わさっきhb

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第2用法

算数教育に携わっているなら聞いたことがないはずのない,割合の3用法を書きます.「そんなこと考えなくていい.小学2年生の算数だけ考えればいいんだ!」という方とは,ここでさようならです.

  • 割合の第1用法: A÷B=p
  • 割合の第2用法: B×p=A
  • 割合の第3用法: A÷p=B

http://www.shinko-keirin.co.jp/sansu/WebHelp/html/page/52/52_10.htmでは,Aを「もとにする量」,Bを「比べる量」,pを「割合」としています.今年目にした書籍の中では,『整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』p.122にも現れます(ただしその論説の初出は1980年).
「割合の3用法」は「比の3用法」とも言います.CiNiiで知り得た最も古い文献,「比の三用法の指導について」*1を読むと,比の第一用法の中に「A÷B=P」,比の第二用法の中に「A=B×P」が出てきます.ただしなぜか,比の第三用法の関係式は,見当たりませんでした.Bは「もとにする量」で,Aは「もとにする量のP倍にあたる量」,Pは「もとにする量を1とみたときに割合にあたる量」です.算数の語彙をチェックしやすくするために購入した『算数教育指導用語辞典』だと,p.307右カラムの脚注で見ることができました.
3つの用法と,2年・3年のかけ算・わり算指導の関連としては,包含除の拡張として第1用法,整数を対象とした倍概念の拡張として第2用法,そして等分除の拡張として第3用法がある,と理解しています.逆に,3用法を限定した形として,包含除,乗法,等分除のそれぞれを意味付ける,とする考え方でもいけそうです.
《算数解説》はどうかというと,第5学年A3「ア 小数の乗法,除法の意味」(pp.166-167)にありますが,第なんとか用法という名称は用いていませんし,順番も少し異なります.ともあれ抽出しておきます.

  • 乗法の意味: B×P=A
  • 除法の意味1: P=A÷B
  • 除法の意味2: B=A÷P

Bを「基準にする大きさ」,Pを「割合」,Aを「割合に当たる大きさ」としています.
古くは「比の3用法」と呼ばれたこの3つの関係式,発祥が気になってきたのですが,自分の知る限りではまだ,突き止められていません*2
『遠山啓エッセンス』で何度も現れるので,やはり遠山が提唱し,数学教育協議会が展開・普及していったのかと思ったこともありましたが,

(略)こう考えると比の三用法というものは度の三用法,率の三用法というように分けたほうがよいだろう.
(『教師のための数学入門 (現代教育101選)』, p.159.http://books.google.co.jp/books?id=ZaiaqoOG4x0C&printsec=frontcoverより参照可能)

という書き方を,提唱者がするのはあまりにも不自然です.
さらに,昭和23年度の算数数学科指導内容一覧表(算数数学科学習指導要領改訂),第八学年の中に,「歩合,百分率の三つの用法の計算をする」とあます.なのでこのころには,具体的な式は不明ですが,3用法が戦後すぐの中学校数学の指導で使われていたことが想像できます.書き添えておくと,数学教育協議会の発足は昭和26年です.
起源を探るのはこのくらいにして,遠山の著作に目を向けます.さきほどの『教師のための数学入門』で,「三用法」…と言いたいのですが,「第一用法」を調べることで,興味深い記述を知ることができました.

(略)これを「度の第一用法」とよぶことができよう.(略)一般化すると
外延量÷外延量=内包量
という計算である.
(略)
であって,一般的にいうと
内包量×外延量=外延量
である.つまり「度の第二用法」なのである.
(p.173)

そして前にものべたように,度の三用法から始めるほうが指導しやすいだろうと思われる.
度の第一用法は実のところ平均値を求める計算なのである.平均値については今までかなり投げやりに扱われていたが,前にのべたように慎重な計画を立てる必要がある.
第二用法は
内包量×外延量という計算になる.もし乗法の交換法則が連続量にはまだ適用しない方がよいとしたら,これは外延量×内包量とは書かないほうがよいだろう.事実,
密度×体積=重さ
速度×時間=長さ
単価×分量=価格
とは書くが
体積×密度=重さ
時間×速度=長さ
分量×単価=価格
とは書かないし,それはひどく考えにくいだろう.
また第三用法は,外延量÷内包量=外延量 であり,たとえば
重さ÷密度=体積
長さ÷速度=時間
価格÷単価=分量
となるが,これは包含除になる.
(pp.175-176)

興味深いのは2点あります.なぜ第一用法が乗法ではなく除法なのかです.乗法の式にするには「内包量×外延量=外延量」で,外延量は測定すれば求められる*3のに対し,内包量は計算により値を作る必要があり,第一用法は,そのための式である,という解釈ができます.
割合の3用法についても,乗法からはじめるとすると,pすなわち割合とは何かが必要になるけれどもそれは学習者*4にとって理解が容易とはいえず,分かりやすく測りやすい2つの量,AとBから,A÷B=pによりpを計算すれば,その値や,この関係式が,いろいろと応用できるとなって,3用法があの順に並んでいるとみなせます.
上記引用に戻って,もう一つ,上記の「もし乗法の交換法則が」から「ひどく考えにくいだろう」までですが,『かけ算には順序があるのか』pp.38-39でも引用されています*5.後で触れます.
『教師のための数学入門』はその後,「率と均等分布」という小見出しで,率の三用法への検討に移っています.読んでいくと,率の第一用法(除法)ではなく第二用法(乗法)が現れます(p.178).ちょっとややこしそうです.「sg×r」「rg×s」は,遠山啓エッセンス,2度読みでも書き出しました.
含有率に関する議論で,読んでああそういうことなのかと思った本が,別にあります.

大学図書館で,量を対象とした乗除算に関する記述を集中して読みました.なお,奥付に「1957年8月20日発行 1986年3月20日3刷」とあって,えっそんな古くからとびっくりしましたが,「1957年」は「1975年」の誤りのようです.
にわか「かけ算の順序論争」ファンのために付記しておきますと,銀林浩氏は数学教育協議会の委員長をされた方です.遠山啓との共著も数多くあります.「氏」と敬称をつけているのはまだいらしているからで,今年も編著書が出ています.
ここですみませんが,読者の力量を確認させてもらいます.といっても,コメントその他で「知ってるよ」「分からない」と答えていただく必要はなく,あなたの心の中でご判断ください.

2つの量p,qについて p〜q ⇔ q=kp(kは数,≠0)とすると,〜は同値律(反射律,対称律,推移律)を満たす.その同値類を次元といい,量pを含む類を〔p〕または対応する大文字Pで表そう.
(p.90)

上の記述,いかがでしょうか.私はうまいこと考えたなあと思った一方で,これをもし,授業中,もしくは研究ミーティングの余談か何かで,学生に噛み砕いて言ったとしても,すぐには分かってくれないだろうなあという思いがあります.
pとqが「量」となっていて,四則演算に使っていいのか分からなさそうという点に関しては,同書を前からきちんと読めば,説明されています.pやqをベクトルのようなもの,kをスカラーのようなものとみれば,よさそうです.高木貞治に見る数学思想の変遷の「量の現代的定義」を目にして,理解しました.
『量の世界』を読み進めると,外延量,内包量,逆内包量,外延量的内包量などが出てきます.線密度,圧力,気圧,塗装濃度,面積密度,人口密度,物質濃度,発熱量,熱量密度,時間密度,運転密度,時間単価といった様々な分布密度の紹介ののち,§3 濃度(含有密度)へと進みます.
食塩20gと水80gを混ぜて食塩水を作ったら,食塩の濃度は,0.2です.単位付きの式にすると,20g÷100g=0.2g/gです.
あとは書き出しましょう.

食塩水の例では,g/gを略して
r=0.2
となるわけである.
しかし,この数は確かに単位はついていないが,外延量ではなくやはり内包量である.したがって,内包量の第2用法
0.2g/g×xg=yg
によって,食塩水の量xgから,その中に溶けている食塩の量ygを生み出す働きをする.いいかえると,この値r=0.2は,加減に結びついた数ではなく乗除に関連する数である.現に,上の掛け算を,「倍」の乗法の形:
xg×0.2=yg
に書き直すことも可能である.そこで普通,濃度を表す数値rには,「倍」を意味する歩合や百分率をつけて表わす.たとえば0.2はそれぞれ
2分,20%
というわけである.ここで%は
百分率(per cent)=1/100
の略記号である.
(pp.118-119)

「0.2g/g×xg=yg」という式を立てるのに,内包量の第2用法を用いています.一方,「xg×0.2=yg」についてはその根拠が明示されていませんが,比(割合)の第2用法しか考えられません.
このように,単位を取り除けば「0.2×x=y」と「x×0.2=y」となる等式について,それぞれの根拠が,それぞれ異なる「第2用法」にあるということに,驚きを覚えました!
とはいえ…疑問が起こります.量の体系のもとで,そうやすやすと単位を取り除いていいのか,です.これについては直感ですが,単位を取り除く(量の体系のもとで保証された)操作はできそうに思います.
もう一つ,疑問が発生します.「0.2×x=y」という等式からスタートして,「0.2g/g×xg=yg」や「xg×0.2=yg」を得るという操作を,同様に定義できるのでしょうか.無名数の式から,名数による式を与える操作を何か決めたとして,それによって,「0.2×x=y」からは「0.2g/g×xg=yg」だけでなく「0.2×xg=yg」も,「x×0.2=y」からは「xg×0.2=yg」だけでなく「xg×0.2g/g=yg」も,そして「5×3=15」からは「5個/人×3人=15個」も「5個/回×3回=15回」も「5人×3個/人=15個」も,導出できてしまうのでないでしょうか.
できてしまうと…あれとあれです.

児童「先生,「5×3=15」って,バツなの?」
先生「そうだよ.なんでそんな式を作ったの?」
児童「先生,トランプ配りって知らないの? お皿に1個ずつ乗せるのが1回で,5個になって,それを3回やったら,5×3=15って書けるんだよ」
先生「でも「5×3=15」って書いただけでは分からないよね.この式はね,1個のりんごに5枚ずつお皿が乗ってて,そんなりんごが3個ある,って読めてしまうんだよ」
児童「そんなのおかしいよお」

射影

もし,乗法の式で表すにあたり,「一つ分の大きさ」×「幾つ分」でも「幾つ分」×「一つ分の大きさ」でもよいという考え方を,学校教育において認めさせようとするならば,例えば「5×3」という式が「5個ずつ3人に配る」という意味にも「5人に3個ずつ配る」という意味にもなること,言い換えると,一つの式が(ある場面設定の範囲内で)時間の経過や受け取った者に応じて異なる意味に容易になり得るというデメリットと比較して,それでもその採用が適切であることを,学校の先生方だけでなく,教科書などの執筆に携わる方々,学力テストの問題作成者などに対して,働きかけていく必要があるでしょう.

3分で「かけ算の順序」

量における(単位の入った)式から適切に単位を取り除くこと,逆に適切に単位を付与することについて,より深い,数学的な検討が必要に思えてきました.そしてその結果を,日本の算数・数学教育にどう生かしていけばいいのか,乗法の意味理解として各学年で学ぶべきことは何になるのか…まだまだ終わりは見えません.
ただ本日リリースするための情報収集そして検討で,3つの用法,とりわけ,割合(比)または内包量の第2用法の重要性が露わになったと思っています.一つの仮説として,「掛け算に順序がある」原因は第2用法なのではないか,とも考えたりします.比の三用法に焦点を当て,数教協の活動・著作*6より前も含めた数学教育の実情調査も,引き続き行っていくことにしましょう.
ところで,『かけ算には順序があるのか』の著者は,「第二用法」という数学(教育)の土台よりも,社会生活の事例をもとにして,「「ひどく考えにくい」ということもないでしょう」(p.39)と書いています.結果論ではありますが,「かけ算の順序」を追及するなら,交換法則よりも,第2用法を含む3用法のほうではないのかと思いたくもなります*7
ま,現場ではおそらく「内包量の第2用法? 何それ」です.割合の指導では*8「x×0.2=y」(ただし,xとyは数)と書くことになるのだろうなと感じています.
最後にですが問題です.

おなじ おおきさの がようしが 8まい あります.
1まいの がようしから 4まいの カードを つくります.
ぜんぶで 何まいの カードを つくることが できますか.

ここまで読んでいただき,かけ算指導法に関心がある人にとっては,学校で期待される解き方も,別解も,いちいち書かなくて大丈夫ですよね.
小学校2年のかけ算で,連続量を使った「g/g」は無理ですが,「まい/まい」はあり得るという例です.言葉だけで考えると間違えやすく,図を描き,「一つ分の大きさ」と「いくつ分」を見つけていけば,難度は他の《BA型》の問題とそれほど変わりません.
ちなみに問題文はオリジナルではなく,書店でチラ見して買い逃してしまい(電車の中で後悔し),記憶をもとに再構成したものです.
(2020年3月追記)『「子どものために」は正しいのか』のp.124には「ガラス戸が8枚あります。1枚のガラス戸につき、4枚のガラスが入っています。ガラスは全部で何枚あるでしょうか。式を立てて、答えをもとめなさい」という問題が書かれています.

*1:http://ci.nii.ac.jp/naid/110003849155

*2:もう一つあって,各文字の語源です.A = amount, B = basis(またはbase), P = proportion,でいいのでしょうか.ちなみに《AB型》などと書いた件のAとBはそういった意味がなく2つの数で,Pについてはproductです.

*3:測定器の機能・精度への配慮は必要ですが.

*4:児童生徒だけでなく,量の体系を構築しようとする---おそらく本を読みながら---人も.

*5:遠山啓エッセンス〈3〉量の理論』pp.68-69でも読めます.巻末の解説によると,初出は『数学教室』国土社,1960年2月号とのこと.

*6:遠山の著作では,第3用法を包含除に対応させているのが,少々気になります.

*7:「3用法+(量を対象とした乗法の)交換法則」を基礎とする場合にも,一つの単位なしの式から複数の単位付きの式が得られ,数学的な再検討も,そして教育・日常社会への適用妥当性チェックも,しないわけにはいかないでしょう.

*8:比例の関係式として,濃度の0.2を比例定数とみなして「y=0.2×x」と書くことは,現行の算数の範囲でもできそうです.この点については,末の子が小学校を卒業しても,私はかけ算のことを考えているのだろうか(4. かけ算とプログラミング)で検討しています.