わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

折り込みチラシに書籍にWebに

学研教室のチラシより

昨日の朝刊の折り込みチラシに,かけ算の問題が入っていました.

「かけられる数(かず) と かける数(2)」と題して,2問とも《BA型》です.

独習・かけ算の順序

かけ算の順序(被乗数と乗数)を手早く再確認したい人向けに,おすすめの本を並べることにします.

1. まず「被乗数と乗数の区別はあって当然」という人も,「かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである」という人も,次の本を購入してください.

田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

pp.62-67に,「被乗数と乗数の区別はあって当然」を前提とした指導法が書かれています.
この本は全体を読む価値があります.アラを見つけるのは,良い心がけだと思います.
よく読んだ上で,次の2つの問いを,考えてみてください.あなたは,この著者のように,小学校で児童の行動を見,発言を聞き,答案を読んでリアクションし,児童に良い影響を与えられるように授業計画などを立ててきたでしょうか? この著者のように,学校の先生方に影響を与えられるでしょうか?
ここが,小学校の教育を理解するための,あなたのスタート地点です.

2. 次は,かけ算の導入段階で現在,何を教えているかについて,確認しておきたいところです.といっても,すぐに学習指導要領というのは,おすすめできません.後にそれを読んで理解することが容易であるのに加えて,複数の著者により,乗法の意味に関する「共通点」と「差違」を知ることができるという点で,次の本を推奨します.

整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)

整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)

第3章が「乗法の意味」です.初出は1978年〜1980年*1ですが,現在の算数指導から大きく変わっているところはありません.なお,ここに該当ページを書きませんが,たし算のところでも,かけ算への応用を見据えた指導例があるので,他の章にも目を通しましょう.

3. 現在の指導はどうなっているかを,知りたくなってくるでしょう.ただ,1に挙げた本を超えるものというのも,なかなか見つけられません.
そこで,問題集に当たってみてください.小学校2年向けの問題集で,かけ算について,どのような問題を出題また配置しているか,見ていくのです.
私自身が購入した中で,出題がいちばん面白かったのは,

ですが,たくさんの本に触れるほうがいいでしょう.なお,問題だけでなく解答・解説も要チェックです.
お節介でなければいいのですが,以下の2点に気をつけてみてくださいね.

《AB型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,A×B=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
《BA型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.

AB型とBA型

出題において,「1つ分の大きさ」が容易に発見できるよう,表記されているか,図だと囲い込みがなされているならば,それを被乗数とした式にしなければならず,その場合,被乗数・乗数を反対に書くのは正解として認められません.一方,特に図から式を立てる際,「1つ分の大きさ」が2つ見出せるときには,交換可能な2つの乗算式をいずれも解答に書くものとします.

過去の誤記に目を閉ざす者は

4.「かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである」という人のための本を1冊.

算数・数学教育つれづれ草

算数・数学教育つれづれ草

pp.46-47です.ちなみに私自身は,当該箇所については(各項目2ページにするという事情があったとはいえ)出典と引用の少なさに不満を,またある引用部に対してはその解釈に大きな疑念を持っています.

5. そろそろ,学習指導要領を読むのがいいでしょう.解説が冊子になっていて,

小学校学習指導要領解説 算数編

小学校学習指導要領解説 算数編

なのですが,私はもっぱらPDFで済ませています.学習指導要領データベースから,過去のを見ることもできます.
全体を読んで,かけ算(乗算,乗法,積)に関係する記述を抜き出し,分析しましょう.

6. 「かけ算の順序」と密接に関係するのは,遠山啓(とおやま ひらく)氏です.メソッドは「トランプ配り」,団体名は「数学教育協議会(数教協)」です(ただし,数学教育協議会自体が,トランプ配りや,「かけ算の式の順序にこだわって(以下略)」という主張を積極的にしているというわけではありません).
数学教育協議会の関係者が著した,乗法の意味や式の書き方に関する本は,1冊読んでおきたいところです.私が持っている中では,次の本が,最もよくその特徴(累加と別の演算,被乗数は1あたり量*2,式の各数値に単位を付与)をあらわしていると思います.

かけ算とわり算 (算数の本質がわかる授業)

かけ算とわり算 (算数の本質がわかる授業)

7. かけ算から離れて,別の視点で,教育のことを考えることにします.
「マルかバツか」は,教育の評価に関することです.もちろん1問だけではなく,1回の試験で様々な問題を解かせるわけですし,その出題をするにも,理由もしくは題意というのがあるはずです.そういったことを含め,

教育評価 (有斐閣双書)

教育評価 (有斐閣双書)

は,教育活動の土台の一つを理解するために役に立つ本だと思います.
私自身,1回目に読み通したときは「書いてあること(字句)は分かるが,何が書かれてあるか(内容)はよく分からない」状態でした.ですが,かけ算で式を立てられるようにするため,児童にいつ何をどのように学ばせるかという観点で読み直したところ,実にすっきりと,頭の中に入ってきたのでした.
この本からは,「診断的評価・形成的評価・総括的評価」の違いと連携を知ることができます.それだけでなく,これらの3種類の評価(本の中にはもっと書かれていますが)が海外から輸入され,国内で活用されるより前の,日本の教育界は,どんな状態だったかについても,思いを馳せることができるようになるでしょう.

8. 私がガイドできるのはここまでです.あとはご自身の関心で,多くの本やWeb上の情報に接し,取り上げてください.
こちらへのトラックバックは,とくに要りません.素晴らしい紹介をされていたら,Google経由で見つけて,本を買うなりしますので.

またも訂正,というか撤回

ということでいま,次のような仮説を立てています.文科省で,かけ算の順序について指導していないという方針は,《AB型》に正しく答えられるようになればよいのであって,《BA型》が解けることは要請していない,という意味なのではないかと.

「どちらでもいい」は書く人ではなく書いてもらう人が言うこと

この件,予想もしていなかったところに反例を見つけました(太字は引用者):

乗法の計算には,乗数や被乗数が人数や個数などの簡単な場合がある。また,例えば,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」などのような場合にも用いることができる。さらに,除法の逆としての乗法の問題,例えば「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」のような場合にも,乗法が用いられることを理解できるようにする。乗法が用いられる場面を判断し,適切に用いることができるよう指導することが大切である。
(小学校学習指導要領解説 算数 p.107)

かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである・読み直し

…「長い間議論されているというのに,そのまとめページまとめサイトがない*2」…
*2:同日追記:かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきであるを挙げないといけませんでした.つい先日,復活しているのに気づきましたので,今後の充実を期待しつつリンク.

http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110504/1304456351

読み直しました.
それで,そこの文章は,これまでの数学教育(小学校の算数)における議論や実践を踏まえていない上に,その分野への貢献も期待できないことを,確認しました.
全体を通して,気になった点を書いておきます.まず,児童が何を学んだ状態で,かけ算を学習しているのかへの言及がないことです.言い換えると,かけ算の解釈が「大人モード」であり,学習者に配慮されていないように見えるのです.
A26に多数の解釈があり,現在の小学校の算数ではそのいくつかが認められないのは一旦置くとして,すべてを,というよりその中の(2-1)と(2-2)が「正しい考え方」だとすると,冒頭の問題の正解として「6×4=24なのか,4×6=24なのか,6×4=24と4×6=24の両方を書かないといけないのか」という疑問が発生します.このとき,「どれでもいいんだよ」という指導で,児童がきちんと分かってくれる*3ようには思えません.
2番目は,氏のスタンスでいくと,例えばお菓子を配るときに,5×3という式に対して「5個ずつ3人に」と「5人に3個ずつ」の解釈ができてしまう点です*4.より一般的に言うと,何らかのセッティングのもとで記述された乗算式について,そのあらわすものが,一貫性を持たないという問題です.
これに対して,「5×3」というたった3つの記号で書くのだから伝わらないというのが,どうも氏の考え方のようです.ではどうするか…「何個ずつ何人に」をきちんと紙に書くとか,ICレコーダに記録するだとかいった方法は思い浮かびますが,高コストです.そうではなく,×の左を一人あたりの個数,右を人数という同意を取っておけば,「5人に3こずつ」という勝手な解釈が低コストで防止できます.被乗数と乗数の区別を付けることは,その種の同意をスムーズに得るための下地となります.
最後に,学習指導要領解説・同解説の扱いが絶望的です.例えば,『掛け算の順序は「一つ分の大きさ」×「幾つ分」の順に必ず書かなければいけないとは書かれていない』(A6)や,解説p.81のアレイ図の意図に対して,立式の論理と計算の便宜 (3×5≠5×3問題)が分かりやすい反論になっています.
そこの『被乗数と乗数を自分で定義するタイプの問題』『問題文中に1列あたりの点の数を被乗数とすることが明記されていれば』に相当する箇所については,私も,過去の誤記に目を閉ざす者はの最初のところで図示と説明を試みました.
なお,私自身の学習指導要領解説・同解説の読み込みについては,学習指導要領で,かけ算をどのように意味づけているか乗法の意味,情報の価値で行っています.

分類変更

「×」を基点に書いたことの分類名を少し変更しました.

  • 「乗算式における順序」を「被乗数と乗数(旧:乗算式における順序)」に書き換えました.乗法の意味,情報の価値で自身,書いたことが影響しています.
  • 「作問・正誤判定・指導」を「出題(旧:作問)・正誤判定・指導」に書き換えました.「作問」を,学校の先生や試験の出題者ではなく,子どもが行うというのを,Webや書籍で頻繁に目にするようになったためです*5

 
(同日,「紆余曲折」よりタイトル変更しました.)

*1:少々古いものに対しては,その当時や前後の出来事を知るのも重要です.かけ算の順序について朝日新聞紙上で賑わい,遠山氏がどちらでもよいという趣旨を含む論考を出したのは1972年で,上記の本にはこの出来事は一切取り上げられていません.しかしそれよりも古い,1969年(昭和44年)の学力調査をもとに,議論を進めている論説が見られます.

*2:学習指導要領や上記2に挙げた本に基づく,スタンダードな理解では,被乗数を「1つ分の大きさ」とすることから始まります.

*3:「複数考えられる,正しい考え方の中から,一つを選ぶ」のと「該当するすべてを書く」のをどのように区別するか,です.複数の答えを書かせる出題例は,過去の誤記に目を閉ざす者はで挙げています.

*4:15こあればいい,じゃあないんだよね, 5×3をめぐるお話 第1話

*5:例えばWebでは,http://www.shinko-keirin.co.jp/sansu/WebHelp/html/page/10/10_10.htm