0. おことわり(6月7日追加)
当雑記では,書籍『かけ算には順序があるのか』を批判する記述を多く入れています.
可能な限りそれぞれに根拠を入れるよう努めていますが,いくつかの関連する書籍を読んだ上での判断というのが,背景にあります(書籍から学んだ,かけ算の順序をご覧ください).
加えて,この本の著者と思われる方が,かつて,当雑記のエントリにコメントを書かれたこと,またその内容も,一因となっています.
これらをご了承の上で,ご覧いただけると幸いです.
1. 「俺数教協」って何?
「俺数教協」とは,自分の数学教育協議会に対する理解,イメージのことをいいます.
ここでの「俺」は,プログラミングで,例えばstrcpyと同等の関数をmy_strcpyとして定義するときの,「my_」に相当します.「俺なになに」を,その場限りの,ある意味を持った単語として,あとで使用しています.
本当にしたいことは,私自身がその理解やイメージを脱して,より広く数学や数学教育を理解し,趣味としてブログで書いていけるようにすることです.「脱・俺数教協」と言ってもいいのかもしれません.ただし「脱数教協」ではありませんし,そもそも会員ではありません.
2. Re: 『かけ算には順序があるのか』を読んだ
要約するのを忘れていました.第一章のみです.
- 「かけ算には順序があるのか」という問題設定を行い,「1あたり量×いくら分」による積の表記に関して,これを「いくら分×1あたり量」と表記してもよいこと,したがって順序には意味がないことを示した.
その上で,気になったところを手短に書いておきます.
3. 論文解説
あとの話の前振りとして,次の論文の解説をすることにします.
(略)また,私自身,数学者ではありませんが,数学的枠組みによる対象の記述(形式化)については苦にしておらず,情報分野で査読付きの論文も書いています.関心のある方は "Security Verification of Real-Time Cryptographic Protocols Using a Rewriting Approach" (IEICE Transactions on Information and Systems, Vol.E81-D, No.4, pp.355-363, April 1998.)をご覧ください.
『かけ算には順序があるのか』を読んだ - わさっき
セキュリティの理論的検証を行っています.ある種の暗号通信(暗号プロトコルといいます)では,タイムスタンプと呼ばれる時刻情報を,やりとりするメッセージの中に組み込み,それを参照して「このメッセージはまあ問題なさそう」「このタイムスタンプは古いぞ.過去のメッセージを使った,リプレイ攻撃じゃないのか?」なんて判定するのに使います.このような,時間の概念を含む暗号プロトコルに対して,従来の(時間の概念を十分に考慮していなかった)暗号プロトコルの安全性検証法を拡張して,対象を記述し,安全性を判定する枠組を提案しているのが,上記論文です.
時間の概念を十分に考慮していなかったとき,対称暗号の暗号化と復号の関係,すなわち「ある平文をある鍵で暗号化して暗号文を作り,それを,暗号化と同じ鍵で復号すると,元の平文が得られる」という性質は,次のような書換え規則で記述できます.
d(x,e(x,y))→y
ここでxが鍵,yが平文に対応する変数で,eは暗号化,dは復号を表す関数記号です.
さてここに時間の概念をどう取り入れるかですが,まず鍵や平文,暗号文といった,それぞれの情報に,時刻を付与し,「時刻付き情報」という種類の項を用意します.
例えばk@0やe(k,m)@50のように表記します.ここで0や50が時刻に対応します.時刻は0以上の整数とします*1.より厳密には,wikipedia:ペアノの公理に注意すると,各時刻は一階の項として表せます.@の左の部分は,時間の概念がない話での情報で,こちらも一階の項です.
@を,情報と時刻を結び付けるための2引数関数で,中間記法をとったものだとすると*2,時刻付き情報は一階の項として表現できます.
時間の概念を考慮した場合,対称暗号の暗号化と復号の関係は,次の書換え規則であらわせます.
D(x@t, e(x,y)@t)→y@(t+α)
ここでxが鍵,yが平文,tが時刻に対応する変数で,eは上と同じ暗号化関数ですが,Dは復号の操作を表す関数です.eとDの違いは,eは(時刻なしの)2つの情報を引数にとるのに対し,Dは2つの時刻付き情報を引数にとることによります.
αは,この規則(復号の操作)に依存して定める定数とします.そのため,t+αは変数を含む項であり,具体的には,tに時刻の経過を表す1引数関数をα回施してできる項の簡略表現と言えます.これにより,操作をして新たな情報を作ると,αという時間的コストがかかるというのを記述できます.
Dの中に,変数tが2回出現しています.ともに「@t」となっています.これは,複数の情報に対して操作をするとき,その情報は同じ時刻に存在することを要請しています.形式的には,k@0とe(k,m)@50の2つから,D(k@0,e(k,m)@50)としても,上の規則が適用できず,復号ができません.
そこで,情報の保持に関する規則
Hold(x@t)→x@(t+1)
を追加します.そうすると,
Hold(Hold(…k@0…))⇒…⇒k@50
が得られ,それにより
D(k@50,e(k,m)@50)⇒m@(50+α)
とすることができます.なお,「→」は規則に関する両辺の関係,「⇒」は規則を適用して得られる(時刻付き情報間,または時刻のない情報間の)関係を表す記号です.
論文のもう一つの成果は,時間の概念の取扱いが十分でなかった他のアプローチ(拡張元ではなく,様相論理に基づくまったく別の枠組です)では,安全であると結論づけられていた暗号プロトコルに対して,上の枠組を使って対象を記述し検討してみると,攻撃方法が存在する,すなわちそれが安全でないと示したことです.
4. 『かけ算には順序があるのか』に適用すると
なんで前回と今回,あの論文を提示したのかというと,その形式化から,次の対応付けを想起したからです.
- 情報…数
- 時刻…次元(単位)
- 時刻付き情報…量
もう少し具体化します.数の集合としてはとりあえず,実数全体の集合Rを念頭に置くことにします.(可換な)体なので,乗法の可換性を満たします.
「次元(単位)」をこれからは「単位」と書くことにして,次に,単位の集合を決め…たいのですが,ここの決定は容易ではないので,「/ (per)」を持つ単位を含め,実際的な問題を解くのに必要なものからなると,仮置きしておきます.無次元量も,表現できるものとします.
そうしたとき,数と単位の2字組を一つの量とみなすことができます.以後これを「俺量」と呼ぶことにします.例えば「(4, 個/人)」「(6, 人)」と書けます.これまた実用的な表記と呼べませんので,数と単位の2字組であることに留意しつつ,それぞれ「4個/人」「6人」と記すこととします.なぜ「俺量」という名称にしたかというと,数学教育協議会でよく検討されてきた量の体系や,学習指導要領で書かれている量の概念とは,いちおう別のものだからです.
こうして議論の対象となるもの,ここでは俺量,を定めたとき,気になるのは,俺量において乗法の可換性(交換法則)を満たすのかどうかです.
前回の件を修正した形で,この問いに対する答えを言うと,「俺量間において乗法の可換性を満たすように,乗法を定義できるし,満たさないように,乗法を定義することもできる」ということです.このとき,俺量間で乗法の交換法則を満たすような構造が,『かけ算には順序があるのか』でいう『「1あたり量×いくら分」でも「いくら分×1あたり量」でもどっちでもいい』(p.39小見出し)状態であり,俺量間で乗法の交換法則を満たさないような構造が,現在の小学校教育です.
交換法則を満たさないというのは,「1あたり量a×いくら分b≠いくら分b×1あたり量a」を直ちには意味しません.というのも,その右側の「いくら分b×1あたり量a」が,俺量を対象とした乗法の式として,認められていないよう,構造を定義すればいいからです.このとき,「1あたり量a×いくら分b=いくら分b×1あたり量a」も「1あたり量a×いくら分b≠いくら分b×1あたり量a」も示せないのです.これはその構造の欠陥というのではなく,「いくら分b×1あたり量a」は,=という同値関係*3の対象にならないというだけのことです.
また,a=(a_数, a_単位), b=(b_数, b_単位)と表記すると,「(a_数, a_単位)×(b_数, b_単位)=(b_数, a_単位)×(a_数, b_単位)」という関係が成り立ちます.ここから「4個/人×6人=6個/人×4人」「4km/時×3時間=3km/時×4時間」という等式を示すことができます.『かけ算には順序があるのか』p.39では,これらの=が≠となっていますが,これはすぐ上の,『(B) 1あたり量a×いくら分b≠1あたり量b×いくら分a』において,右辺のaとbが単位を含めてどんな量を表しているかについて,十分な注意が払われていなかったためと推測しています.
それで,2種類挙げた構造が具体的にどうなっているかについて,関心をお持ちの人もいるかと思いますが,ここはペンディングとしたいと思います.単位の集合の検討もしておきたいのと,そもそもそこまで数学教育協議会スタイルの式を検討する意義があるのかについて,再確認が必要だからからです.ただ,分かっていることをいくつか書くと,
- 現在の小学校教育に対応する構造の中では,「3km/(km/時)」を俺量としません.「時速1kmで3km歩くとどれだけかかるか」は「3km÷1km/時間=3時間」とするように,除算を定めることになります.
- 数を対象とした交換法則のほか,結合法則,分配法則が,俺量でどうなるかですが,おそらく,俺量を対象とした加減乗除を定めたあとに,俺量に関するwell-formedな式に対して,その値は,式の数の部分と単位の部分を別々に処理し,最後に数と単位をくっつけて得られる俺量と等しいことを,定理として示すことになります.そうすれば,計算では,数(実数全体の集合R,有理数全体の集合のQ,または小学校の算数で必要となる数*4全体の集合)における諸性質が利用できるわけです.
- 面積や体積を対象とした乗法・除法は,その単位の表記に注意すると,「1あたり量×いくら分」とは別に(とはいえ同じ記号「×」「÷」を用いて)定義することになります.より一般かつインフォーマルには,「これ(ただしこれこれのとき)を式として認める」のリストにより,加減乗除を定めることになります.
それでも,「俺量間で乗法の交換法則を満たすような構造」と「俺量間で乗法の交換法則を満さないような構造」のいずれが,小学校教育において適当であるかを,議論することはできそうです.
このためには,得失の比較を行っていくことになるのでしょう.俺量間で乗法の交換法則を満たすような構造…『「1あたり量×いくら分」でも「いくら分×1あたり量」でもどっちでもいい』を提唱・支持する人々の意見を探ってみたいものです.その運用で,児童が出題ごとに適用可能なもの(公式,手法など)を選択し,対象を式に表し,計算して答えを得る*5という問題解決の手順に,本当に有用であるのか,俺量間で乗法の交換法則を満たさないような構造と比べてメリットがありデメリットよりも大きいと言えるのかを.
5. 専門家でなければ本を出してはいけないの?
「専門家」という言葉を持ち出したのには,背景があります.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20070925/1190668055です.その中でも以下の箇所です.
戸田忠雄氏の新書 - わさっき(コメントより)
「ダメ教師」の見分け方(ちくま新書)戸田忠雄 - 教育ニュースへのツッコミ
まず根本は、戸田氏が高校の教員畑で過ごし、それをベースに公立小中学校を論じているという不整合がある。
6. あなたの主張が本にできないからやっかんでいるの?
実のところ,当雑記のエントリを整理して本にすることを,望む人もいないでしょうし,商業的なメリットも,社会へのインパクトも,ないでしょう.
それでも,かけ算の順序をめぐる論争を出版するのなら,数学教育の専門家のチェック,言い換えると監修が,不可欠だという意識は変わりません.かつて論争の先にはで,そういったことを検討したことがあります.
7. くだらない(旧・休憩)
「みんな,『×で書かれているものを見つける』という宿題,やってきたかな?」*6
「はーい!」「はーい!」
「よしじゃあ,誰を当てようかな…」
「先生,ボク,ボク!」
「よし分かった,ヤスユキくん,黒板に書いてくれるかな」
「はーい」
Crazy×12-3=me
「えー,なにそれー!!」
「くれぇいじかけっじゅうに♪まぁいなさんいずみ♪」
「歌ってるー!」「かっこいー!」
「先生,知ってた?」
「…だぁれすきになろうと♪いいじゃない♪あたしの勝手よ,くぅだらない♪ って続くんだっけ」
「なあんだ,先生,知ってたのか…」
もちろんフィクションです.
8. 脱俺数教協・はじめに
さて,『かけ算には順序があるのか』では,数学教育協議会の考え方があちこちで使用されています.私もかつて,『遠山啓エッセンス』を皮切りに,この団体の方が関わる本をいくつか読み,少々は批判しつつも,理解を深めていきました.
その後,学習指導要領解説を読み直し,書店や図書館で様々な本に目を通していくうちに,どうやらその考え方のいくつかは,現在の小学校の算数教育では,控えめに言ってマイナーであることに気づきました.
以下,その理解し取り入れてきたことに対する「除染」を試みます.なお,震災でしばしば取り上げられるようになった「除染」という言葉について,
じょ‐せん〔ヂヨ‐〕【除染】
除染(じょせん)の意味 - goo国語辞書
[名](スル)施設や機器・着衣などが放射性物質や有害化学物質などによって汚染された際に、薬品などを使ってそれを取り除くこと。「―剤を噴霧する」「―シャワーを浴びる」
とあるとおり,その対象は放射性物質のみではありません.またプログラマとしては,セキュリティ上そのままある用途に使うわけにいかない情報を,プログラマの責任で,使えるようにするという処理,Rubyではuntaintメソッドを連想します.それでも,ここで「除染」という言葉を見かけた方が,不快な思いをされたとしたら,申し訳なく思います.
9. 『かけ算には順序があるのか』に見られる,数学教育協議会の考え方
以下,『』のあとのコロン以降は所感です.
- p.5: 『分離量』:Wikipedia:量を見ると,「…離散量または分離量と呼ばれる」とあります.私自身も大学生のとき,「連続量」に対するものとして「離散量」と教わりました.
- p.9: 『これが,当時東京工業大学教授だった遠山啓が中心となって1950年代初めに設立された数学教育協議会(数教協)が,かけ算を「累加」として教えることを批判して,「1あたり量のいくら分」として教えるべきだと論陣を張ったときの論点の1つでした.』
- p.14: 『数学教育協議会を率いて,日本の算数・数学教育に絶大な影響力を与えていた遠山啓の意見は,…』
- p.14: 『「かけ算は“1あたり”から“いくつ分”を求める計算と定義することを主張します(略)現在の教科書の教え方は,当時の遠山啓の主張に沿うものに変わってきたことがわかります.』:「“いくつ分”」はちょっと紛らわしいですが,乗数のほうではなく積を指します.現在の教え方は,計算については累加のはずです.乗法が用いられる場面として,「一つ分の大きさ」「幾つ分」に関する数を見つけて,「4×6」といった式で表すことになりますが,それ単体から「=24」は引き出せません.
- p.16: 『6個/回×4回というトランプ式配り方』:式に単位を付けて書き,また「/」が出現する,本書で(p.15の引用を除く)最初の出現箇所です.
- p.33: 『(ここまでは「1つ分の数」×「いくつ分」という言い方を主にしてきましたが,ここからは,一般的な「1あたり量」×「いくら分」という言い方を主にしていきます.)』:学習指導要領解説では,1つ分の数→一つ分の大きさ(p.87),いくつ分→幾つ分(同),1あたり量→基準にする大きさ(p.166),いくら分→割合(同).
- p.41: 『2つの図が意味しているところを式に書けば,4人/行×3行=3人/列×4列』
- p.46: 『数教協では,「現実(事物)の世界」と「数の世界」とをつなぐものとして「量の世界」を考えています.物 → 量 → 数 です.…』
10. 数学教育協議会スタイルのかけ算の導入
数学教育協議会の関係者が著した,乗法の意味や式の書き方に関する本は,1冊読んでおきたいところです.私が持っている中では,次の本が,最もよくその特徴(累加と別の演算,被乗数は1あたり量*2,式の各数値に単位を付与)をあらわしていると思います.
*2:学習指導要領や上記2に挙げた本に基づく,スタンダードな理解では,被乗数を「1つ分の大きさ」とすることから始まります.
折り込みチラシに書籍にWebに
11. その問題点
大きく2点,あります.累加への批判と,「/」の使用です.
1. 累加が良くない理由が,古くさいように思います.一つ,引用します.
同数累加は数のことしか視野になく,かけ算という新しい演算を学ぶ意義が認められません.日本の教科書もかつてはこの方針を取っていましたが,「2を3回たす」と勘違いして「2×1=4,2×0を2」という間違いが絶えませんでした.それにこれでは,「×小数」「×分数」になると通用しなくなり,定義し直さなくてはなりません.
(『かけ算とわり算 (算数の本質がわかる授業)』, p.8)
それぞれの文に対して,ツッコミを入れます.同数累加をベースとしているのは,それまで足し算に習熟しており,ある総数を求めるには足し算でもできるけれど表記するのが大変で,「簡潔な表現として」乗法を導入しているためと考えられます.逆に言うと,新しいものを取り入れるといっても,過去に行ってきたこととの比較が必要です.
2番目について,近年の指導ではおそらく解消されています.これも想像するに,導入や,場面と図と式(積の形,累加の形)と口述について,教え方のノウハウができているのでしょう.ここも逆に言うとになるのですが,間違いが絶えなかったのは過去の事例であり,学習指導要領,教科書や指導書や問題集,先生方の教え方が変わっていることに,追随してなさそうです.
3番目の,小数や分数を乗数とした積については,現在(おそらく過去も),それらを用いてかけ算で表せるような場面から入っています.「いくつ分」が整数から小数や分数になる際,「いくつ分」の意味もしくは対象を拡張するという作業(コスト)は,やはり必要になるのではないでしょうか.
2. 数学教育協議会のスタイルでは,「/」を,乗算の導入すなわち小学2年生から使用しています.
はたしてこの単位表記,またそこで表される量について,児童がきちんと理解しているのでしょうか.これは私の単なる思いつきではなく,『第一に「1当たり量」の必要性が果たして理解され得るものかどうか』(乗法の意味,情報の価値より孫引き)のように,1970年代にすでに批判の対象となっていました.
また別に,困った点があります.理解・習熟のためには適切な問題集(ドリル)が不可欠ですが,「/」を用いたかけ算立式の問題集は,見かけません.
そうなると,学習の際に,どこかでコストをかける必要があります.一番低コストに思えるのは,市販の問題集を使いながら,答えを書くときは「/」をはじめ,式にあらわれる数に単位を添えることですが,それが正しいことのチェックは,先生がするにせよ,子どもの親がするにせよ,十分にできない可能性が出てきます.等分除・包含除で単位を含む式はどうも確立されているようですが,「1あたり」の部分を付けたり取り除いたりする処理*7は,スムーズにできるのでしょうか.
あと,斜線の「/」が数字の「1」と間違えられないか,というのもあります.「この懐中電灯,手回し式になっていて,1分間回せば2時間持つんやで」「ほな,2分間回してたら4時間,3分やったら6時間持つんかいな」「それはどうかなあ」という会話を考えてみます.質問した人の頭には,「2時間/分×2分=4時間」「2時間/分×3分=6時間」があるわけです.それを手書きにしたとき,「2時間1分」と誤解されないませんかね.
12. Re: 乗法の意味
乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。
(小学校学習指導要領解説 算数編, p.87)
これをもとに,『プリンが3個ずつ入ったパックが4パックあります。プリンは全部で幾つありますか。』(p.99)の問題を解くと,
- 数学教育協議会のスタイルでは,3個/パック×4パック=12個
- サンドイッチでは,3個×4=12個
- 《無記載派》では3×4=12
となります.学習指導要領解説では《無記載派》で表記されていますが,そう表記するよう指示しているというよりは,直前に「例えば」があることからあくまで式の書き方の一つであり,教科書なり学校教育なりで統一がとれるのなら,数教協式でもサンドイッチでもよい,と考えることができます.
『一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める』のも,
- 数学教育協議会のスタイルでは,一つ分の大きさ(「/」を含む単位付き)×幾つ分(単位付き)=幾つ分かに当たる大きさ(単位付き,一つ分の大きさとも幾つ分とも異なる)
- サンドイッチでは,一つ分の大きさ(単位付き)×幾つ分(単位なし)=幾つ分かに当たる大きさ(単位付き,一つ分の大きさと同じ)
- 《無記載派》では,一つ分の大きさ(単位なし)×幾つ分(単位なし)=幾つ分かに当たる大きさ(単位なし)
と書き分けることができます.
これらには一長一短があり,この点に注意して,ネットで論陣を張るなり,家庭で子どもの指導をする際に注意していけばいいようです.
本日の除染作業はここまで.
(6月8日にあちこち書き換えました.某年月日,「代数的構造」を「構造」に置換しました.)
*1:時間の開始すなわちepochを仮定する,とも言います.
*2:一般的には「@(k,0)」や「@(e(k,m),50)」のように書くべきところを,読みやすさのため「k@0」「e(k,m)@50」と表記する,ということです.
*4:小数を分数と別表記と見なしますし,帯分数も出てきますので.
*5:先生や採点者など,解答者・解決者以外が参照する点にも,注意を払いたいものです.
*6:6月11日追記:「どちらでもいい」は書く人ではなく書いてもらう人が言うこと「本棚」の最初も合わせてどうぞ.
*7:例えば,1993年の「かけ算とわり算」指導法で挙げた『138個÷3=61個』のような式を書き,計算をすること