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トランプ配りは教育上有害

検索エンジンなどでお越しの方へ:本記事は古い内容です.「トランプ配り」の最新情報につきましては,以下の記事をご覧ください.

タイトルは煽りです.
「かけ算の順序をめぐる検討」は,また事例が見つかり次第取り上げますが,今後しばらくは時間がとれませんので*1,これまで書こうと思って書けていなかったことを並べておきます.

トランプ配りを改めて確認

言葉では:

どういうことかというと,“皿に順にりんごを配るのをイメージすると”…分かりにくいですか.まずお皿を5枚,用意します(手で大きな丸を5つ描く).次にですね,りんごを,まず1個ずつ,それぞれのお皿に乗せます(描いた「皿」それぞれの上に,小さな丸を描く).2回目(同),3回目(同)と配っていけば.「さらが 5まい」で「1さらに りんごが 3こずつ」という状態になります.ちなみにこれは,皿にりんごを乗せていくと言うより,トランプで,カードを参加者に順に配っていくのを想像するのがいいでしょう.「トランプ配り」と呼ぶ人もいます.

余談で話す

図では:
りんご4

(初出:状況を図にする状況を図にする2
「トランプ配り」の同義語として,「カード配り」「ビン詰め法」を見かけたことがあります.

「トランプ配りは教育上有害」とは

トランプ配りに対する私自身の認識は以下のとおりです.

  • かけ算で式を立てる問題において,トランプ配りを根拠にしても,それが伝わりません.
  • 《別解》により,「1つ分の大きさ」を5,「いくつ分」を3と書くことができます.

《別解》ですが,「しき」として書いた「5×3=15」と,それまでの授業の仕方・問題の解かせ方からは,そのような考え方にはならず,問題文にある5と3を取り出し,単純にかけ算としたと読み取られています.書いた内容から何を考えたかが伝わらなかったので,バツとなったということです.

「×」から学んだこと
  • かけ算の導入において,トランプ配りの考え方は,混乱の元です.これまで目に通した限りの書籍やWeb上の文書で,導入段階で取り入れているそのような事例は見かけませんでした.
  • トランプ配りと明示していませんが,それを適用するのがひどく不自然になるかけ算の出題というのは,把握しています*2
  • わり算の導入において,等分除・包含除の違いを理解するためにトランプ配りを使うのは,有用に思えます.しかしそこでトランプ配りを学習したあとに,かけ算で式を立てる問題に立ち返って適用することについては,依然として伝わらないので,否定的です.
  • トランプ配りで式を立てる子は,創意工夫ができる子だ,とは思いません.ネットや書籍で事例はすぐに見つかるからです.自分で考えつくよりも,周囲から教わった可能性のほうが高いと推測できます*3.ということで,「トランプ配りで立式する子」を取り上げ,その立式の有用性を主張する人は,現在の小学校の算数教育をきちんと理解していないと判断しています.「トランプ配りは教育上有害」というのは,実はここのところです.「トランプ配りは教育の議論をする上で有害かも」とすれば,誤解は減るのかもしれません.
  • トランプ配りで式を立てることができる子は,それが思いつかない子よりも,将来有望です.いったんトランプ配りで式を立て,それが外(おそらく先生)に伝わるか自分でチェックし,採否を判断できる子は,さらに上を行きます.トランプ配りを超えまして,一つの課題に対して複数の解の候補を出し,吟味して一つの解(または解法)を選定するというプロセスをとることができる大人になってほしいと願います.「吟味」という言葉はともかくとして,小学校教育(必ずしも算数ではなく)でもなされているでしょうし,時間的に厳しければ,学校外の大人が協力できるところだと考えます.

cの上

abcdeについては,分かりやすく抽象的に・2010年11月バージョンをご覧ください.これらを使って,また新しい思考過程を思いつきました.

  • c' ≡ 問題文から,dの手順で「しき」に「5×3=15」と書いてから,その正当性を,cの解釈によって確認する.

こうするとc'>c,c'>dは明らかですが,c'と,aやbとの大小関係は出てきませんし,cはバツでもc'はマルになる保証もありません.

2種類の「どうして」

『さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。』という《問い》と,「しき」と「こたえ」を書く欄があって,子どもは「しき」に「5×3=15」,「こたえ」に「15こ」と書いたところ,「こたえ」はマル(正解)だけれど,「しき」のほうがバツ(不正解)で,そばに「3×5=15」と赤で書かれました.

「×」から学んだこと

あなたが親だとして,子どものこのような解答を見て,それが自分の知識では納得できないとき,先生にどう尋ねるでしょうか?
「どうして,バツなのですか?」でしょうか.
「どうして,こういう出題をされたのでしょうか?」と言う人は,いないでしょうか.
もう少し具体化しましょう.
「世の中はこれこれこんなになっていて,これはバツではないのですよ.ご存知ですか? 知らなかったら教える側として恥ずかしくありませんか! 知っていて出すのだったら,卑怯じゃないですか! バツなんですか!」でしょうか.
「私はここでバツがつくことに,納得がいきません.ですが本人が理解していて,今後この種の出題があったときに,どう考えてどう答えにすればいいかを分かっていれば,それが現在の学校教育なのであり,かつてそうは学ばなかった,私としても,学びたいと思います.できればその前後関係といいますか,どのように学習していて,この学習がこれから,どのように役立つか,ご教示いただけませんか」でしょうか*4
「どうして,X?」には,何種類かの意味があります.基本的には理由を聞くために使用しますが,そこから派生して,Xとした経緯を知るための質問とも言えます.whyと言いつつhowを尋ねるようなものです.また別の派生は,反語です.whyを使って,「Xではないのではないか」「Xはおかしい」を言外に含むような発話です.かけ算(の導入)において複数の意味がある*5のと同様に,「どうして」(の発問)にも複数の意味があるわけで,いずれも,その中の一つを「定義」とするのはなかなか困難です*6
教師でない者が,小学校教育のあり方を理解し,またかけ算の順序をめぐる検討をさらに進めるとするとき,どちらを採るべきなのでしょうか.いえ,ここにもまた,複数の問い合わせの候補(「問い合わせないこと」も候補の一つとして)があって,どれを選ぶと自分のためになるか,また先生や子どもにどんな良い・悪い影響を与えることになるかを,考えることができそうです.

かけ算でキャッチボール

算数・数学の問題解決を,野球でボールをキャッチすることに例えてみます.
小学校1年までの,足し算・引き算は,ボールをゆっくり,ころころ転がせて,子どもが手でつかむようなものです.
小学校2年生になり,かけ算を学ぶ際,子どもたちはグローブを持ちます.はじめはよく分からないなりに,先生のお手本をもとに,先生が出す球をなんとかキャッチします.キャッチし損ねたら,やり直しです.キャッチできても,また次のボールキャッチです.取った球をどうするかは考えないようにしましょう,それがたとえ話というものです.もし,気になる人がいれば,小学校教育ではありませんがプログラミングとノックをどうぞ.
その次には,「胸元で捕球する」ことを習熟します.相手(もはや,必ずしも先生ではありません)の球は,グローブを動かさなくても取れる球だけでなく,少々「変動」が出てきます.
そのときに,胸元で取れるようにステップをして全身を動かして捕球する人もいれば,グローブだけを動かして取る人もいるでしょう.
さて話はちょっとだけ,実際の野球の試合に飛びます.外野に大飛球なんてのがあったとき,落下点に行き,危なげなく捕球するのがまあ大部分ですが,ときにはワンハンドキャッチになったり,あるいはダイビングキャッチを成功させてファインプレーだ大拍手だとなったり,ジャンプやダイビングしたもののボールはその横を通り抜け,無情にも転がり続けていることだって,あるでしょう.
キャッチボールに話を戻して,胸元で捕球するよう練習をしているときに,「実践ではそんなええところにばっかり来んねんぞ.体をぐうっと伸ばして取ることも大事や.なんでそんな練習をせえへんねん」と言い出す部外者は…たとえそのキャッチボールをしている子の親であっても…いませんよね.
たとえ話と算数の関連ですが,さすがに「胸元で捕球=かけ算の順序に注意し一方の立式だけを認める,部外者の発言=かけ算の順序はどちらでもよい」という分け方は,無理があります.
無難な解釈はこうでしょう.胸元で捕球することは,学校で基本問題を解くことに対応します.部外者は,基本問題を解くだけでは,例えば中学校入試で太刀打ちできないことを言っています.キャッチボールで,例えば足を固定してグローブをあらゆる方向に伸ばして取るというやり方もありますが,応用問題を多数また繰り返し解いて,ノウハウと自信を持たせるのは,ノックになるのでしょう.練習試合は模擬試験ですかね.

(再掲)検索エンジンなどでお越しの方へ:本記事は古い内容です.「トランプ配り」の最新情報につきましては,以下の記事をご覧ください.

*1:雑記自体は1日1件以上リリースする予定です.字数はうんと減ります.

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110212/1297455518

*3:同日追記:『なお,鍵の生成などで,正当な鍵と1ビットたりとも違わない秘密鍵を別途作るというのは,適切な暗号アルゴリズムを採用するとともに鍵長を十分大きくとることで,その確率を無視できるほどに小さくできる.言い換えると,正当な秘密鍵の所有者以外に,1ビットたりとも違わない秘密鍵があるのなら,その鍵は漏洩されたのである.』,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110406/1302039200

*4:これはずいぶんと慇懃だなあ.もうちょっとフランクにすると,「つけ間違い,ってことはないんですよね?」と聞いて,そうでないことを確認してから「家庭で,我が子(もちろん下の名前に変換)のテストの結果とかやっている宿題を見たりするときは,どんな風に考えたらいいんでしょうか?」と投げて,先生の指導方針を聞くことになるのかな.

*5:『乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる』,小学校学習指導要領解説 算数編(2) p.87.

*6:念のため,Merriam Websterでwhyを引いてみました.意味として3項目,並んでいるのですが,本文で書いたのと異なる割り振りでしたか….