ポートフォリオが日本の大学を変える―ティーチング/ラーニング/アカデミック・ポートフォリオの活用
- 作者: 土持ゲーリー法一
- 出版社/メーカー: 東信堂
- 発売日: 2011/06/01
- メディア: 単行本
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クイーンズランド大学での,教員の等級分け
クイーンズランド大学は,オーストラリア国内はもちろん,世界的に見ても,アカデミック・ポートフォリオの作成と活用を積極的に進めている大学のようです.フォリオ*1は9つに細分化されています(pp.111-113).
しかしそれよりもびっくりさせられたのは,教員の等級分けと種別化です.p.106によると,種別には「研究専念教員」「教育・研究担当教員」「教育重点教員」があります.「教育・研究担当教員」が最も多いとのこと.次に等級ですが,『Aレベルは講師以下,Bレベルは講師,Cレベルは上級講師,Dレベルは准教授,Eレベルは教授』(同)です.各レベルの人数分布は分かりませんが,おそらく上のレベルほど人数が少ないのでしょう.
種別ごとの等級の基準,あるいは『教員の業績に対する期待度』(p.113)は,p.114以降に記載(著者が和訳)してあります.私自身は3つの種別の中で「教育・研究担当教員」に当たるだろうと思っていますので,今後のため,その5つの等級を,書き出しました(pp.114-115).
Aレベル(講師以下)
学生に学習成果や調査において教育資質があり,フィードバックにおいて向上や改善があった.研究・創造活動において一貫して研究プログラムを開発し,研究グループで働き,外部資金を申請し,学問分野の実践で同僚と協力して優れた成果を発表した.社会貢献活動における役割分担において効果的なパフォーマンスをし,アカデミックや社会貢献活動における責任を分担し,教育委員会に貢献し,学問分野やコミュニティに貢献した.
Bレベル(講師)
Aレベルの要求に加えて,以下のことが求められる.
学部学生,優秀学生,大学レベルの教育に貢献し,その準備やコースモジュールの責任を取り,一つ以上のコースにおいて調整した.研究・創造活動において優れた発表に関する出版や展示の記録があった.この分野において全国的に認められた業績があり,外部研究資金,とくに該当学問分野の競争資金申請の調査委員において経験豊かな研究者と一緒に重要な役割を担った.社会貢献活動において専門分野/学部レベルの責任部門において能力を発揮し,職業と地域社会に積極的に貢献した.
Cレベル(上級講師)
Bレベルの要求に加えて,以下のことが求められる.
教育において多様な教育能力を発揮し,カリキュラム,教育資源や方法で継続的な改善に努めた.研究・創造活動において独立した研究能力を発揮し,新たな洞察力や機会の主要な調査者(協力者を含む)として貢献し,外部研究資金の獲得および管理において優れた.優れた発表の出版や展示を通してフィールド研究において全国的評価と国際的プロファイルを収めた.学問分野,学部や大学レベルの高水準サービス任務で効果的な業務を遂行した.より広い地域社会とともに職業・学問分野,そして関連活動で著しい貢献があった.
Dレベル(准教授)
Cレベルの要求に加えて,以下のことが求められる.
すべてのレベルの教育において優れた業績記録を維持し,多くの国際的分野およびアカデミック・プログラムを主導した.研究・創造活動において国際的に承認された発表の出版や展示を通して,品質と影響力ある国際的な評判を獲得し,外部研究資金の申請を率先した.社会貢献活動において経験豊かでないスタッフに優れたメンターリングや大学管理および大学生活に著しい貢献があり,学問分野/職業分野や地域社会でリーダーシップを発揮した.
Eレベル(教授)
Dレベルの要求に加えて,以下のことが求められる.
教育においてすべてのレベルと該当分野全体にわたり学術的上の教育やリーダーシップの優れた記録を残した.研究・創造活動において優れた成果とリーダーシップを発揮した.とくに,若い研究者に対して大きな資金獲得のイニシアティブやリーダーシップ,知的貢献や研究または創造的活動の特定地域を越えて知的リーダーシップを発揮した.社会貢献活動において大学の管理運営と大学生活,継続研究と研究方針においてリーダーシップに貢献し,学問分野で国際的なリーダーシップが認められた.
自分の大学の,昇任の基準は,知るよしもないのですが,准教授と教授の基準は,これらから大きく異なっていないと思います.研究も教育も,社会貢献も,進めていこうと思うようになりました.
なのですが,研究者の等級というと,過去に書いたことがあります.
初段:与えられたテーマで実験して結果を出せること
研究者の段位,大学教育の慣性の法則(やしゃご引き)
二段:自らテーマをみつけ仮説を立てられること
三段:自分の名前で研究費を獲得できること
四段:独創的な研究を着手遂行できること
五段:研究領域で不可欠な人材となること
六段:研究領域を代表して組織を率いること
七段:独自の研究領域を提案し予算枠を獲得できること
八段:国家の科学技術基本政策を策定遂行できること
日本の研究者が書くと,1行1項目と,簡潔です.その一方で,「四段のところはクリアしたけど,三段はじゅうぶんとは言えない」といった見方もできそうです.
それに対して,クイーンズランド大学の基準だと,Bレベル以降は「(一つ下)レベルの要求に加えて,以下のことが求められる.」から始まります.一歩一歩クリアしていかないといけません.また字数が多く,各レベルの記述と比較できるのも,特徴と言えるでしょう.
物語風,形成的,省察,メンターリング
この本のなかで頻繁に登場するのは「物語風」「形成的」「省察」「メンターリング」です.
当雑記でこれまで考えたことのなかった2項目を,先に取り上げます.「物語風(Narrative)」という書き方に少し戸惑いましたが,事例を見る限りでは,「文章にすること.ただし,図表や,箇条書き,文献の引用は禁止」といった意味になるようです.「省察*2」は,自ら省みること,それができるようにポートフォリオを作るのだと考えれば,これは「作ったら終わり,ではない」ということですか.
「形成的(Formative)」は,その後に「評価」と来ることもありますが,そうでないこともあります.最近,自分なりに形成的評価について表現していました.
次に,形成的評価を意訳しますと,「間違えたっていい」ということです.そして「最終的には,解けるようになろう」というのを,付け加えたいと思います.
毒編
(略)
ところで,「間違えたっていい」「最終的には,解けるようになろう」は,学習者サイドから見た形成的評価のとらえ方であり,教育者サイドからだと,「間違える子がそれなりにいたっていい」「間違いの原因をすぐに見きわめ,児童らに即,フィードバックする」が挙げられます.
(略)
また診断的評価と形成的評価においては,「はじめのうちは,間違ってもいいんだよ」というのを暗に意味しており,これが,教育界で受け入れられやすかった一つの理由であるように思います.
なお,総括的評価となるテストで,間違えたり,その時点でなお正しく理解していなかったといったとき,どうするかというと,そのテストはある意味で総括的評価だけれども,小学校の中,あるいは教育を受けている中では,形成的評価なのだというふうに,評価のスケールを変えることができます.『教育評価 (有斐閣双書)』をご覧ください.
ただし,教育学部の教員や文部省から,学校現場へと,いわば上からの押しつけで広まったというよりは,昭和20〜30年代の教育活動---数学教育協議会の活動も含まれます---を通じて,形成的評価ほかが受け入れられる素地ができていたのではないかと,推測しています.
ポートフォリオ作成における「形成的」とは,学習者サイドからのものとなります.はじめ,ポートフォリオ作成と言われて,どこから手をつけていけばいいのか分かりません.見よう見まねで書いていき,自分の経験や哲学の割合を増やしていきながら,自省し,授業改善を試み,成果を書き連ねていきます.そうしていくと,他の教員のポートフォリオから,自分にないもの・自分にしかないものを見つけたり,より若い教員にアドバイスしたり,できるようになるのでしょう.大学をリタイアすれば,ポートフォリオは改訂されることがなくなりますが,ポートフォリオの充実を,教員生活の主目的とするわけにはいきません.
最後に「メンターリング(Mentoring)」です.当雑記ではあなたもメンターを書いています.とはいうものの,その後はメンターに関する知識が増えていません.学内で,若い同僚と組んで活動をする機会もありましたが,未だ私は大学全教員の中では若手なほう,思うことをぶつけてアドバイスをいただくほうです.