わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

5×3をめぐるお話

第1話

パパが,3人の子どもに言いました.
「おやつの時間だな.みんなで,おいしいのを食べるか」
「わーい!」
「ちょうどチョコレートをもらったところで,仏様のところにお供えしているから,取ってこよう」
「いくつ?」
「そうだなあ…ひとり5個でどうだ.あ,ちょうどいい,かけ算の問題だぞ.5個ずつ3人で,ぜんぶでいくつだ?」
「(声を揃えて)ごさん,じゅうご!!」
「そのとおりだ.だから15個持って来るよ.たしか15個入りだったんだよな…」
 
パパが,チョコレートを持って,そしてママといっしょに,3人のところに戻りました.
「ほらやるぞ」
「わーい!」
「そら.1個目は,いち,にい,さん,パパ,ママ.2個目は,いち,にい,さん,パパ,ママ.そして3個目は,いち,にい,さん,パパ,ママ」
「あれ…?」
「みんな3個ずつあるよな」
「パパ,おかしいよ!」
「どうした」
「さっき,ひとり5個って言ったじゃない!」
「言ってないよ.かけ算の問題だぞ.5人いてて3個ずつで,ぜんぶでいくつだ?」
「(声を揃えて)ごさん,じゅうご!! あれ!?」
「な.うちは5人家族なんだから,5人に3個ずつで,チョコレートはちょうど15個だ.めでたしめでたし.はい,パパの分はごちそうさま.お前らも早く食べろよ」
「パパ,ぜったいおかしいよ〜!!」

第2話

ホテルの支配人が,従業員をつかまえて言いました.
「分かっているよな.今日の披露宴は,うちを懇意にしてくださっている,大事なお客様だ」
「はい」
「新郎の家族は,この一角で有名なりんご農家でもある」
「はあ」
「それで,りんごを預かっていて,いくらかは料理に使うんだが…形が良くて,傷ひとつないものだけを選りすぐって,我がホテルでとびっきりのお皿に盛って,披露宴のテーブルに置いてほしい.あちらさんの願いでもある」
「…」
「それで,その数なんだが…(紙とペンを取り出し,「5×3」と書く)…15個だ」
「すみません,この5×3は…?」
「5枚の皿に,3個ずつ,だ」
「わかりました.他の者と手分けしてやります.その紙をもらってもよろしいでしょうか?」
「お前はまったく敬語ができとらんな.ほら,やるよ.間違えるな」
「(受け取って)あ…すみません.言われてみれば,5枚の皿に3個ずつか,5個ずつ3枚の皿になのか,どっちがどっちか間違えそうです.何とかなりませんか?」
「ふむ,そうだなあ…(紙を取り,書き添えて「皿 5枚×3個 りんご」とする).これで間違えることはないだろう(渡す)」
「かしこまりました」
「最初からそう言えってんだ!」
 
披露宴が始まる15分前.支配人が,自分の部屋でそわそわしているところに,誰かがドアをノックします.
「何だ? 入れ」
「失礼します…」
がらがらと,運び込まれたのは,3つの箱です.
「何だこれは.持って来いとは言ってないぞ」
「あの,先輩から指示されまして,ホテルでとびっきりのお皿を15枚選んで,5枚ずつ,3つの箱に入れなさい,と.これがその指示書きです(「皿 5枚×3個 りんご」と書かれた紙を渡す)」
「これは…私が書いたが,用意しろと言ったのは,15枚の皿ではない! りんご15個だ」
「りんご,ですか? りんごは見当たらなかったのですが…」
「なぜないのだ?」
「わかりません.厨房に,りんごを入れていた箱がちょうど3つありましたので,これにお皿を入れて,支配人のところにお持ちすればいいんだと思いまして…」
「いらんわそんなもん!!」