 『頭のなかの映像としてしっかり定着』 : p.165上の図はインパクト大
    • 175: 『(ア)わかって楽しい授業』『(イ)楽しくないがわかる授業』『(ウ)わからないが楽しい授業』『(エ)わからなくて楽しくない授業』 : ハッセ図で表せる.エ→イ→アではなくエ→ウ→アの流れを望む?
  • 遠山啓エッセンス〈5〉序列主義・競争原理批判
    • 53: 『テストはどのような条件のもとに行われるか』『幅広く考えてゆっくり進んでいく…独創的な人間』 : 現時点では×,型・形
    • 57: 『この調査そのものはかなりお粗末なものであったが,ともかく「半分,もしくは半分以上がわかっていない」という結果が出た』 : 待て待て : ?
    • 116-118: 『テストはどのような条件のもとで行われているか』『範囲内』『時間が制限』『満点』『官僚型の人間を養成』
  • 遠山啓エッセンス〈6〉中学・高校の数学教育
    • 7: 『4/12』 : Knuthの本(B3の輪講)では4\12で4 divides 12と定義してた
    • 31-33: 正の数のみで負の数を表現する方法.『理論的(に可能)』と『教育的(に良い方法)』との区別 : ○
    • 39-40: 『理論的にはだめ』『教育的にはなおさらだめ』
    • 51: 『100g+50g=150g』『a+bという文字にまで一般化』 : 単位はどこへ消えた? : ?
    • 70-72: 『(b×c)÷aは三数法』『b×(c÷a)は倍比例』『(b÷a)×cは帰一法(きいつほう)』
    • 77-78: 『単価という内包量』『オームの法則
    • 84-86: 『関数の本質とは』『ブラック・ボックス』 : 図あり
    • 125-126: 『長さや角度を数値化』『x=110°÷2=55°』
    • 136: 『学校教育の本来の目標』 : 総括的評価への批判.wikipedia:教育評価
    • 143: 『高木さん(=高木貞治)』『計算の腕力』 : プログラミング教育にも適用できそう
    • 160-161: 『あれも,これも』『2つの柱』『ディジタル型の整数論とアナログ型の微分積分学』『「量の体系(アナログ型)」と「水道方式(ディジタル型)」』
    • 179-180: 『whyの問題』『whatの問題』『howの問題』 : 作文技術のWhyとHow
    • 180-181: 『1つの問題をとことんまで考える』
  • 遠山啓エッセンス〈7〉数学・文化・人間
    • 53-58: 『数学論の諸問題』『社会的責任』『コンピュータの発展』 : Diffie-HellmanRSA四色定理は,これが書かれるころには未確立
    • 55-56: 『コミット』 : 国民の皆様,アリバイ,コミット
    • 80: 『高木貞治』『類体論』『ヨーロッパの雑誌や本が来なくなりました→むずかしい問題に取り組んでみよう』
    • 150: 『柔道で乱取りをやらせて,教師はわきで見ている』
    • 164-165: 『2時・4時・6時のうちのどれかに○をつけよ』『愚問・迷問・誤問』 : 出題に補足説明(長文などから読み取る)があった?

*1:ブルームという人物名は,記憶があります.….http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20091120/1258666434で取り上げた2冊目を,読み直しますか.